明けてまた旅は始まった。
 アリスは最後の見張りをしていたせいか、今は馬車の中で寝てる。
 よくこんな揺れる馬車の中で寝れるなと感心してしまった。

 ゲンさんは馬車の中で腕を組んでどこかに連絡中のよう。
 アリスも使っている道具で誰かと話をしているようだ。
 まさか俺の事じゃないよな?

 今ティアに会うつもりはないし、面倒事になるのは目に見えている。
 最低でもリル達が居ない状態にならないと会う訳にはいかない。

 ティアと会う事を想定して考えながら馬車に揺られて早四日、ようやくフォールクラウンまであと半分のところまで来た。
 今いる場所は岩場の多い場所。
 見晴らしも悪く、小さな石も多くある荒れた土地だ。

「やっぱなげーな。ようやく半分かよ」
「確かに長いですよね」
 アリスが同意してくれる。
 ずっと馬車の中に居たせいか身体中が痛い。
 身体のあちこちが悲鳴を上げている。

「スピードだけを考えるのでしたら、やはり大森林を抜けた方が早いですね」
「アオイさん、その場合私はきっとどこかで食べられちゃってますよ」
「もっと言えば俺がアリスを連れて行くって言わなきゃよかったんだよな」
「リュウさん!そんなこと言っちゃダメですよ!私だけ置いてけぼりなんで寂しいですよ」
 アリスがしょんぼりしているので俺はこう返した。

「なら鍛えてやろうか?」
「リュウさんレベルになるってどのぐらい時間が必要になるんでしょう?」
「安心しろ、生死の狭間を軽く何度か彷徨ってる内に強くなってるもんだから」
「そんな危険な事はしたくないです!」
 そりゃ当然か。
 普通は嫌だよな。
 でも俺はそうやって強くなってきたし、効果だけは保証するぞ。

「リュウが強くなった修業か、俺は興味あるけどな」
「隊長、あのリュウさんの修業ですよ!隠れるのが得意なだけの私達に死ねと!?」
 あの日以降アリスは普通にゲンさんの事を隊長と呼んでいる。
 次の日には普通にばらしたし、ただ街中とかでは隠してくれればいいとだけは言われた。

「ちなみに修業内容はどんな感じなんだ?」
「ん?そうだな……まず実力を知りたいからコカトリスをソロで狩ってもらうか」
「…………いきなりハード過ぎねえか?」
「やっぱり?でも俺それをクリアできたから生きてるわけだし」
 爺さん達の事は話せないがこのぐらいなら大丈夫だろ。

「……本当に最初から調教師だったんですか?」
「今も昔も調教師一筋です」
「流石リュウさん。規格外ですね」
 アリスは呆れているし、マークさんは笑ってる。
 ま、コカトリスがダメなら他にも魔物はいるから問題ないけど。

「その後はひたすら生き延びる事だな。魔物を狩って食って、逃げて寝て。そんな感じかな?」
「ちなみに何処でするんだその修業」
「もちろん食糧豊富な大森林で」
「…………」
「隊長、これがリュウさんです。真似しちゃいけません」
「しちゃいけないと言うよりは、真似できないの方があってると思うけどな」
 乾いた感じに笑うアリスとゲンさん。
 やっぱり無茶だよね。
 俺もよくリルの腹で寝てないと落ち着かなかったし。

「寝床だけは確保しとくから安心しろ。案外住むと美味い肉とかたらふく食えるから」
「魔物は安全に皆で狩りましょう」
 アリスは完全にやる気なし、アリスが言う事も一理あるけど。

「それじゃ皆さん出発しますよ。それからリュウさん、この辺は魔物ではなく盗賊が現れることの方が多いので注意してください」
「了解。ま、魔物よりは雑魚だろうし大丈夫だよ」
 マークさんはその言葉を聞いて軽く笑った。
 アリス達も笑い出す。

 しばらく馬車に揺られながら雑談をしていると少し気配があった。
 気配から察するに相手は人間数は……多くて二十人ってとこか、奴らの目線は荷車ではなく馬を狙っている。

「リュウ、こりゃ来たな」
「あれ、分かったんだ。マークさん、おそらく盗賊が来ます。数は二十人程、危険なので荷台の中に。アオイ、馬の操縦出来るか?」
「馬術は淑女のたしなみです」
「なら頼んだ。あと奴らは馬を最初に攻撃してくる可能性が高いから魔術を掛けとく」
 馬に防御系の付加術を掛けおく。
 これなら吹き矢や弓から守れる、あと魔術防御も掛けておいた。
 この光景を見ていたゲンさんが俺に言った。

「おいおい、盗賊の中に魔術師がいるのは稀な方だぞ。しかも何の魔術を掛けたんだよ」
「掛けたのは物理系防御魔術『キャッスルアーマー』、魔術系防御魔術『アンチマジックアーマー』の二つだけだ」
「いや、十分過ぎるだろ。これから何と戦うか分かってるよな?どう見てもやり過ぎだ」
「念のため念のため、詳しく知らない相手ならちょっとやり過ぎた方がいいって」
 それを言うと「納得はしないがいいか」と言っていた。
 アオイとマークさんが馬の操縦を代わり少しした後、馬に向かって矢が飛んできた。

 馬の胴を狙って放たれたが矢は俺の魔術で防ぐことは成功したが、馬はパニックになりアオイが必死に馬を操り落ち着かせようとする。
 その間に短剣や剣を持った連中がわらわら出て来た。
 俺とゲンさんは既に荷台から降りて迎撃準備についている。

「ところでゲンさん。対人戦の経験は?」
「ほとんど暗殺ばっかりで正面から戦うのはあまりないが、この程度なら問題ないだろ」
 ゲンさんはダガーを構えて敵を見る。
 流石勇者パーティーの一人、この数でも全くビビらない。

「なら俺も少し本気を見せてあげっかな。たまには狩りをしないと腕が鈍る。」
 俺は特に構えない。
 手をズボンに入れたままのんきにいる。
 敵さん達は確実にこちらを囲んでから攻撃するつもりのようでまだ攻撃は来ない。
 そしてがたいのいいおっさんが一人出てきた。

「やれ」
 一斉に襲って来る盗賊達、今回は覚えたての魔術で殲滅してみるか。
 まずは基礎の攻撃魔術からいってみよう。

「『ファイヤーボール』『アイスランス』」
 ファイヤーボールで一人焼き、アイスランスで直線上の盗賊二人を貫いた。
 盗賊はこちらを一斉に見るが構わず次のステップに移行。

「『アイスフィールド』」
 アイスフィールドは広範囲で相手の足元を凍らせる魔術、俺には魔力探知があるので間違ってゲンさんの足を凍らせる事はないが普通は敵味方関係なく凍らせる少し癖のある魔術。
 上手く使えば便利だと俺も思うんだけどね。

「おいリュウ!余裕見せてないでさっさと倒せ!」
 なぜかゲンさんからお怒りを受けてしまった。
 そう言うゲンさんも相手が動けなくなって楽に倒せるようになったくせに。

「はいはい!ちゃんとやりますよ!」
 なら広範囲型攻撃魔術を見せてやるよ。

「あの魔術師を殺せ!」
 敵さんが俺に攻撃するつもりのようだがもう遅い。

「『アイスグレイブ』」
 地面から生えるように生み出された氷の剣が生きている盗賊全てを刺殺した。
 地面が凍ってないと発動できない魔術だがさっきしたアイスフィールドで地面は凍っているので後は発動するだけだったのでとても楽だった。

「はいお終い。ゲンさん無事か?」
「むしろ今の魔術に殺されるかと思ったぞ!突然俺の足元から氷が伸びて突き刺したんだからな!」
「悪いな、言う暇がなくてつい」
 あはは、と目を逸らしながら笑う。
 こうして盗賊を倒して次に向かう俺達だった。