そんな感じで色々あったがようやくフォールクラウンの扉が見えてきた。
 相変わらず門の前には大勢の人が並んでいる。

「やっと着いたな」
「そうですねリュウ様」
「身体中が痛いです」
「次はあの列に並ばないといけないがな」
「皆さんすみませんが荷馬車は別の場所に置かなくてはいけませんので一度降りてください」
 俺、アオイ、アリス、ゲンさんそして最後にマークさんが言った。
 リル達も俺の中から出て扉を見ている。
 マークさんが荷馬車を置いてくる間に俺たちは列に並ぶ。

「私、フォールクラウンには初めて来ましたが、亜人の他に人間もたくさんいますね」
「フォールクラウンは鉱山都市としてだけじゃなく商業大国としても有名だからな。ここには自然と多くの商人も来るんだと」
 マークさん受け売りの言葉でアリスに説明する。
 そう言えばアオイは人型のままだけど大丈夫かな?一応俺の従魔にはなってるけど大丈夫だよな?
 前にもリルとカリンが人型で人前に出たこともあるし説明すれば大丈夫だと信じたい。

「それにしても皆お前の方を見てるな。少し調べたが随分と国王に好かれてるじゃねぇか」
「やめてくれ。俺はただの調教師、ただ単に希少《レア》な素材を持ってくるだけの男だよ」
「え、リュウさんってこの国の国王様と仲良いんですか?」
「別に、ただ希少な素材で武器と鎧作ってくれって頼んだだけの仲だよ」
 実際にそれ以上の関係はない。
 そりゃ鍛冶師としての腕は信頼しているが、国王としてのドワルの顔を見たのは数回だけ。国に関することに俺は突っ込んでない。

「もしドワルの政策に関することで俺越しに頼まれても、俺は何も出来ないからな」
「そうですか、できれば勇者様の剣を作って貰える様に頼んで欲しかったのですが」
「確か勇者にはお抱えの鍛冶師がいるんだろ?腕の良し悪しは知らんけど」
「腕は良いですが工房に居ない事の方が多いそうです。素材は自分で採ってくるって」
 なるほど、腕は良いが素材は自分で採ってくるタイプか。
 おかげで工房に居らず困っていると。

「さすが勇者パーティーの鍛冶師、まさに戦う鍛冶師の名に相応しい」
「おかげで俺が連れ戻しに行く事も多いがな。あの野郎、平気で危険地帯に行きやがる」
 はっはっは。マジでキャラが濃いな勇者パーティー。

「お待たせしましたー」
 そんな会話をしている内にマークさんが帰ってきた。
 マークさんが来て今までの話をすると、俺がどのぐらい商人に嬉しい事をしてきたか語りだした。
 カリンの羽の事や、あの鎧に包まれた鳥を卸した事など、色々言ってきて少し恥ずかしくなる。

『リュウ、私達はこの姿でいいのよね』
『前に人の姿になったけどこのままでいいの?』
『問題無いはず。むしろ心配はアオイの事かな』
『大丈夫でしょう。こちらに向かってくる者が解決してくれると思いますよ』
 そう言えばこっちに誰か向かってくるな。
 その方向を見ると前に会った詰所の人が走って来た。

「リュウ様!お久しぶりです。今回はどのようなご用件でしょうか」
「お久しぶりです。今回は武器の手入れとまた武器を作っていただきたくてこちらに参りました」
「そうでしたか。ではこちらに」
「あの、今回は俺だけじゃなくて他にも人がいまして」
 突然来た詰所の人を見ている皆、その顔を見て詰所の人は言った。

「リュウ様のパーティーメンバーと言う事ですね。では皆さんもこちらに」
 なぜか優先的に通された俺達、何でこうなった?

「えっと、なぜ俺たちを優先的に?」
「国王からのお達しです。リュウ様を優先的に通せと」
「ちなみに理由は」
「……どうせレアな素材を持って来ているだろうから、と」
 まさかこんな形で優遇されてるとは思ってなかった。
 それとも受付で起こる混乱を避けるためか?
 いや、やっぱりドワルの欲だろうな。

「やっぱりリュウさんは国王と仲がいいんじゃないですか」
「ここまで規格外だともう驚けなくなってくるな」
「リュウさんのおかげで楽ができました」
 三人とも感覚がマヒしてるぞ。元の常識人に戻ってくれ。

「パーティーメンバーの皆様はカードの提示をお願いします」
 そういってカードを出す俺以外の三人。
 俺も出すがアオイの事は何て言おう。

「あの、この女性は俺の従魔なのでカードを持ってはいないのですが……」
 詰所の人に言うと。
「ならリュウ様のカードから確認を取らせていただきます。アオイ様でお間違いないでしょうか?」
「はい私です」
「では問題ありません。リュウ様、国王が真っ直ぐこちらに来いとのお達しです」
 あっさりと終わった検問、それでいいのかドワル‼

「分かりました。悪いな皆、ちょっとドワルに会ってくる」
「国王を呼び捨て」
「普通なら不敬罪でとっ捕まってるぞ」
「では宿を探しておきますね」
 マークさんの不動のマイペースが羨ましい、他二人なんて呆然としてるぞ。
 そんな感じで仕方なくドワルの城に行く事になった。
 会ったら文句言ってやる。


「おい!ドワル!突然呼び出して何の用だ」
 いつものごとく謁見の間、そこには二人のドワーフ、ドワルとその弟ドルフが居た。

「どうしたいきなり怒鳴って。俺は何かしたか?」
「兄上、きっと勇者に言ったあの事では?」
「それもだそれも!あとなんで俺だけ優遇されてる形になってるんだよ!目立ちたくないって言ったじゃん!」
 周りの騎士も困惑しているような雰囲気が出ている。

「仕方がないだろう。お前が普通なら一生見る事のないはずの素材ばかり持ってくるのだ。なら混乱を起こさず持って来させた方がいい。そして今回はロウの整備と武具の製作を頼みに来たとか」
「色々突っ込みたい事はあるがまぁいい。今回の依頼はドラゴンの爪を使った刀の製作を頼みたい」
 俺はアオイの爪を出しながら言った。
 およそ長さは90㎝、この長さなら刀という武器が作れるはずだ。
 ドワルとドルフが玉座から降りてきて手に取ってじっと見る。

「これは……確かにドラゴンの爪だが初めて見る」
「確かに確かこのサイズの爪だと、中型から大型のちょうど中間あたりのドラゴンの爪のようですね、兄上」
「だがこれは恐らくかなり特殊なドラゴンのようだ。特殊な進化をしたドラゴンの爪……」
「水龍に近いしなやかさと、火龍に似た攻撃向きの爪。これはいったいどのドラゴンの爪でしょうか?」
 爪一つでアオイの本来の姿を予想してくるとは、流石ドワルとドルフ、この二人の目は誤魔化せないな。
 俺が何のドラゴンの爪かを言おうとした時、後ろからアオイが出てきて言った。

「その爪は私の爪ですよ、ドワーフ王」
 俺は気付いていたが、他の騎士達は気付いていなかったようで、慌てて武器を構えた。

「止めろ!武器を下げろ!あれには勝てん‼怒らせるな‼」
 ドワルの怒声に騎士達は武器を下した。
 襲い掛かる様な事はしなかっただろうけど、武器を突き付けられて良い気分はしないからな。
 武器を下げたのを確認して、アオイがドラゴンの女王としての顔を見せながら言った。

「私はティアマト、リュウ様と魂の契約をしたドラゴンの一体です。それとも蒼の女王、と言った方が伝わるでしょうか」
 その言葉に周りの騎士達から鎧が擦れる音がした。
 ガチャガチャと音が止まらない。
 その音に気にせずアオイはドワルとドルフを見る。
 一度ドワルが息を整えるとアオイに言った。

「まさかドラゴンの女王である貴女様の爪だとは分かりませんでした」
「私の姿を見た者そのものが少ないのです。仕方がありません。それで私の爪で本当にリュウ様の武具を作ることは可能なのですか?」
「その、図々しいお願いかと思いますが。そのためには貴女様の炎が必要となります。炎を頂けますか?」
 完全にドワルが下になっちゃったな。
 後で文句言われそう。

「では何か燃やすものを、リュウ様のため炎を与えましょう」
「ありがとうございます。おい、松明を持ってこい」
 遠くで震えていた人に言うと、その人は逃げるように行った。

「アオイ、ちょっとやり過ぎじゃない?」
「そうでしょうか?リュウ様をまるで下に見るような態度が目に余りましたので」
「俺達の関係はそれで合ってるの。オウカまでビビってるぞ」
 謁見の間の入り口あたりで震えている小さなドラゴンが一体いた。

「確かに少しやり過ぎたようですね」
「だからその不機嫌なオーラも抑えてくれ」
 ようやくオーラを抑えてくれた。
 アオイの怒りスイッチは危険過ぎる。
 程なくしてさっき走って行った人が松明を持ってきた。
 ドワルはそれを受け取ってアオイに差し出す。

「お願い致します」
 アオイは松明を受け取って息を吹き掛けるように松明に火を灯した。

「これでよろしいでしょうか」
「ありがとうございます」
「ではリュウ様参りましょう」
「あ、俺は少し気になるから鍛冶を見てから行くよ」
「承知しました。では後でお迎えに参ります」
「ありがとうアオイ」
 アオイは一つ礼をすると堂々と出ていった。
 震えてたオウカを連れて。
 その姿を見送るとドワルとドルフが俺を見て怒鳴った。

「「大物を仲間にし過ぎだ(です)‼」」