それからしばらくした後、作太郎は淹れたての珈琲を持って再び現れた。作太郎はおユキちゃんの分の珈琲も煎れると、三人に向き直る。
 三人はこれから作太郎が何を話してくれるのか、緊張した面持ちで待っている。
「……」
 そんな三人に向き直った作太郎は笑顔で無言だ。その無言の時間はしばらく続き、とうとうしびれを切らしたナカさんが、
「サクさんや」
「何ですか? ナカさんや」
「話す気ないやろ?」
「……」
 ナカさんの問いかけに作太郎は笑顔のまま無言を返す。その笑顔を肯定と取ったナカさんが頭を抱えて、
「サクさん……、話したくないことなんか?」
「話したくないと言うか、何から話せば良いのかと思ってね」
 ナカさんの言葉に作太郎は微苦笑を浮かべて答える。その言葉を聞いたナカさんは、
「分かった! お前とミケ太がいつ、どこで、どうやって出会ったのかを話せ!」
「いつ、どこで……」
 作太郎はしばらく視線を彷徨わせ、何事かを思い出そうとしている様子だ。そうしてしばらく後、作太郎は三人にミケ太との出会いを話し始めるのだった。
 ミケ太との出会いは今から十年前の明治三十二年の東京だった。その頃の作太郎は店を出すべく料理人の修行をしながら貯金をしている毎日だった。
 その日は酷く寒く、雪がちらつく日だった。
 作太郎はその日、普段とは違う帰り道で帰宅していた。家々の隙間を縫うように歩いていた時だ。
(三毛猫……?)
 通路の陰に隠れるように倒れている一匹の三毛猫を見付けた。近寄った作太郎はその猫の様子に驚いた。顔は普通の猫なのだが、尻尾が二つに分かれている。
(猫又……?)
 まさかな、と思いながらも作太郎は倒れている三毛猫をそのままにはしておけず、とりあえず抱えて持ち帰ることにした。抱きかかえてから気付いたことなのだが、その三毛猫の身体は酷く冷え切っており冷たい。
(死んじゃうのかな?)
 そんなことを思いながらも三毛猫を抱きかかえながら家までの道を急ぎ、帰宅してすぐに火鉢に火をくべる。そうして部屋を暖めながら、火鉢の前に座布団をひくとその上に拾ってきた三毛猫を置く。
 しばらくそうやって三毛猫を暖めていると、ピクリと片耳が動いたような気がした。それから全身がピクピクと痙攣し、最後に力なく尻尾をパタンと動かした後、その三毛猫は薄目を開けた。
「腹、減った……」
(あ、喋った……)