隊長さんこと、ゲンさんをマークさんに紹介してめでたく仲間入り。
 ゲンさんが乗ってた馬も馬車に繋いで馬力が二倍になった。
 もともと一匹しかいなかったけど。

「ゲンさんはどこまで旅をする予定で?」
「いや、風の向くまま気の向くままってやつで特にどこに行くとかは決めてねぇんだ。ちなみにリュウはどこまで行くんだ?」
「俺達はフォールクラウンまでだ。武器の手入れをしてもらいにな」
 馬車の中でお互いのことを喋りながら旅は続いた。
 ゲンさんの馬はさっきの全力疾走で疲れていた分早く休憩になった。
 俺はゲンさんの馬を触診しながら状態を確認する。

「リュウは本当に調教師なんだな」
「そのセリフ今日で二回目だよ。なんで皆信じられないかな?」
「当たり前だろ、フォレストタイガーを威圧だけで追っ払うとか英雄クラスにしかできねぇよ」
「俺は『調教師』だからな。野生動物相手ならどう脅せばいいかわかんだよ」
「ほー、それじゃさっきはどうやって脅したんだ?」
 ……あまりネタバレはしたくないが仕方ないか。

「まず大抵の動物は自分より大きな生物に襲わない。体格差も十分に武器になるからな」
「いや、どう見てもタイガーの方が大きいと思うが?」
「そこを威圧を利用して身体を大きく見せるんだよ。もっと分かり易く言うなら威圧を幻影のように見せて自分の体大きく見せる、これがさっきやった威嚇」
「他にもあるのか?」
「もっと分かり易いのは音だな。大きな音が不意打ちでくれば皆ビビるだろ?」
 細かく言うと生物によって色々あるがそれだときりがないので割愛する。

「それも調教師だから気付けるもの、か」
「動物相手ならある程度はどうにかできる。出来なきゃ半人前だ」
「それは人間でもか?」
 ずいぶん分かり易い質問をするな。

「当たり前だろ。人間だって動物、やりようはある」
「ったく平然と言うセリフじゃねーぞ」
 呆れるように言ってるが仕方ないだろ、サバイバル生活が長かったんだから。

「マークさん!ゲンさんの馬の方は無理だ!さっきの走りで少し無理がきてる!」
「そうですか、仕方ありません。今日はここで泊まりですね」
 少しため息を付きながら野営用の荷物を降ろし始めた。
 どうやら予想はしていたらしい。
 野営といってもまだ日は落ちきってないし、むしろまだ明るいぐらいだが仕方ない。
 なので夜の見張りの順番を決めながら晩飯の準備をした。
 意外と手際のいいゲンさんに理由を聞いたら。

「一人旅が長いから自然と出来るようになった」
 と言っていた。
 俺のサバイバル生活に調理器具が無かったため料理の腕は上がってない。

 あとからアリスに聞いた所、ゲンさんは基本一人で任務をこなす事が多く大抵一人だとか。
 おかげでお給料もいいらしいが本人は少し寂しがってることもあるらしい。
 どことなく皆で話をしてるのが楽しそうに見えたのは間違いでは無いよう。
 今もアオイと話をしながら飯を作っている。

 その隣ではアリスが何かメモを取っていた。
 盗み聞きをするとアオイの飯を作れるようになりたい様で、色々聞いてる。
 ちなみにリル、カリンは完全に食べる専門。
 オウカは意外と料理の基礎はアオイに叩き込まれたらしく、簡単なものなら作れるとか。

 俺は暇なので森で食料探し。
 荷馬車に積んでいた食料では心許無いので木の実や小動物を中心に集めていた。
 今日捕れたのは木の実の他にウサギと蛇だが……皆食うかな?

 そんな事を考えながら持って帰ったらアリスが悲鳴を上げて逃げ出した。
 特に蛇を見て。
 しかしウサギは普通に食えるらしいので蛇は逃がしてウサギを捌いていく。
 捌かれていくウサギを見てアリスはなぜか目を逸らしていたがとにかく今日の飯は出来た。
 ちなみにウサギの皮はマークさんが欲しがったのであげた。

「アオイさんの料理本当に美味しいですね!」
「ありがとうございます。ゲン様」
「様なんて止めて下さいよ。俺はただの旅人ですよ」
 アオイの笑顔に顔を赤くするゲンさん。

「ゲンさん、火傷すんなよ」
「うるせぇ!今は大人の時間だ!」
 だってアオイはドラゴンだから強い人じゃないとゲンさんが望むような関係にはなれねぇよ。
 まぁ人間の身じゃ無理かもしれないけど。

「あの、いつ頃話した方がいいですか?」
 アリスが何か聞いてくる。

「何を?」
「ですから、その。私達が、ゲンさんの事を知ってる事です」
 ああ、その事か。

「それはお前から言えよ。今晩の見張りの交代の時にでもさ」
「それでいいでしょうか?」
「さぁな。向こうから勝手に話しかけてくると思うけどな」
 情報の共有のために向こうから接触してくるのは十分に考えられる。
 だから無理にこの場で話す必要はないが。

「あぁ。何て言えばいいんだろう」
「いざってときは俺に無理やり情報引き出されたとでも言っとけ。それで充分」
「……すみません」
「いいって、まさか付いて来るとは俺も思ってなかったし」
 飯を食い終わってから答えるとリルが体を擦り付ける。

『身体綺麗にして』
『了解』
 リルは最近俺にブラッシングを頼むようになった。
 俺の体内にいる間は汚れないようだがマッサージとしての意味でも最近頼まれている。

 早速俺はブラッシングを始める。
 まずは手櫛で大きな汚れや毛を取り除く。
 そのあと簡単な水の魔術で細かい汚れを洗い流す。
 最近は夏毛から冬毛に代わる時期で意外とこれが大変な作業だったりする。
 最後に櫛で整えれば完成。
 いつもより艶が出ているのを見ると謎の達成感と、リルの美しさに感心する。

『パパ私も!』
『私もなのだ!』
 最近はカリンの他にオウカも頼んで来るようになっているので時間も手間も掛かるが嫁達が美しくなるのは個人的にも嬉しい。

「……」
 ちらちらとアオイも見てるのでやってやると言うと、最初は遠慮するがなんだかんだで最後は髪を梳かしてくれる。
 その光景にゲンさんが強い目線を送ってきたので俺は軽く流す。

 そして今日の見張りは俺、ゲンさん、アリスの順番になった。
 アオイもするといったがゲンさんが阻止、女性は寝てろっと。
 その時アリスが「あれ?私は?」と言っていたが無視された。
 そして明日は早く出ると言う事で今日はみんな早く寝た。
 見張りの俺を残して。

 他の皆は馬車で寝ているが正直きつそう。
 リル達は俺の体内で眠り、アオイだけは馬車で寝る事になったが正直俺の体内で寝なくて大丈夫かな?
 ベッドじゃないから疲れもちゃんとは取れないと思うし。

「よう。起きてたか」
「ゲンさん?まだ交代の時間じゃないぞ」
「まぁそう言うな、話があって早めに起きたんだ」
「話って言うと?」
「俺の事、知ってんだろ?」
 ……まさか俺に言うとは思ってなかったな。

「知ってるよ。アリスが隊長だって言ってたし」
「俺も知ってるよ、あいつがばらした事。全く情報部の人間が上司の事ばらすんじゃねぇよ」
「それで、話って何だ?」
「お前、本当に勇者のお嬢ちゃんと何の関係もないのか?」
「人に言うような関係じゃないな」
「リュウ。ライトライト出身でおよそ六か月前に失踪、就職場所はお嬢ちゃんが生まれた町の外れにある牧場。年は生きていれば十七、がたいはよく、職場では馬や牛に優しく接していた。あまり喋らない性格だが人に冷たいわけでもないため職場内の空気は悪くなかった。失踪後三か月は完全に何処にいるか分からなかったが、およそ一か月前まではフォールクラウンに居たはずだがすぐに消えた。フォールクラウンでお前の姿を見たものは多い、顔を調べるのは難しくなかった。お嬢ちゃんに確認を取る前に消えたせいで報告し損ねたけどな」
 ……まさかそこまで調べたとは驚いた。
 勇者が探しているとはいえ所詮は一般人、そこまで本気で探してるとは知らなかった。

「お前、そのリュウだろ」
「……参ったよ。まさかそこまで調べ上げられているとは思わなかった」
「……お嬢ちゃんすんげー心配してたぞ。なんで避ける」
「分かってんだろ?俺の従魔が魔物だって事」
「そりゃな。あのアオイって女も魔物だろ」
「ばれてたか」
「人間と魔物の違いぐらい分かる。これでも情報部隊長なんでな」
 アオイの事もばれてるとなると余計ティアには会わせる訳にはいかないな。

「……今のティアに魔物を見せる訳にはいかない。分かるだろ」
「そりゃ、あのお嬢ちゃんだしな」
「俺はあいつらを裏切るつもりはない。ティアとは真逆なんだよ。俺は魔物を全て敵だと思っていない、でもあいつは魔物を否定してる。そんな奴の前に俺の可愛い従魔を殺されてたまるかよ」
 つまりティアの理想を俺は否定している事を伝えた。

「情が入り過ぎじゃないか?所詮魔物だろ」
「所詮ただの腐れ縁だろ?勇者だからって気にし過ぎだ」
 同じように返す。
 しばらく沈黙が続く。

「……一応お嬢ちゃんには報告書を出しておいた。後は時間の問題だ」
「あっそ、もう交代の時間だよな。俺は寝る」
「お嬢ちゃんの気持ちも考えてくれ」
 さ~な。
 それは相手の態度による。