そんな形で宿に直行。
 ドワルが用意したぐらいだ、きっといい宿なんだろうな~

「リュウ、本気でティアと勝負する気なのか」
「本気だよ。そうでもしないとティアも討伐を辞めないと思うし、そう言うお前は本気でティアが伝説の存在に勝てると思ってるのか?」
「辞めてくれるなら僕も嬉しい。けどティアが言う事も分かるだろ」
「タイガ、一つ言っておくが俺はお前らが知ってる俺じゃないぞ。あの時より遥かに強くなった」
 タイガはそれでも信じないがまぁ当たり前か、それがこの世界の常識なんだからな。
 ティアは後ろでずっと俺を睨んでくる。
 ギルドを出てからずっとだ。

「ねぇリュウちゃん、今でも遅くはないから勝負なんて止めて仲よくしたら?」
「大丈夫ですよマリアさん。俺、強いんで」
 笑って誤魔化すとマリアさんはため息をつく。
 きっと俺とティアとタイガの再会をもっと良いものにしたかったんだろうな。

「すみません。こんな事に巻き込んでしまって」
「仕方ないわよ。ティアちゃんの話も突然だったし、冒険者としての付き合いがあるのも納得だしね。ただお願い、ティアちゃんの気持ちも考えてあげて」
「分かってます。あいつが俺を心配していってるのは分かってるつもりです。でもティアを伝説の存在と戦わせるのはまだ早い」
「それは私も感じてるわよ。でもこんな勝負じゃなくても」
「問題ありません。昔っから喧嘩は勝負で決着してたので」
 マリアさんも納得は出来ないが仕方なく黙ってくれた。
 言っても無駄だと分かったのだろう。

 そうこうしている内にその宿に着いた。
 ドワルが用意しただけあって随分と豪華な宿だ。
 しかも貸し切りだとか。

「マジでここに泊まるのか」
「泊まるみたいですね」
「俺こんなとこに泊まるのは初めてだ」
「私もです」
 この宿そのものに防御用の魔術も張ってるし、上級の魔術じゃないと突破は難しいだろう。
 解呪するのも時間がかかりそうだ。

「リュウ行くよ」
「田舎者だと思われるので見っともない事はしないでよ」
 ティアとタイガは普通に入っていった。
 どうやら勇者様ご一行は慣れているご様子。
 普通は泊まんねぇよ、こんな宿!
 で、ティア達に付いて入ると意外な奴らがいた。

「ん?」
「おや」
 ドワルとドルフだった。
 何でここに居るの!

「勇者の仲間と勇者に喧嘩を売った蛮勇か、よく来た」
「なぜこちらにドワル様とドルフ様が‼」
「なに今回の喧嘩、我々が取り持ってやろうと思ってな。こちらに馳せ参じた次第だ」
「さすがに勇者を街中で戦わせる訳にもいかないので我々が闘技場を貸そうと思ったのです」
 ティアの質問に答えながら俺を見るドワルは怒りを堪えている顔で俺を見た。
 仕方ないじゃん強制帰国とか言われたらさ。

「勇者の剣舞がどれほどか分からぬが一番強固な闘技場を用意させてもらう。そこで思う存分戦うといい」
「あ、ありがとうございます」
 ………もしかして一番強固な闘技場を用意したのは俺対策か?
 ごめんドワル、多分予想の十倍は強固にしないと守り切れねぇと思うぞ。

「では話は終わりだ。それとくれぐれもこの宿で暴れるなよ、ここは我の宿だ。壊したら……分かるな?」
「分かりました」
「では詳細は後日伝える。行こうかドルフ」
「はい兄上」
 ドワル達が通り抜けるときに俺を睨んだ。
 いやごめん。今度良い素材獲ってきてやるからさ、それで許してくれよ。

 ドワル達が去った後、この宿の支配人が部屋に案内してくれた。
 ティアより俺の事をちらちらと見ているが止めてくれ、俺は理由もなく暴れる類じゃない。
 ただこの支配人は素晴らしい事を言っていた。
 なんとこの宿、混浴場があるんだと。
 後で嫁と一緒に入ろう。

 で、何故か貸し切りなのに大部屋でベッドが四つある部屋に入った。
 大部屋と言っても一番高い部屋の様で、まるで家みたいだった。
 さすがに龍皇国の部屋には劣るけど家具もお高そう。

「大部屋って聞いた時はケチだと思ったけどこれじゃあ文句言えないな」
 家みたいな部屋にはベッドルームが四つ、一人一部屋使えるので文句はなしだ。
 ベッドもキングサイズ?と言うのか、一人では持て余すぐらい広い。
 流石ドワル!良いとこ泊まらせてくれたな~

「リュウいるか?」
「ん?どうしたゲンさん。飯の時間か?」
「違う。勝負の事だ。武力なんだろ?」
「多分ね、それが問題なんだよな。圧勝したら勇者の名を傷付けるだろうし、かと言って適当に負ける訳にもいかないし」
 結構面倒なんだよな。

「正直リュウが負けるところなんて想像できないが、どうする気だ。勇者が負ければ諸外国からの支援がどうなるか分からん」
「大人の事情だな。でも所詮野良試合だろ?そこまで大事になるか?」
「する奴はするんだよ。てめぇの利益目的でな」
「面倒臭いな。何なら俺がティアを保護してやろうか?」
「ライトライトが手放すと思うか?今はお嬢ちゃんのおかげで各国から支援を受けてる国だぞ」
「手放す訳がねぇな」
 決闘一つでここまで面倒とは、さすが世界の希望。
 ライトライトも随分とティアで儲けてるみたいだし、でも強制帰国は嫌だな~
 すると部屋に備え付けられていた水晶が光りだした。

「あれ何?」
「通信用の水晶だ。リュウが出ろ」
「え、使い方とか分かんないんだけど」
「水晶の上に手を置いて魔力を少し流すだけでいい。流しすぎて壊すなよ」
 言われた通りにやってみると誰かの顔が水晶に映し出された。
 しかもその顔はドワルだった。

『やっと出たか。おいリュウ!これは一体どう言う事なんだ‼国中がお前と勇者の決闘で話が持ちきりだぞ!』
「いや~ごめんごめん。こっちにも事情があってさ」
『最初から説明してもらうぞ』
 そんな感じでドワルに説明した。
 強制帰国から始まった俺とティアの喧嘩の事を。

『なるほどな。勇者の頭は固い様だな』
「ま、事情を知らない側から見れば当然かもしれないけどな」
『確かに、勇者の言いたい事は解る。しかしお前の実力を知っている者からすればおかしな要求だがな。それでどうする?負ける気はないのだろ』
「ないよ。でも力の配分が難しくてさ、ティアが他の国に馬鹿にされない様に勝つってどうすればいいんだ?」
『諸外国には我々は知らなかったと言うつもりだが、旅人や冒険者達を通じて耳に届くだろうな。そればっかりはどうにもならん』
「ついでに俺が『調教師』ってのも厄介だな。引き分けにしたとしても調教師とかよ!って絶対言われる」
『何か卑怯な手を使った、でも意味はないか。負けは負けなのだから』
 俺が調教師だと言うのを信じずに他の職業だと誤解してくれるかは運次第だし、どうなるかは分からない。
 そのままうのみに勇者が調教師に負けたと話が広まればティアだけじゃなく他の勇者パーティーにも迷惑がかかる。

「う~ん。八百長しようにもティアは嫌がりそうだしなぁ」
『ではいっその事圧倒的な力で勇者を倒すのはどうでしょう』
 ん?アオイ?
『あまりに現実離れした話なら誰も信じません。それを利用し、勇者には一撃で倒れてもらいましょう』
 それって本当に大丈夫なのか?
『私としては決闘で手を抜く事や、八百長そのものをしようとしている事が分かりません。それにリュウ様が勇者に力を見せ付けるにはそれが早いかと』
 う~ん。一応すじは通ってるか?

『八百長など互いの合意がないと意味がないではないか』
「なぁドワル。俺がティアを一撃で倒した場合はどうなるかな?」
『何?』
「いや、アオイからの案だったんだけどその場合はどうなる?」
『……おそらく話しても誰も信じないだろうな。たとえ記録されていたとしても加工したと言われる方が圧倒的に高い。なるほど盲点だった』
「なら作戦は『勇者を一撃で倒そう作戦』で良いか?」
『何てネーミングセンスしている。だがまぁそういう方向で行こう。ちなみにリュウは一撃で勇者を気絶させる事が出来るのだろうな?』
「むしろその一撃で死なないかが心配」
『………絶対に頭と心臓は狙うなよ』
「了解。それと刀の方はやっぱり時間掛かっちゃいそう?」
『闘技場などの手配は他の者に伝えてある。俺達は刀の製作に力を尽くす』
「良かった。なら刀の方もよろしくな」
『ああ。任せておけ』
 こうして通信は切れた。
 こうなると力加減を練習しないと。

「全くとんでもない作戦だな。お嬢ちゃんを一撃で倒すのが作戦とは」
「なぁゲンさん。いい練習相手っているかな?」
「俺は断る」
「だーよね。仕方ない、国の外でこっそり練習するか」
「それと今の話は言わないがお嬢ちゃんにリュウの情報を話すために一度女子部屋に行く」
「了解。思いっきりガードしてくれるように少しオーバー気味で頼む」
「……必要ないと思うがな」
 そう言って部屋を出て行ったゲンさん。
 そう言えばリル達の飯どうしよう。