次の日、俺とアリスは馬車を探していた。
 フォールクラウンに行くには遠いので馬車がいる。
 ……いや本当は森の中を突っ切る方が早いがアリスがいる以上合わせてあげないといけない。
 しかしその場合は大森林を避けるために大きく迂回する必要がある。
 だがエルク公国からフォールクラウンまで行く馬車は少ない。

「やっぱり見付かりませんね」
「仕方ねぇよ。遠いし、危険も多い。直便が無いなら途中までの馬車にでも乗ればいいさ」
「でもその場合お金掛かりますよね……」
 本当に節約家だなアリスは。
 それが当たり前なのかもしれないけど。

「一応アオイさんにも探してもらってるが期待はしないほうがいいかもな」
「リュウさんはエルクに来るときはどうしてたんですか?」
「その時は大森林の浅い所を歩って来たからな。馬車とか使ってねぇんだよ」
「そうですか……」
 アリス的には前の伝手を使って行こうと考えたのかも知れないがあいにくそんな伝手はない。

「リュウ様、馬車が見つかりました」
「え、マジで!」
 まさかのティアマトさんが見つけてきた。
 本当に何でも出来るんだなこの人。

「しかし運送用の馬車ではなく、商人の荷馬車に相席する形となっておりますので多少不便かと思いますが構いませんか?」
「十分だよアオイさん。ありがとね。それで向こうから乗せる条件みたいなのは当然あるんだろ?」
「はい。乗せる代わりにフォールクラウンまでの護衛をお願いしたいと」
「なるほど、リル達の事は言ったんだよな?」
「従魔が三体いると伝えておきました」
「ならその商人の所に行こうか。アリス行こう」
「……本当に凄いですねアオイさん」
 乗り継ぎを覚悟していたアリスがそう呟いた。
 早速ティアマトさん後を追ってその商人のもとに向かう俺達。
 その馬車には多くの荷物がないのが気になったがその商人を見て驚いた。

「リュウさん、今回は護衛よろしくお願いしますね」
「マークさん!この馬車マークさんの物だったんですか」
「はい、前回の収入でようやく自分の馬車を買う事が出来ました。しかもフォールクラウン製なのでとても頑丈なんですよ」
 マークさんが自慢しながら俺に言ってきた。
 相当嬉しいみたいだな、普段は商人スマイルなのに今は素のスマイルだ。

「マークさん、積み荷がないように見えますが積み荷はないんですか?」
「今回は買い付けではなく売りに来たので帰りは積み荷はありませんよ」
 なるほど、でも商人ってその国の売れそうな物をすぐ買うイメージがあったけど違うのか。

「では乗って下さい。すぐに出発しますよ」
 マークさんが馬の手綱を握ったので俺たちは馬車に乗ってフォールクラウンに向かって出発した。

 荷馬車に乗ってガタンガタン上下に動いてる俺達、ただ問題が一つ発生した。

『気持ち悪い』
『は、初めての経験なのだ。うっぷ』
『パパ、助けて……』
 嫁達の乗り物酔いだった。
 初めての馬車っと言う事で乗ってみたいと言ったリル達だが早くも悲鳴を上げていた。

 女性の意地なのか出してはいないが顔は青くなりぐったりとしている。
 呼吸も浅く、正直言ってやばい気がする。

「どうする?俺の中に入るか?」
『『『入る』』』
 結局三人はリタイア、俺の中に入っていった。

「なんですか今の!?リュウさんの中に入っちゃった……」
「あ~今のはリル達のスキルだよ。詳しくは知らんが何故か入れるらしい」
「はあ」
 一応は納得してくれたようだ。
 従魔の中で無事なのはティアマトさんだけ。

「アオイさんは大丈夫?」
「はい馴れてますので」
 それは気持ち悪さに、それとも馬車に?

「それよりもリュウ様、お気付きですか?」
「あのずっと追ってる人の事?」
「え!?」
 アリスは気付いてなかったか。
 エルクを出る前からずっといる謎の人。
 たぶん狙いは俺かアリスだと思うが……

「アリスの知人か確認してくれ。肉眼では見えないから何かないのか?遠くの物を見る道具か魔術」
「肉眼で見えない距離をどうやって分かったんですか……」
「気配だよ気配。それより確認頼む」
 アリスは渋々と何か道具を出した。
 見た目は眼鏡だが?

「距離はどのぐらいか分かりますか」
「真っ直ぐざっと五百」
 眼鏡を掛けたアリスがじっとその方向を見ながら眼鏡の縁を触っている。
 しばらくしてアリスがこめかみを抑えた。

「知り合いっぽいな」
「はい、隊長でした」
「あれが隊長さん?」
 五感強化で視力を強化して見えたのは馬に乗った旅人。
 あれが隊長さんだったのか。

「なんつーか、意外と地味だな。勇者パーティーの一人にしては」
「隊長は基本情報収集がメインですからね。前線に出る事はないので構わないとか」
「勇者パーティーにも裏方は存在するんだな。ってか何で付いて来るんだよ。監視ならアリスで事足りると思うが?」
「多分私では手に余ると思ったのかも?」
 アリスから出てくる気配の一つに、監視魔術的なものを感じるがそれでは足りないと。
 しかも情報部のボスが自ら出張ってくるとかどんだけ警戒してんだよ。

「リュウさん、撒いた方がいいですか?」
「いや、しなくていいです。敵対してるわけではありませんし、魔物が出てきた時に馬が走れなくなるのも嫌なのでほっときましょう」
 ちゃっかり聞いてたマークさんに返事をして旅は続く。
 盗賊なら簡単に退治できるが魔物だとどうなるか分からない。
 そのためには馬の体力には気を付けておかないと。

「そろそろ休憩を入れます。お昼にしましょう」
 太陽がほぼ真上にかかるころにマークさんが馬を休めると言った。
 近くにあった野原で昼飯になった。

「リル達大丈夫か?」
 芝に降りて声をかけるとゆっくりと出てきて芝の上でゴロゴロし始めた。

『もう大丈夫よ』
『地面の上なのだ~』
『あの中嫌い~』
 と、好き勝手始める。
 リルはゴロゴロ、オウカは寝始め、カリンは俺の肩に止まった。
 あ~何か癒されるな~この光景。

「リュウさんご飯ですって」
「今行く!ほれお前らも来い。飯だってさ」
 アリスが声をかけてくれた。
 すぐに立って歩くリルに、オウカはなぜか俺の肩に上る。
 面倒なので特に指摘することもなくティアマトさんが作ってくれた飯を食いに行く。

「いつもすいませんねアオイさん」
「これが私の役目ですよ」
 そう言ってスープをよそってくれるティアマトさんには頭が上がらない。
 俺絶対ティアマトさんに足向けて寝れねぇ。

「本当においしいですねこのスープ」
「リュウさんって贅沢してますよね。毎日おいしいご飯を作ってくれる人と旅をしてるんですから」
「それは確かに。いつの間にか美女と旅をしているなんてさっき知りましたよ」
「あれ?アオイさんって最初から一緒に旅をしていた訳じゃないんですか?」
「そうですよ。初めて会った時はリルさんと二人旅のようでしたから」
 いつに間にか話が進んでいるマークさんとアリス。
 どうやら普通の人同士で気が合ったようだ。

「アオイさん、後で組手して貰っても良いですか?最近体が鈍ってる気がして」
「分かりました。では昼食が終わって少ししたら体を動かしましょうか。リル様達はどうしますか?」
 ティアマトさんの言葉を聞いて逃げ出す三人。
 そこまで嫌か。

「え、アオイさん大丈夫ですか?リュウさん普通じゃないですよ」
「ご心配ありがとうございます。アリス様、私は一時期リュウ様に戦いを教えていた事がありますのでご安心を」
「え?」
 今のアリスのえ?はどういう意味だったのだろうか。
 ティアマトさんはティアマトさんで規格外なのは知らなくて当然だし、仕方ないと思うけど。

 それで昼飯後軽く組手をしたらマークさんとアリスが呆然としていた所を見ると、軽くでも規格外なのは理解できたみたいなので遠くから見てる隊長さんはどう思っているのか気になった。