盗賊を倒して進む俺達、馬も落ち着き再び走り出す。
 俺は馬車の中でさっきの魔術を放った感覚を振り返っていた。

 ダハーカの魂が修復されてきている事によって様々な魔術に関する知識を引き出せるようにはなったが、あくまでもダハーカの知識から得ただけで実際に使う感覚的なものは全くない。
 これからは魔術を使う感覚と経験も必須になってくるだろうから今のうちに慣れておかないといざと言う時に使えない。

「リュウさんって魔術も使えたんですね」
「ん?まぁ一応な。もともと生活を助ける程度でしか使ってなかったけどこれからは魔術戦も仮定して慣れていかないと」
「いや、あれだけできれば十分だろ」
 アリスとゲンさんが言ってくるがまだまだだろう。
 だって攻撃のために使ったのは今回が初めてだし。

「確かにまだまだ不慣れな感じでした。リュウ様、これからは魔術を中心に修練いたしますか?」
「……いや、まだいい。魔術を習う時はダチに頼みたい」
「…………あの方に教えを乞うのは構いませんが、あまりやり過ぎないようにお願いします。リュウ様はあの方より魔力量が多いのですから」
 アオイがどこか不安そうに言ってくる。
 多分俺がダハーカから魔術を習った時にとてつもない災厄が来るとでも思っているのだろうか?
 でもやっぱり魔術は習っておきたいよ。
 ダハーカが回復系の魔術を使ってるのは見たし、あれならリルやカリンが傷ついた時に使える。
 ……まぁ、そんな相手は魔王ぐらいしか思い付かないけど。

「ダチ?リュウさんに魔術が得意なお友達がいるんですか?」
「いるよ。と言っても喧嘩した後だからそいつはまだ療養中だけどな」
「療養中、いったいどんな喧嘩したらそんな大怪我させるんですか」
「いやだって、あいつ本気の魔術をとにかく撃ちまくるし、接近戦では付加術で応戦してくるしで、俺も大怪我したんだからな。あの時はマジで死ぬかと思った」
 そう言ったらアリスとゲンさんが固まった。
 あれ?特にダハーカだって証明するようなことは言ってなかったよな?

「リュウさんを大怪我させた、死にかけさせた?」
「どんな魔術師だよ!?どこかで怒らせて大暴れしたら国が一つ滅ぶぞ!」
 あれ!?そっち!

「待て待て、今は療養中だって言ったろ。お前らが想定しているよな事はしばらくは大丈夫だって」
「そ、そうでしたね」
「リュウ、頼むそいつが元気になっても目を離さないでくれ」
「わ、分かったからその手を離せって」
 アリスはほっとしたように、ゲンさんは俺の肩を掴んで本気で言ってくる。
 確かにあの伝説の邪龍が暴れたら国ぐらい簡単に滅ぶだろうな。

『リュウ、その友達が目覚めかけているのを忘れないでね』
 久しぶりにウルが声をかけてきた。
 分かってるよ。その時はダチとして止めるって。
 そう簡単にはいかない事の方が多いかも知れないけど。

「ちなみにそのご友人がどこで療養しているか教えてくれないか」
「嫌だよ、情報部に言うのは。絶対暗殺しに来るに決まってる」
「そんな危険な存在に喧嘩売るわけがないだろ。監視を付けるだけだ、そんな事して逆に国を滅ぼされちゃ構わねぇよ」
「それでも言わん」
 だって俺の体内にいるし、どの国にもいねぇよ。
 あと俺を重症に追い込める=国滅ぶって思考は大丈夫か?
 俺が国を簡単に滅ぼせる存在みたいに言うのは止めてくれ。
 ダハーカを倒せたのは皆の協力があっての事だし、俺一人だったらとっくに死んでるよ。

「とにかくそう滅多に人が居る所に行くような奴じゃないし、多分大丈夫だろ」
「本当なんだろうなそれは」
「あいつは基本、自分より弱い奴と喧嘩しないから」
 はい、この話は打ち切りでーす。
 ぼろが出る前に話を終わらせまーす。

 無理に打ち切った事でさらに不審な目線を浴びる事になったが、ダハーカは本当に弱者を虐めて楽しむような奴じゃない。
 ただ純粋に戦いが好きなだけで、ただ純粋に力比べがしたかっただけで、ただ強過ぎただけ。
 もしかしたらあいつは自分が強くなり過ぎて後悔した事があるのではないだろうか?
 最後に見たあいつの顔は満足そうに見えたが、まさかダチになろうって言った言葉にだったりしてな。
 …………ありえないか。
 どう見ても戦闘狂だったし。

 少しダハーカを思い出して笑うとか俺ものんきだな。
 ……もうすぐ会えると思うと、早く会いたいと思ってつい笑っちまうのは何でだろう。

 馬の関係でまた少し休憩になったとき、俺は下級の魔術の練習をしていた。
 上級になればなるほどその制御は難しくなるし、その制御のために必要なのは、基礎から魔術を使う感覚、そして集中力。

 魔術は基本自然現象や『悪魔』が使用する魔法を模倣したものらしい。
 随分と大昔の話らしいが、悪魔を召還したとある権力者が、自国の知恵者に魔なる術を教えるように契約したのが始まりだとか。
 それより前の魔術師は精霊使いと呼ばれ、精霊と契約できた者の事を指す言葉だったらしい。

 精霊魔術は自然現象を利用した物のみだが、魔術は呪術、付加術のような、直接人体に影響のある術を中心に悪魔から習った。
 そこから精霊に頼る事もなく現象を操るものが、魔術師と呼ばれるようになった。
 その力を発動するに必要なものこそが魔力。
 生まれつき魔力の弱い者は大した魔術は使えないし、魔力が強い者は大きな魔力を使って大技を出せるという事だ。

 結局その人間に知識を与えた悪魔は、今となっては不明だが、おそらく相当な物好きなんだろうなと思う。
 悪魔から見れば人間なんて弱っちい存在に術を教えた程だ、きっとお人好しか、相当の物好きだろう。

 そして魔術に必要な物の話に戻ると、魔力の他にどうしてそうなるのか、という知識が必要らしい。
 魔術に知識は必須で何も知らない人間に魔術は使えない。
 どうして火が起こるのか、どうして水が湧くのか、どうして風が吹くのかを理解できていないと使用できない。

 実際にさっきの戦闘で一番しっくりきたのは付加術だ。
 付加術は生物の筋肉、骨格、臓器など詳しく知っていないといけない術だ。
 俺は元々『調教師』と言う生物をよく知る職業だったので納得する。
 しかし、付加術を極めようとすると、完全に近距離戦闘特化になりそうなので、そうなったら俺は脳筋の烙印を押されることになると思う。

 さすがに何でも出来るオールラウンダーになれるとは思ってないが、でもちょっとぐらいは長距離戦闘も出来るようにはなりたい。
 そう思って付加術の他に得意な魔術を探しながら修業中。

「アオイさん、リュウさんはどこまで強くなれたら満足するようになるんでしょうか?」
「……難しい質問ですね。リュウ様は時折り自身の事を過小評価してしまう事があるようですので、恐らく一生満足する事はないのではないでしょうか」
「マジかよ。あの初級魔術もかなりの威力だぞ。いったいどれだけの魔力を込めてんだ?」
「ゲン様、仕方ありませんよ。リュウ様は常に自身より強敵と戦うことを想定しています。どうしても力が入ってしまうのでしょう」
「あの、このままリュウさんが魔王になったりはしませんよね」
「おそらくですが、それも視野に入れているのではないでしょうか?以前、リュウ様が私に権力について聞いてきた事がありましたが、それが我が国の事ではなく、自ら国を興すとなればその時はおそらく」
「あんな魔王となんて戦いたくありませんよ隊長」
「お嬢ちゃんでも多分負けるな。手を出さずに監視だけしておくべき存在だ」
「ふふ、リュウ様は勇者様とは逆ですね」