調教師は魔物に囲まれて生きていきます。

 私、アリスはリュウさん焼き肉パーティーが終わった後、先輩達と一緒にいた。
 リュウさんはアオイさんと一緒に借りた野営道具を洗って返すと言っていたのでその後別れた。

 それにしても美味しかった。
 リュウさんが狩ってきたジャイアントボアも、アオイさんの料理も美味しかった。

「アリス、涎垂れてるわよ」
 先輩が私の口元を指差しながら指摘されたので慌てて拭いた。
 先輩はいつも何処からか情報を引き出してくるので凄い。
 そのやり方を学ぼうとしたが私には出来そうにない。

 先輩の情報は大抵ギルドや飲屋街での店員になってお酒の相手をして冒険者から情報を引き出している。
 たまに貴族がお忍びで来る、綺麗なドレスを着てお酌をする仕事とかでも情報を取ってくる。

 私の様な隠れてじっと話を聞くより難しくて、大変な仕事だ。
 きっとリュウさんのイメージも先輩の様な女性に違いない。
 だって私、見た目子供だし、話術も下手だし。

「それにしてもあのリュウって男、何かいい情報を持ってる気がするのよねぇ」
「いい情報と言うとどんなですか?」
「なにか……とんでもない情報よ。従魔もレアなドラゴンの子供だし、大森林に関する情報とかね」
 それは……あると思う。
 リュウさんは大森林に住んでいた事もあるらしいし、さっき先輩とリュウさんの話を聞いていたがどうやらフェンリルの居場所を知っている様だった。

「でも何となくですけど教えてはくれないと思いますよ。初めて従魔の子達を見ましたがとても可愛がっているようでした」
「そこが問題なのよね~。私達フェンリルとガルダの住処も調べてるし」
 空を切った武器を作ってもらうにはフェンリルの牙とガルダの炎が必要、この事は私達情報部に任せられた仕事の一つでもある。
 基本勇者様に必要な情報は私たちが調べて、隊長が真偽を確認するのが私達の仕事になっている。
 もしリュウさんがフェンリルの情報を持っているならとても欲しい情報だ。
 伝説の魔獣とあって成功報酬も高いし。

「それが厄介なのよね。あの男、色仕掛けの類では情報を出してくれそうにないし、お金にも困っている様子もない。こうなると時間をかけて信頼を得てからじゃないと多分ダメでしょうね」
 先輩もため息を付きながら歩いている。
 そうこうしてる内に集会所に着いた。
 この国にいる間だけ使っている場所で以前泊まるはずだったあのボロボロの宿の地下だ。
 全員その地下に入ると色々言いだした。

「いや~美味かったな、あのジャイアントボア!」
「確かにまた食いたい味でしたね」
「僕は……アオイさんが気になるかな…」
「お前あの美人さんに惚れたのか⁉」
 私の兄貴分達がいきなり話し出した。
 上から長男次男三男四男と勝手に呼んでるが彼らにもちゃんとしたコードネームはある。

「はいはい、『ジャック』『トーマス』『チャーリー』『ジェイコブ』は黙りなさい。もうすぐ隊長が来るわよ」
 世界によくある名前、それが私達のコードネームになっている。
 よくある人名なら街中でも呼びやすいし、紛れやすいのでこうしたコードネームが生まれたとか。
 ただそれが原因で他の関係ない人まで反応してしまうが。

「なんだよ『ローラ』。お前だって肉を何度もお替りしてたじゃないか!」
「そこじゃなくて隊長が来る前ぐらいは落ち着け、って言ってんの」
「どうせあの人気配感じさせずに来るんだからどうしようもねぇって。それよりチャーリーがアオイさんに本気で惚れたみたいだぞ‼」
「別に惚れたとかじゃないですよ。ただ綺麗な人だったなぁっと思っただけでして」
「それが惚れたって言うんですよ。そうなると彼女がどの国の出身か調べる必要がありますね」
「いや止めておけって。高嶺の花だろ絶対」
 そんな感じでチャーリーさんの恋話に盛り上がる四兄弟。
 私も高嶺の花だと思うなーチャーリーさんにとって。

「ほう。チャーリーに惚れた女ができたのか」
 何の違和感もなくこの部屋に入り、自然と話に入った中肉中背の隊長がそこにいた。

「「「隊長!」」」
 私達は軍隊式の敬礼を慌ててする。

「ああそんなに畏まった礼をしなくていい。今回の仕事よくやってくれた、今回の事件は厄介だったろ?」
「隊長、そんなこと言うんだったらもう少し人を派遣してくださいよ」
「そうですよ隊長。おかげでかなり疲れました」
 皆不満を言うが隊長は聞き流している。

「分かった、分かったって。今回の事件の早期解決及び少人数での解決はちゃんと報告書に書いておくから、ボーナスもたんまり出るだろうからそれで美味いもんでも食って機嫌直してくれって。後今回の協力者って誰だ?」
「アリス、貴女から言いなさい」
「は、はい!」
 私は今回の協力者であるリュウさんについて細かく話した。
 隊長の疑問にもすぐ答えたから大丈夫なはずだ。

「……なるほど、フリーの冒険者で名前はリュウか」
「隊長?リュウさんは不思議な人ですが悪い人ではありませんよ」
「そこじゃねぇよ。国とは関係のない話だが名前が少し気になってな」
「名前ですか?確かにリュウなんて珍しい名前だと思いますが……」
 どこか別の島や大陸の人の可能性を疑ってるのだろうか?
 しかしリュウさんはライトライトが故郷と言っていたし…

「隊長への個人的な依頼って事ですか?」
「まあな。その個人てのがティアお嬢ちゃんなんだけどな」
 ジャックの質問にさらっと言ったが私にとって初耳だし最も重要な個人だ。
 勇者様の依頼っていったい?

「その内容は?」
「ただの人探しだよ。当然居なくなった幼馴染を見つけてほしいってな」
「幼馴染?賢者様ではなくて?」
「そうだよ。なんでもお嬢ちゃんの生まれ育った町にもう一人いたそうだ。職業もありきたりの『調教師』、そんな奴が突然失踪したからお嬢ちゃんも泡食ってたよ」
 なるほど、それがしばらく続いた勇者様の精神的不調の正体。
 仲のいい幼馴染の行方不明が原因だったんだ。

「アリス、お前はそのリュウって奴からお嬢ちゃんに関する事は何か言ってなかったか?」
「えっと、特には何も……」
 リュウさんから勇者様に関する事を聞いたのは勇者様の方針だけ。
 しかも求めていたのは私の意見だったのでこれじゃ決める証拠が少なすぎる。

「そうかなら聞いてこい。本物なら何か言ってくるだろうし違うならまた探せばいい」
「……そう簡単に話してくれますかね?」
「話を聞く限りどうでもいいことは話してくれるようだしな、そいつにとってどうでもいい話だったとしてもこっちにとっては重要な話だ。聞いてこい、今日は俺もこの国に泊まるから」
「分かりました。それとなく聞いてみます」
「それじゃ今日は解散。お疲れ~」
「「「お疲れ様でした」」」
 こうして私達は解散する事になった。
 とりあえず私はリュウさんに勇者様のこと聞きにいかないと。

「あれ?アリスもう行くのか?」
「はい、仕事は早めに終わらせる方がいいので」
 隊長が私が外に出るのを見て聞いてきた。
 そこにトーマスがいらない事を言った。

「それに宿も違いますしね」
「何だと?アリスだけか?」
「はい、そのリュウって方のおごりで別の宿にずっといたんですよ。しかも同じ部屋です」
 その時隊長から変な黒いオーラが出てきた。
 あれは皆知ってる不機嫌な時のオーラだ!

「……………アリス、やっぱり俺が直接聞いてくるからそこで待ってな。それと少し帰り遅くなるかもしれないから」
「隊長?なんか怖いですよ?」
「ちょっと情報聞いたら暗殺してくる」
「ダメですよ!勇者様の大事なご友人かも知れないのですから!」
 トーマスのいらない一言で大分時間を使ったが私はどうにか隊長をなだめて宿でリュウさんを待つ事にした。
 アリス達と別れた後、俺達はエルフの村に向かっていた。
 借りた野営道具を返しに行くのと、単にエルフ達にお呼ばれされていたからだ。

「あ~あ、嫌な事聞いちゃったな」
「先ほどのお話でしょうか」
「まぁね。勇者が爺さんとカリンを狙ってる以上無視できる内容じゃないからな。甘いとは分かってるけどぶつからない道があるならその道に進みたいって思ってるし」
 ティアが魔物嫌いである限りそんな未来はかなり難しいのも自覚しているつもりではあるが回避できるなら回避したい。
 そうなるとどうやってティアを避け続けるかを考えた方がいいか。

「心中お察しします」
「まぁ、あいつも今頃はタイガと上手くいって俺の事忘れてるかもしれないし、向こうは向こうで幸せになってると助かるんだけどな」
「勇者には好きな男がいるのか?」
オウカも聞いてくる。

「好き、というか俺のただの希望だよ。あいつにはいつも隣にいるタイガと一緒になってくれたらなぁ、っていうただの希望だよ」
 ティアの周りの男は皆おっさんばかりのようだし、同年代の男はタイガしかいないんじゃないか?
 たまに貴族の男がーみたいな話も聞いたがあまり乗り気じゃないようだし。

「………」
「リル、元気出せ。俺が絶対に阻止してやるから」
「でも友達なんでしょ?向こうの心配もしてるんでしょ」
「そりゃぁ、まぁ」
「リュウはどっちも傷付けない様にするって言うけど凄く難しいのは分かるつもり。でもどうしてもどちらかを選ぶ時が来たら、どうするの?」
「そん時はお前らを選ぶに決まってるだろ。俺は友より嫁だ」
 口ではそう言えるけどまだぶれてるのは自分でもわかる。
 だからリルは不安なんだ。
 だからリルは何度も俺に言ってほしいんだ。

 きっと他の皆も不安なはず、口に出さないのは俺への気遣い。
 決めるときはきちんと決めないといけない気がする。
 そしてそれは遠い未来の話じゃない。
 きっと意外なぐらいすぐに来る。

 そんなもやもやした気持ちのままエルフの村に着いた。
 エルフの皆は俺たちを祝福してくれた。
 運良く他の国に渡っていなかったのも幸運だったし、俺はただ裏ギルドを潰していただけだ。

「リュウ様、そしてリル様たちのおかげでまた皆で暮らすことができます。ありがとうございました」
 アル長老が代表として俺達に言った。
 その隣にはエレンとウィロスさん、多分ソロン一家が全員で一緒に礼をしていた。
 こういう光景を見ると間違った事はしてなかったっと思えるがこれがティアと一緒に出来るか?と聞かれると怪しい。
 エルフ達は亜人として認知されているから殺される様な事はないがなぜか不安を隠せない。

「俺はただ皆さんのお手伝いをしただけです。この勝利は皆さんのものです」
「ご謙遜を、五百人もの軍勢を退けたのは皆さんのおかげです。我々では質で勝っても量で押し潰されていたでしょう」
「それなら妻達に、俺は裏ギルドを潰しただけなので」
「それでも捕らわれていた同族を解放してくれたのはリュウ様です」
 なんてやり取りを少しした後、少し不安になって聞いた。

「村は変わらずここに?」
「はい。先祖代々この森に住み、生活してきたので今更離れるつもりはありませんよ」
「しかしこの場所の事は悪い人間に見つかってしまいました。正直危険だと俺は思っています」
「しかし行く当てもない以上、村を移すのは難しいかと」
 それは分かっている。
 でも、もしかしたら、どうにかなるかもしれない。

「精霊王はここにいますか?」
「はい。直接お礼を申し上げたいと言っていましたのでこちらにいます」
 そう言って向かったのは村の中央にある巨大な木だった。

「精霊王様!リュウ様をお連れしました!」
 そう、アル長老が言うと巨木が光って小さな手のひらサイズの精霊が二人出てきた。
 それはは虹色の翅をした少年と少女だった。
 周りのエルフ達はいつの間にか跪いている。

「ありがとうねアル。初めましてリュウ、僕が精霊王だ」
「あんたが精霊王?子供の姿とは思ってなかった」
「そんなに意外かな?場所によっては僕たちを妖精と呼ぶ所もあるからね。その方がイメージが合うかな?」
 言われてみれば童話で出てくる妖精の絵はこんな感じかも。
 俺はてっきり髭もじゃもじゃの爺さんだと思ってた。

「君の王様のイメージはそうなのか。その方が威厳は感じられるのかな?」
「もしかしていま俺の頭の中覗いたのか」
「そのぐらいは出来るさ。それと彼女からもお礼が言いたいって」
 そう言って俺の前に出てきたのはもう片方の少女だった。
 少女は人見知りなのか目を合わせようとしない。
 目を逸らしながら少女は言った。

「私はティターニアです。私の契約者であるウィロスを救っていただきありがとうございました」
 そう言うとすぐに精霊王の背に隠れてしまった。

「ごめんね。彼女、精霊やエルフとならこんな風にならないんだけど人間はまだ苦手みたいで」
「いや、仕方ないと思う。エルフを私利私欲のために捕まえてたのは人間だし、すぐに仲良くはなれないもんだろ」
「理解してくれて助かるよ。それじゃあ君への報酬を決めよう。まずはお金だろ、ウィロスを買った代金と……何が良いかな?」
 精霊王はこういう事に慣れてないのか苦笑いをしながら聞いてくる。
 そういう時こそ人の心を覗けば済む問題だと思うが……
 そうだな……特に今欲しい物は特にないし、かと言ってレアな素材も今の所はいらない。
 となると……

「それならエルフの皆さんをもっと安全な所に住まわせてくれ。それが報酬だ」
「リュウ様!?」
 アル長老が驚いたように言うがだって今欲しいのないし。

「それが出来ないならこの村の結界をより強くしてほしい、二度とこんな事が起こらないようにな」
「それでいいのかい?でも元々この村の結界を強化するのは決まっていたし他にないの?」
「思いつかん」
 百パーセント善意の言葉という訳じゃないが二度とこんな面倒事はしたくない。
 面倒臭かったし、時間かかるし、こういう尊敬の目線?みたいなのも嫌だし。
 俺はもっとのんびりしたいんだよ。

「う~ん、そうなると僕達にできる最大の報酬でもいいかな?」
「いや、そんな大層な物は貰えないって」
「物じゃ無いよ。精霊だ。と言っても君に合った精霊をプレゼントする事になるから少し君の事を調べさせてもらうけどね」
「精霊?まぁ……それでいっか?」
 精霊王はどうしても報酬を渡したいみたいだしこの辺が落とし所か。
 あとは精霊王に任せよう。

「それじゃ調べるからね」
 そういって俺の額に小さな手を置いた。
 特に調べれられてる感じはしないが……
 するといきなり手を引っ込めた。

「どうかしたか?」
「どうかって、ちょっとこっち来て!」
 なぜか精霊王に引っ張られ巨木の裏に移動した。

「なんで君の中にアジ・ダハーカがいるの!?」
「あ、分かったんだ。やっぱただの子供じゃなかったのか」
「しかもアジ・ダハーカよりもヤバそうな奴もいるじゃん!なんで君の中は魔境のようになってるんだい‼」
「んなこと言われても、それならそのもっとヤバそうな奴に話聞きな。力はあるけど話は通じるから」
「本当だよね?僕、消されたら大変なことが起きるからね」
 怖がりながらまたそっと俺の額に手を置いた。
 その間ぼーっとしてたが精霊王は疲れたように俺の前に降りてきた。

「どうだった」
「僕が君の契約精霊になることで話は纏まったよ」
「え、精霊王が。問題起こったりしないのか?」
「無い訳じゃないけど仕方ないよ。彼、いや今は彼女か。彼女がそれを望んでいる、断ったら大変なことが起きるよ」
 ウルの奴何言ったんだ?確かに格はウルの方が高そうだけど。
 まさか脅したりしてないよな?

「どうすんだよ。エルフの人達だってお前が居なくなったら不安になるぞ」
「それは大丈夫だよ。契約したから必ず契約者と一緒に居ないといけないルールは無い。僕は僕で仕事があるしそこは彼女も認めてくれた、だから君が力を貸してほしい時は協力すれば問題ないさ」
 問題ないならいいけど……
 どっちにしろばらしちゃいけないスキルがまた増えるのは決定か。

「それじゃ向こうに戻って契約をしよう。ここでこっそり契約する訳にもいかないからね」
「え~皆の前ですんのか?暴動起きない?」
「起きないよ。逆に歓迎されるかもよ」
 されたくない。
 面倒臭い。
 しかし精霊王は嫌がる俺を無視して契約を無理やり進めた。
 エルフの人達になんか言われたりしないかな~と思ったがなぜか受け入れられた。

 俺は疲れた笑みを浮かべながら手を振って宿に帰った。
 リル達が一体化で俺の体内に戻った後、宿に帰った。
 ずっとあそこに居たら面倒臭い事になってた気がするし、とにかくベットでゆっくりしたい。
 すでに夕方になっているので多分アリスはとっくに宿に戻っているだろう。

「リュウさんお帰りなさい」
 案の定アリスが先に戻っていた。

「ただいま。そっちはどうだった?」
「はい、ちゃんと報告してお給料もいっぱい貰えるかもしれません」
「そりゃよかったな。俺の方も一段落したよ」
 ベッドに腰掛けながら息を吐いた。
 今日は戦闘とは違う意味で疲れた。

「あの、アオイさんや従魔の子達は?」
「今は別の宿にいる。従魔オッケーの宿でゆっくりしてんじゃない?」
 適当なことを言っておく。
 だって俺の中にいるとか信じないでしょ。

「そうでしたか。……そのリュウさんに質問なんですけど勇者様についてどのくらい知っていますか?」
「勇者について?いや良く知らん」
 本当は色々知ってるがしょせん友達程度の会話しかしてないし、活動とかそういうのはよく知らん。
 でもなぜ聞いてくる?布教的な感じか?

「実はさっきの集会で勇者様が探している行方不明のご友人がいることが分かりまして、その捜索を我々も協力する事になりましたのでその情報収集です」
「友人?まさか賢者が行方不明なのか!?」
 タイガの奴が行方不明!?

「いえ、賢者様ではなく別のご友人だそうで何かご存じありませんか?」
「ご存じも何も初耳だしな……」
 別な友人?俺知らねぇ。
 ティアの勇者話を聞く限り思いつくのは若い新兵の事だが名前とかは覚えてないしな…だいたいは騎士団長とか魔術師団長、あと僧侶のお姉さんの話ぐらいだし……

「わりぃ、やっぱ分かんねぇ」
「そうですか。すみませんやっぱり分かりませんよね、すみません」
「いやいいよ別に、ちなみにどんな奴だ?」
「えっと、隊長の話だと幼馴染で調教師だとか」
 ん?幼馴染で調教師?
 まさか……

「名前もリュウって方で、もしかしたらリュウさんの事かな?と思いまして」
 あ、それ思いっきり俺の事だ。
 ティアが俺の事を探してる?やっべ、マジやばい。

 確かにリルに連れて行かれたから行方不明にはなっててもおかしくないがまさか勇者様直々に探してくるとは思ってなかった。
 せいぜいどっかの騎士団とかが探してるもんだと思ってた。

 これってつまり俺がどんだけ逃げてもいつかぶつかるんじゃね?
 うっわー、これどうしよう。
 生き残ってちゃっかり強くなってましたとかどう説明すればいいんだ。

「そっちのリュウって方は戦闘能力があまりないそうですし、やっぱり違いますよね」
「さ、さすがの俺も同じ名前の奴に会ったら覚えてると思うしな」
「そうですよね」
 なんとなく笑いあう俺達。
 アリスは普通に、俺は乾いた感じに笑う。
 マジでどうしよう。

「ところでリュウさんはこの後どこか向かうところとかありますか?」
「ん?まぁ次は個人的な用事でフォールクラウンだな。少し武器の手入れをしてもらいに」
「付いて行っちゃダメですか?」
「え?いやそれこそお前の方はいいのかよ。仕事、万年人手不足だって言ってたじゃねぇか」
 突然仕事が入ったとか、チームの誰かが負傷したのでフォローに入らないといけない、みたいな事ってないのか?

「大丈夫です。重要な情報を持ってるかもしれない人に付いて行くのは皆やっています」
「俺は大した情報なんて持ってない」
「私達はフェンリルとガルダの情報を探しています。何か知ってるんでしょう」
 そりゃかなり知ってるよ。鍛えてもらったし。
 このまま何も言わないのも変か、なら忠告として言っておこう。

「ガルダは知らんがフェンリルは知ってる。ただちょっかい出すなら止めておけ、あれは人間にどうこう出来る相手じゃない」
「そうなんですか」
「ああ。あれはヤバすぎる、ちょっかい出すつもりなら何も言わん」
「ええ、どこで見たのかぐらいは教えてくださいよ」
「絶対に言わん。いいのか?その情報のせいで多くの人間の命が消えても」
 少し脅すように言う。
 その情報から何が起こるのか諭すように。
 実際アリスは少しビビってる。

「あいつは力の塊だ。全てを切り裂いて食い千切る化物狼だ。魔物の素材を使ってようが何だろうがあいつにとってはただの邪魔なだけのものだ。簡単に切り裂くだろうさ」
「えっと、ミスリルとかでもですか?」
「そこまでは知らんが明らかに硬そうな亀形の魔獣を簡単に食ってたぞ。甲羅に籠ってたのにな」
 その言葉に少しだけ震えたように見える。

「それが人間であった場合、何十人、いや何百人切り裂かれていたんだろうな?」
「亀って見てたのですか?食べてるところ」
「だから生き残った。フェンリルだと思われる魔獣が他の魔獣を食ってたおかげで俺は逃げ切れた。俺はその亀に比べれば小さいし、何の力もないから無視された、の方が正しいと思うけどな。勇者に言っておけ、手は出さない方がいいってな」
 そう言って締めくくった。
 実際にティアがそれで思い止めてくれるならそれでいいし、それでも止まらない時は俺が前に出て止めるしかない。

「……そう隊長に伝えておきます。危険なので中止にするべき、と」
「頼んだぞ本当に。強行突破して皆死にましたとかシャレにならん」
 一応は伝えたからな。
 それでもやるなら俺も魔物サイドに立って戦ってもいいけど。

「それじゃアリスはどうする?結局付いて来るか来ないかの話だったろ」
「付いては行きますよ。面白そうだし、美味しいのも食べれそうだし」
「……まさか食い物が狙いじゃないだろうな?」
「違います。お仕事のためです」
 最後にちょっとだけ明るくなってその日は休んだ。


『さて、どうしようか』
 夜中、アリスが寝た後俺とリル達は相談をしていた。

『勇者がリュウを狙ってるって話よね。もちろん殺すわ』
『過激すぎ、はっきり言うと俺とティアが会う事そのものは別に問題でも何でもない。ただ問題はお前らの方だってんだよ』
『今回の勇者は魔物嫌いが極端ですからね、おそらくドラゴンである私やオウカ様も危険でしょう』
『私も炎目当てで狙われてるみたいなんだよねパパ?』
『そうだな。ったくどこのバカだ?リルとオウカの事をしゃべった奴は』
『私は今回おとなしくしているのだ』
『そうしてくれると助かる。フォールクラウンでは出来るだけ皆大人しくしてくれ。それとティアマトさんには新しい刀の製作で協力してもらう事になると思うからそうも言えないけど』
『分かりました』
 大雑把に話をしてティアへの対策を練る。
 魔物嫌いに魔物を見せる訳にもいかないので慎重に行動しないと。

『ドワル達に口止めっているかな?』
『お話しを聞く限りですが、ドワル様達には私の爪を加工する作業に集中させた方が良いのでは?熱が入ると止まらなくなる方のようなので、それを利用してはどうでしょう』
 なるほど、それはそれでいいかもしれない。

『後は国全体にはドワルの方から言ってもらおう。その方が確実で早い』
『パパ、フォールクラウンにいる間はパパの外に出ちゃダメ?』
『その方がパパは安心する。でも出たいなら一言言ってくれれば大丈夫だぞ。それでも注意は必要だけど』
『ならパパの中にいる。パパの中広いからこっちにいる』
『悪いな』
『問題ないよ』
 後はリルだけだが……

『私も今回はリュウの中にいる。どんな勇者かきちんと見極めたい』
『了解、ありがとうなリル』
『リュウ、気を付けてね』
 おう。
 さてティアマトさん以外は俺の中にいるから大丈夫だとして後は言い訳を考えておかないと。

『リュウ、私からも報告』
『ウル。珍しいな、お前から連絡なんて』
『かなり重要な事だもの。アジ・ダハーカがもうすぐ復活する』
 …………マジかよ。
 このタイミングとか面倒臭いなぁ。

『仕方ないでしょ。私だってこんなに早く孵るとは思ってなかったもの』
『復活した時俺の中から飛び出す可能性は』
『それは大丈夫。意地でもリュウの邪魔はさせない』
『そ、そうか。よろしく頼む』
『はい』
 すんげー頼もしいがやばいのは止めてくれよ。

 ダハーカの復活とティアとの再会がかぶるとかどうなる事やら。
 次の日、俺とアリスは馬車を探していた。
 フォールクラウンに行くには遠いので馬車がいる。
 ……いや本当は森の中を突っ切る方が早いがアリスがいる以上合わせてあげないといけない。
 しかしその場合は大森林を避けるために大きく迂回する必要がある。
 だがエルク公国からフォールクラウンまで行く馬車は少ない。

「やっぱり見付かりませんね」
「仕方ねぇよ。遠いし、危険も多い。直便が無いなら途中までの馬車にでも乗ればいいさ」
「でもその場合お金掛かりますよね……」
 本当に節約家だなアリスは。
 それが当たり前なのかもしれないけど。

「一応アオイさんにも探してもらってるが期待はしないほうがいいかもな」
「リュウさんはエルクに来るときはどうしてたんですか?」
「その時は大森林の浅い所を歩って来たからな。馬車とか使ってねぇんだよ」
「そうですか……」
 アリス的には前の伝手を使って行こうと考えたのかも知れないがあいにくそんな伝手はない。

「リュウ様、馬車が見つかりました」
「え、マジで!」
 まさかのティアマトさんが見つけてきた。
 本当に何でも出来るんだなこの人。

「しかし運送用の馬車ではなく、商人の荷馬車に相席する形となっておりますので多少不便かと思いますが構いませんか?」
「十分だよアオイさん。ありがとね。それで向こうから乗せる条件みたいなのは当然あるんだろ?」
「はい。乗せる代わりにフォールクラウンまでの護衛をお願いしたいと」
「なるほど、リル達の事は言ったんだよな?」
「従魔が三体いると伝えておきました」
「ならその商人の所に行こうか。アリス行こう」
「……本当に凄いですねアオイさん」
 乗り継ぎを覚悟していたアリスがそう呟いた。
 早速ティアマトさん後を追ってその商人のもとに向かう俺達。
 その馬車には多くの荷物がないのが気になったがその商人を見て驚いた。

「リュウさん、今回は護衛よろしくお願いしますね」
「マークさん!この馬車マークさんの物だったんですか」
「はい、前回の収入でようやく自分の馬車を買う事が出来ました。しかもフォールクラウン製なのでとても頑丈なんですよ」
 マークさんが自慢しながら俺に言ってきた。
 相当嬉しいみたいだな、普段は商人スマイルなのに今は素のスマイルだ。

「マークさん、積み荷がないように見えますが積み荷はないんですか?」
「今回は買い付けではなく売りに来たので帰りは積み荷はありませんよ」
 なるほど、でも商人ってその国の売れそうな物をすぐ買うイメージがあったけど違うのか。

「では乗って下さい。すぐに出発しますよ」
 マークさんが馬の手綱を握ったので俺たちは馬車に乗ってフォールクラウンに向かって出発した。

 荷馬車に乗ってガタンガタン上下に動いてる俺達、ただ問題が一つ発生した。

『気持ち悪い』
『は、初めての経験なのだ。うっぷ』
『パパ、助けて……』
 嫁達の乗り物酔いだった。
 初めての馬車っと言う事で乗ってみたいと言ったリル達だが早くも悲鳴を上げていた。

 女性の意地なのか出してはいないが顔は青くなりぐったりとしている。
 呼吸も浅く、正直言ってやばい気がする。

「どうする?俺の中に入るか?」
『『『入る』』』
 結局三人はリタイア、俺の中に入っていった。

「なんですか今の!?リュウさんの中に入っちゃった……」
「あ~今のはリル達のスキルだよ。詳しくは知らんが何故か入れるらしい」
「はあ」
 一応は納得してくれたようだ。
 従魔の中で無事なのはティアマトさんだけ。

「アオイさんは大丈夫?」
「はい馴れてますので」
 それは気持ち悪さに、それとも馬車に?

「それよりもリュウ様、お気付きですか?」
「あのずっと追ってる人の事?」
「え!?」
 アリスは気付いてなかったか。
 エルクを出る前からずっといる謎の人。
 たぶん狙いは俺かアリスだと思うが……

「アリスの知人か確認してくれ。肉眼では見えないから何かないのか?遠くの物を見る道具か魔術」
「肉眼で見えない距離をどうやって分かったんですか……」
「気配だよ気配。それより確認頼む」
 アリスは渋々と何か道具を出した。
 見た目は眼鏡だが?

「距離はどのぐらいか分かりますか」
「真っ直ぐざっと五百」
 眼鏡を掛けたアリスがじっとその方向を見ながら眼鏡の縁を触っている。
 しばらくしてアリスがこめかみを抑えた。

「知り合いっぽいな」
「はい、隊長でした」
「あれが隊長さん?」
 五感強化で視力を強化して見えたのは馬に乗った旅人。
 あれが隊長さんだったのか。

「なんつーか、意外と地味だな。勇者パーティーの一人にしては」
「隊長は基本情報収集がメインですからね。前線に出る事はないので構わないとか」
「勇者パーティーにも裏方は存在するんだな。ってか何で付いて来るんだよ。監視ならアリスで事足りると思うが?」
「多分私では手に余ると思ったのかも?」
 アリスから出てくる気配の一つに、監視魔術的なものを感じるがそれでは足りないと。
 しかも情報部のボスが自ら出張ってくるとかどんだけ警戒してんだよ。

「リュウさん、撒いた方がいいですか?」
「いや、しなくていいです。敵対してるわけではありませんし、魔物が出てきた時に馬が走れなくなるのも嫌なのでほっときましょう」
 ちゃっかり聞いてたマークさんに返事をして旅は続く。
 盗賊なら簡単に退治できるが魔物だとどうなるか分からない。
 そのためには馬の体力には気を付けておかないと。

「そろそろ休憩を入れます。お昼にしましょう」
 太陽がほぼ真上にかかるころにマークさんが馬を休めると言った。
 近くにあった野原で昼飯になった。

「リル達大丈夫か?」
 芝に降りて声をかけるとゆっくりと出てきて芝の上でゴロゴロし始めた。

『もう大丈夫よ』
『地面の上なのだ~』
『あの中嫌い~』
 と、好き勝手始める。
 リルはゴロゴロ、オウカは寝始め、カリンは俺の肩に止まった。
 あ~何か癒されるな~この光景。

「リュウさんご飯ですって」
「今行く!ほれお前らも来い。飯だってさ」
 アリスが声をかけてくれた。
 すぐに立って歩くリルに、オウカはなぜか俺の肩に上る。
 面倒なので特に指摘することもなくティアマトさんが作ってくれた飯を食いに行く。

「いつもすいませんねアオイさん」
「これが私の役目ですよ」
 そう言ってスープをよそってくれるティアマトさんには頭が上がらない。
 俺絶対ティアマトさんに足向けて寝れねぇ。

「本当においしいですねこのスープ」
「リュウさんって贅沢してますよね。毎日おいしいご飯を作ってくれる人と旅をしてるんですから」
「それは確かに。いつの間にか美女と旅をしているなんてさっき知りましたよ」
「あれ?アオイさんって最初から一緒に旅をしていた訳じゃないんですか?」
「そうですよ。初めて会った時はリルさんと二人旅のようでしたから」
 いつに間にか話が進んでいるマークさんとアリス。
 どうやら普通の人同士で気が合ったようだ。

「アオイさん、後で組手して貰っても良いですか?最近体が鈍ってる気がして」
「分かりました。では昼食が終わって少ししたら体を動かしましょうか。リル様達はどうしますか?」
 ティアマトさんの言葉を聞いて逃げ出す三人。
 そこまで嫌か。

「え、アオイさん大丈夫ですか?リュウさん普通じゃないですよ」
「ご心配ありがとうございます。アリス様、私は一時期リュウ様に戦いを教えていた事がありますのでご安心を」
「え?」
 今のアリスのえ?はどういう意味だったのだろうか。
 ティアマトさんはティアマトさんで規格外なのは知らなくて当然だし、仕方ないと思うけど。

 それで昼飯後軽く組手をしたらマークさんとアリスが呆然としていた所を見ると、軽くでも規格外なのは理解できたみたいなので遠くから見てる隊長さんはどう思っているのか気になった。
 組手も終わり、馬の調子を見た。
 十分な休息は取れたようで疲労は取れている。
 ちなみにリルはすでに俺の中にいたりする。
 馬がリルを見て暴れだすので、どこか寂しそうにリルは俺の中に入った。

「そうしている所を見ると確かに調教師ですよね」
「何いきなり失礼な事を言ってんだアリス。俺は本職調教師だっての」
「だって今まで戦ったり、策を練ったりしているところばっかり見てたので本当に調教師かずっと疑問でしたから」
 それを言われちゃ反論できないが、本職は調教師なんだよ。

「リュウさんは自分を鍛えてばっかりでリルちゃん達を強くしたいとか思ったりはしないんですか?」
「う~ん。皆世話になった人から預かったりしてたから考えた事なかったな」
 他にもリルとかティアマトさんとか鍛えても強くなるのか疑問だし。
 あ、でもカリンとかオウカなら強くなるか?まだまだ子供ってのもあるし種族としてもかなりの才能はあると思う。
 ただ問題はこいつら強くなる気があるかってところなんだよな。
 しばらく黙って考えているとアリスはどこかに行ってしまった。

「なぁカリン、オウカ達は強くなりたいって思うことあるのか?」
 つい聞いてしまった。
 どちらも翼を広げて空中鬼ごっこをしている時に聞いてみた。

『私は強くなりたいよ。パパの隣に立つに恥ずかしくないようにね。オウカちゃんは?』
『私も最近は強くなりたいと思ってたところなのだ。何かいい修行方法があるのか?』
 意外な事に二人とも乗り気だった。
 二人とも戻って俺の肩に止まる。
 二人が乗り気なら検討してみるか。

 いきなりハードな、具体的にはティアマトさんのような徹底した管理修業は俺には出来ないし知識もない。
 となるとオーソドックスな体に負担をかけるタイプに修業がいいか。
 ……そう言えばダハーカが復活しかけてる事で魔術に関する知識が一部読み取れるようになったんだよね。
 付加術の応用で相手に負荷をかける魔術もあったしそれを使ってみるか。

「『呪術《カース》』」
『え?』
『おお!?』
 相手の身体能力を制限する呪術。
 この状態で修業した場合はどうなるのだろうか?

「しばらくその状態で遊んできな。また旅をするときに解呪しておくから思いっきり遊んで来い」
『はーい』
『分かったのだ』
 そういってまた空中鬼ごっこを始めるが最初に比べてやはり遅い。
 術そのものはきちんと効果を示しているがこれで鍛え上げることができるかはまた謎だ。

「オウカ様達を鍛えるおつもりで?」
「アオイさん。はい、本人達が乗り気だったので考えてみようかと」
「で、今回はどんな修行内容で?」
「魔術耐性と負荷による筋トレのつもりです」
「カリン様も我々ドラゴンも魔術耐性は高いのですよ。効くのは精々上位魔術からです」
「あっちゃぁ。しくじったか」
 確かにカリンもオウカも魔術耐性は高い。
 カリンは魔術を焼くし、オウカは魔術を弾く。
 確かにこれ以上鍛えても意味がない。
 今の呪術が効いたのは二人が受け入れたからだし。

「リュウ様、ドラゴンの修練は実戦形式にも理由があります。それはほぼ生物として究極に近いからです。魔術や剣を弾く鱗に全てを切り裂く爪、病に罹らぬ身体、老いはしますが寿命が尽きる事はなく、健康を維持することができます。そんなドラゴンに足りないものは経験のみです」
「経験?」
「はい。これだけはどんな才があろうとも意味がありません。リュウ様も経験済みでしょう、オウカがいい例です」
 確かにオウカと初めて会った時は俺が一方的に殴れた。
 ダメージ云々は置いておいてオウカはまるで相手にならなかった。

「それが経験不足です。他にも『魔王』を名乗る存在は複数いますが皆我々と似たものです。敵を屠る力を持ち、病に罹らぬ身体、ほぼ終わる事のない寿命。あえて言うなら究極の生物の一つに数えられるのが『魔王』なのでしょう」
「究極の生物ね。だからひたすら実戦経験を積めって事か」
「そうなります。フェンリルもほぼ魔術を受け付けませんよ」
 となると俺が魔王になるのは遠い話かもね。
 まだきちんと考えた事ないけど。

「とにかく修業は実戦方式が一番って事ね。ありがとティアマトさん、実戦を前提において考えてみるよ」
「その方がよろしいかと」
 少し寂しそうに言うティアマトさん。
 やっぱり名前で呼んでほしいのか。

「後ティアマトさん。これからもフリーの時もアオイさんって呼んでもいい?」
「……私はリュウ様の従者ですので呼び捨てでどうぞ」
「分かったアオイ」
 そう呼ぶと心なしか顔が赤くなった気がするアオイ。
 やっぱり女って名前で呼ばれるのが好きなのか?

「そろそろ行きますよ」
「それじゃ行こうかアオイ」
「はい、リュウ様」
 カリン達に掛けた呪術を解呪して俺の中に入った後、また旅が始まった。
 俺達が動いたのに合わせて隊長さんも動き出した。
 ここまでは順調だがどうなることやら。

 ダイナミックに動く馬車の中、軽い敵対する気配を感じた。
 いや、これは敵対じゃなくて腹空かした魔物か。
 俺は軽く気配を送って脅すと強者がいることに気が付いたのか襲わない。
 マークさんとアリスは全く気が付かずなんて事のないように馬車を走らせる。
 ただ問題は後から起こった。

「あ、隊長が魔物に襲われてる‼」
「え、マジで」
 その魔物は狙いを俺達から隊長さんに変えて襲って来たようだ。

「勇者パーティーの一人ならあのぐらい問題ないだろ?」
 出てきたのは大森林の浅い所に住んでいるでっかい猫だ。
 ほぼただでっかくなった猫と変わんないあいつは大森林では弱者に入る。

「リュウさん、どんな魔物か分かりますか?」
「猫だよ猫。二、三メートルぐらいの猫だよ」
「猫じゃないですよ‼あれは『大森林虎《フォレストタイガー》』!確かに大森林じゃ弱い方ですけど人間から見れば十分強敵ですよ!」
「マジで?オーク食って生きてるような猫が?」
「確かフォレストタイガーは毛皮の価値が高かったはず、倒していただけませんか?」
「嫌だよ。食えない相手を狩る価値なんかねーよ」
「ならせめて追い払ってください!隊長は直接戦闘は苦手なんです!」
 マークさんは変わらず猫を商品として見てるし、アリスは知人のピンチで慌ててる。
 なら俺にも一つ考えがある。

「アリス、隊長さんと連絡取れるか?流石にもう少し近づかせないと追っ払えない。マークさんは残念ですが毛皮は諦めて下さい。食う気ないんで」
「分かりました!」
「残念です」
 俺は馬車から降りて隊長さんが来るのを待つ。
 少しだけ気配を消し、猫がこっち来るようにする。
 少し待つと土煙を上げながら馬に乗った隊長さんと猫が来た。

「あんた早く逃げろ!」
 隊長さんが俺に言うが俺にとってこんなのただのでっかい猫なんだよ。
 隊長さんはそのまま走り抜けたのを確認して俺は猫に『覇気』を送った。

 猫は俺の覇気に当てられて急停止して森に逃げ帰った。
 まさに尻尾を巻いて逃げるとはこの事。
 隊長さんは少し離れた所で呆然としている。

「おっさん大丈夫か?」
「あ、ああ助かった。あんたは一体?」
「俺はリュウ、ただの調教師だ。そう言うおっさんは?」
「俺はゲン、旅人だ。それにしてもあんた強いのな、まさか威圧だけで追っ払うとは」
 正確に言うなら覇気だけど指摘しなくてもいいか。

「別に、それよりこっち来いよ。また魔物が来たら面倒だ」
「良いのか?」
 隊長さんは遠慮するように言うがどうせ監視されるのは決まってるだろうし、近くでも遠くでも同じ事だ。

「一応商人の護衛中だから雇い主に聞いてからになるだろうが多分大丈夫じゃないかな?」
「……恩に着る」
 旅の仲間一名増えました。
 隊長さんこと、ゲンさんをマークさんに紹介してめでたく仲間入り。
 ゲンさんが乗ってた馬も馬車に繋いで馬力が二倍になった。
 もともと一匹しかいなかったけど。

「ゲンさんはどこまで旅をする予定で?」
「いや、風の向くまま気の向くままってやつで特にどこに行くとかは決めてねぇんだ。ちなみにリュウはどこまで行くんだ?」
「俺達はフォールクラウンまでだ。武器の手入れをしてもらいにな」
 馬車の中でお互いのことを喋りながら旅は続いた。
 ゲンさんの馬はさっきの全力疾走で疲れていた分早く休憩になった。
 俺はゲンさんの馬を触診しながら状態を確認する。

「リュウは本当に調教師なんだな」
「そのセリフ今日で二回目だよ。なんで皆信じられないかな?」
「当たり前だろ、フォレストタイガーを威圧だけで追っ払うとか英雄クラスにしかできねぇよ」
「俺は『調教師』だからな。野生動物相手ならどう脅せばいいかわかんだよ」
「ほー、それじゃさっきはどうやって脅したんだ?」
 ……あまりネタバレはしたくないが仕方ないか。

「まず大抵の動物は自分より大きな生物に襲わない。体格差も十分に武器になるからな」
「いや、どう見てもタイガーの方が大きいと思うが?」
「そこを威圧を利用して身体を大きく見せるんだよ。もっと分かり易く言うなら威圧を幻影のように見せて自分の体大きく見せる、これがさっきやった威嚇」
「他にもあるのか?」
「もっと分かり易いのは音だな。大きな音が不意打ちでくれば皆ビビるだろ?」
 細かく言うと生物によって色々あるがそれだときりがないので割愛する。

「それも調教師だから気付けるもの、か」
「動物相手ならある程度はどうにかできる。出来なきゃ半人前だ」
「それは人間でもか?」
 ずいぶん分かり易い質問をするな。

「当たり前だろ。人間だって動物、やりようはある」
「ったく平然と言うセリフじゃねーぞ」
 呆れるように言ってるが仕方ないだろ、サバイバル生活が長かったんだから。

「マークさん!ゲンさんの馬の方は無理だ!さっきの走りで少し無理がきてる!」
「そうですか、仕方ありません。今日はここで泊まりですね」
 少しため息を付きながら野営用の荷物を降ろし始めた。
 どうやら予想はしていたらしい。
 野営といってもまだ日は落ちきってないし、むしろまだ明るいぐらいだが仕方ない。
 なので夜の見張りの順番を決めながら晩飯の準備をした。
 意外と手際のいいゲンさんに理由を聞いたら。

「一人旅が長いから自然と出来るようになった」
 と言っていた。
 俺のサバイバル生活に調理器具が無かったため料理の腕は上がってない。

 あとからアリスに聞いた所、ゲンさんは基本一人で任務をこなす事が多く大抵一人だとか。
 おかげでお給料もいいらしいが本人は少し寂しがってることもあるらしい。
 どことなく皆で話をしてるのが楽しそうに見えたのは間違いでは無いよう。
 今もアオイと話をしながら飯を作っている。

 その隣ではアリスが何かメモを取っていた。
 盗み聞きをするとアオイの飯を作れるようになりたい様で、色々聞いてる。
 ちなみにリル、カリンは完全に食べる専門。
 オウカは意外と料理の基礎はアオイに叩き込まれたらしく、簡単なものなら作れるとか。

 俺は暇なので森で食料探し。
 荷馬車に積んでいた食料では心許無いので木の実や小動物を中心に集めていた。
 今日捕れたのは木の実の他にウサギと蛇だが……皆食うかな?

 そんな事を考えながら持って帰ったらアリスが悲鳴を上げて逃げ出した。
 特に蛇を見て。
 しかしウサギは普通に食えるらしいので蛇は逃がしてウサギを捌いていく。
 捌かれていくウサギを見てアリスはなぜか目を逸らしていたがとにかく今日の飯は出来た。
 ちなみにウサギの皮はマークさんが欲しがったのであげた。

「アオイさんの料理本当に美味しいですね!」
「ありがとうございます。ゲン様」
「様なんて止めて下さいよ。俺はただの旅人ですよ」
 アオイの笑顔に顔を赤くするゲンさん。

「ゲンさん、火傷すんなよ」
「うるせぇ!今は大人の時間だ!」
 だってアオイはドラゴンだから強い人じゃないとゲンさんが望むような関係にはなれねぇよ。
 まぁ人間の身じゃ無理かもしれないけど。

「あの、いつ頃話した方がいいですか?」
 アリスが何か聞いてくる。

「何を?」
「ですから、その。私達が、ゲンさんの事を知ってる事です」
 ああ、その事か。

「それはお前から言えよ。今晩の見張りの交代の時にでもさ」
「それでいいでしょうか?」
「さぁな。向こうから勝手に話しかけてくると思うけどな」
 情報の共有のために向こうから接触してくるのは十分に考えられる。
 だから無理にこの場で話す必要はないが。

「あぁ。何て言えばいいんだろう」
「いざってときは俺に無理やり情報引き出されたとでも言っとけ。それで充分」
「……すみません」
「いいって、まさか付いて来るとは俺も思ってなかったし」
 飯を食い終わってから答えるとリルが体を擦り付ける。

『身体綺麗にして』
『了解』
 リルは最近俺にブラッシングを頼むようになった。
 俺の体内にいる間は汚れないようだがマッサージとしての意味でも最近頼まれている。

 早速俺はブラッシングを始める。
 まずは手櫛で大きな汚れや毛を取り除く。
 そのあと簡単な水の魔術で細かい汚れを洗い流す。
 最近は夏毛から冬毛に代わる時期で意外とこれが大変な作業だったりする。
 最後に櫛で整えれば完成。
 いつもより艶が出ているのを見ると謎の達成感と、リルの美しさに感心する。

『パパ私も!』
『私もなのだ!』
 最近はカリンの他にオウカも頼んで来るようになっているので時間も手間も掛かるが嫁達が美しくなるのは個人的にも嬉しい。

「……」
 ちらちらとアオイも見てるのでやってやると言うと、最初は遠慮するがなんだかんだで最後は髪を梳かしてくれる。
 その光景にゲンさんが強い目線を送ってきたので俺は軽く流す。

 そして今日の見張りは俺、ゲンさん、アリスの順番になった。
 アオイもするといったがゲンさんが阻止、女性は寝てろっと。
 その時アリスが「あれ?私は?」と言っていたが無視された。
 そして明日は早く出ると言う事で今日はみんな早く寝た。
 見張りの俺を残して。

 他の皆は馬車で寝ているが正直きつそう。
 リル達は俺の体内で眠り、アオイだけは馬車で寝る事になったが正直俺の体内で寝なくて大丈夫かな?
 ベッドじゃないから疲れもちゃんとは取れないと思うし。

「よう。起きてたか」
「ゲンさん?まだ交代の時間じゃないぞ」
「まぁそう言うな、話があって早めに起きたんだ」
「話って言うと?」
「俺の事、知ってんだろ?」
 ……まさか俺に言うとは思ってなかったな。

「知ってるよ。アリスが隊長だって言ってたし」
「俺も知ってるよ、あいつがばらした事。全く情報部の人間が上司の事ばらすんじゃねぇよ」
「それで、話って何だ?」
「お前、本当に勇者のお嬢ちゃんと何の関係もないのか?」
「人に言うような関係じゃないな」
「リュウ。ライトライト出身でおよそ六か月前に失踪、就職場所はお嬢ちゃんが生まれた町の外れにある牧場。年は生きていれば十七、がたいはよく、職場では馬や牛に優しく接していた。あまり喋らない性格だが人に冷たいわけでもないため職場内の空気は悪くなかった。失踪後三か月は完全に何処にいるか分からなかったが、およそ一か月前まではフォールクラウンに居たはずだがすぐに消えた。フォールクラウンでお前の姿を見たものは多い、顔を調べるのは難しくなかった。お嬢ちゃんに確認を取る前に消えたせいで報告し損ねたけどな」
 ……まさかそこまで調べたとは驚いた。
 勇者が探しているとはいえ所詮は一般人、そこまで本気で探してるとは知らなかった。

「お前、そのリュウだろ」
「……参ったよ。まさかそこまで調べ上げられているとは思わなかった」
「……お嬢ちゃんすんげー心配してたぞ。なんで避ける」
「分かってんだろ?俺の従魔が魔物だって事」
「そりゃな。あのアオイって女も魔物だろ」
「ばれてたか」
「人間と魔物の違いぐらい分かる。これでも情報部隊長なんでな」
 アオイの事もばれてるとなると余計ティアには会わせる訳にはいかないな。

「……今のティアに魔物を見せる訳にはいかない。分かるだろ」
「そりゃ、あのお嬢ちゃんだしな」
「俺はあいつらを裏切るつもりはない。ティアとは真逆なんだよ。俺は魔物を全て敵だと思っていない、でもあいつは魔物を否定してる。そんな奴の前に俺の可愛い従魔を殺されてたまるかよ」
 つまりティアの理想を俺は否定している事を伝えた。

「情が入り過ぎじゃないか?所詮魔物だろ」
「所詮ただの腐れ縁だろ?勇者だからって気にし過ぎだ」
 同じように返す。
 しばらく沈黙が続く。

「……一応お嬢ちゃんには報告書を出しておいた。後は時間の問題だ」
「あっそ、もう交代の時間だよな。俺は寝る」
「お嬢ちゃんの気持ちも考えてくれ」
 さ~な。
 それは相手の態度による。
 明けてまた旅は始まった。
 アリスは最後の見張りをしていたせいか、今は馬車の中で寝てる。
 よくこんな揺れる馬車の中で寝れるなと感心してしまった。

 ゲンさんは馬車の中で腕を組んでどこかに連絡中のよう。
 アリスも使っている道具で誰かと話をしているようだ。
 まさか俺の事じゃないよな?

 今ティアに会うつもりはないし、面倒事になるのは目に見えている。
 最低でもリル達が居ない状態にならないと会う訳にはいかない。

 ティアと会う事を想定して考えながら馬車に揺られて早四日、ようやくフォールクラウンまであと半分のところまで来た。
 今いる場所は岩場の多い場所。
 見晴らしも悪く、小さな石も多くある荒れた土地だ。

「やっぱなげーな。ようやく半分かよ」
「確かに長いですよね」
 アリスが同意してくれる。
 ずっと馬車の中に居たせいか身体中が痛い。
 身体のあちこちが悲鳴を上げている。

「スピードだけを考えるのでしたら、やはり大森林を抜けた方が早いですね」
「アオイさん、その場合私はきっとどこかで食べられちゃってますよ」
「もっと言えば俺がアリスを連れて行くって言わなきゃよかったんだよな」
「リュウさん!そんなこと言っちゃダメですよ!私だけ置いてけぼりなんで寂しいですよ」
 アリスがしょんぼりしているので俺はこう返した。

「なら鍛えてやろうか?」
「リュウさんレベルになるってどのぐらい時間が必要になるんでしょう?」
「安心しろ、生死の狭間を軽く何度か彷徨ってる内に強くなってるもんだから」
「そんな危険な事はしたくないです!」
 そりゃ当然か。
 普通は嫌だよな。
 でも俺はそうやって強くなってきたし、効果だけは保証するぞ。

「リュウが強くなった修業か、俺は興味あるけどな」
「隊長、あのリュウさんの修業ですよ!隠れるのが得意なだけの私達に死ねと!?」
 あの日以降アリスは普通にゲンさんの事を隊長と呼んでいる。
 次の日には普通にばらしたし、ただ街中とかでは隠してくれればいいとだけは言われた。

「ちなみに修業内容はどんな感じなんだ?」
「ん?そうだな……まず実力を知りたいからコカトリスをソロで狩ってもらうか」
「…………いきなりハード過ぎねえか?」
「やっぱり?でも俺それをクリアできたから生きてるわけだし」
 爺さん達の事は話せないがこのぐらいなら大丈夫だろ。

「……本当に最初から調教師だったんですか?」
「今も昔も調教師一筋です」
「流石リュウさん。規格外ですね」
 アリスは呆れているし、マークさんは笑ってる。
 ま、コカトリスがダメなら他にも魔物はいるから問題ないけど。

「その後はひたすら生き延びる事だな。魔物を狩って食って、逃げて寝て。そんな感じかな?」
「ちなみに何処でするんだその修業」
「もちろん食糧豊富な大森林で」
「…………」
「隊長、これがリュウさんです。真似しちゃいけません」
「しちゃいけないと言うよりは、真似できないの方があってると思うけどな」
 乾いた感じに笑うアリスとゲンさん。
 やっぱり無茶だよね。
 俺もよくリルの腹で寝てないと落ち着かなかったし。

「寝床だけは確保しとくから安心しろ。案外住むと美味い肉とかたらふく食えるから」
「魔物は安全に皆で狩りましょう」
 アリスは完全にやる気なし、アリスが言う事も一理あるけど。

「それじゃ皆さん出発しますよ。それからリュウさん、この辺は魔物ではなく盗賊が現れることの方が多いので注意してください」
「了解。ま、魔物よりは雑魚だろうし大丈夫だよ」
 マークさんはその言葉を聞いて軽く笑った。
 アリス達も笑い出す。

 しばらく馬車に揺られながら雑談をしていると少し気配があった。
 気配から察するに相手は人間数は……多くて二十人ってとこか、奴らの目線は荷車ではなく馬を狙っている。

「リュウ、こりゃ来たな」
「あれ、分かったんだ。マークさん、おそらく盗賊が来ます。数は二十人程、危険なので荷台の中に。アオイ、馬の操縦出来るか?」
「馬術は淑女のたしなみです」
「なら頼んだ。あと奴らは馬を最初に攻撃してくる可能性が高いから魔術を掛けとく」
 馬に防御系の付加術を掛けおく。
 これなら吹き矢や弓から守れる、あと魔術防御も掛けておいた。
 この光景を見ていたゲンさんが俺に言った。

「おいおい、盗賊の中に魔術師がいるのは稀な方だぞ。しかも何の魔術を掛けたんだよ」
「掛けたのは物理系防御魔術『キャッスルアーマー』、魔術系防御魔術『アンチマジックアーマー』の二つだけだ」
「いや、十分過ぎるだろ。これから何と戦うか分かってるよな?どう見てもやり過ぎだ」
「念のため念のため、詳しく知らない相手ならちょっとやり過ぎた方がいいって」
 それを言うと「納得はしないがいいか」と言っていた。
 アオイとマークさんが馬の操縦を代わり少しした後、馬に向かって矢が飛んできた。

 馬の胴を狙って放たれたが矢は俺の魔術で防ぐことは成功したが、馬はパニックになりアオイが必死に馬を操り落ち着かせようとする。
 その間に短剣や剣を持った連中がわらわら出て来た。
 俺とゲンさんは既に荷台から降りて迎撃準備についている。

「ところでゲンさん。対人戦の経験は?」
「ほとんど暗殺ばっかりで正面から戦うのはあまりないが、この程度なら問題ないだろ」
 ゲンさんはダガーを構えて敵を見る。
 流石勇者パーティーの一人、この数でも全くビビらない。

「なら俺も少し本気を見せてあげっかな。たまには狩りをしないと腕が鈍る。」
 俺は特に構えない。
 手をズボンに入れたままのんきにいる。
 敵さん達は確実にこちらを囲んでから攻撃するつもりのようでまだ攻撃は来ない。
 そしてがたいのいいおっさんが一人出てきた。

「やれ」
 一斉に襲って来る盗賊達、今回は覚えたての魔術で殲滅してみるか。
 まずは基礎の攻撃魔術からいってみよう。

「『ファイヤーボール』『アイスランス』」
 ファイヤーボールで一人焼き、アイスランスで直線上の盗賊二人を貫いた。
 盗賊はこちらを一斉に見るが構わず次のステップに移行。

「『アイスフィールド』」
 アイスフィールドは広範囲で相手の足元を凍らせる魔術、俺には魔力探知があるので間違ってゲンさんの足を凍らせる事はないが普通は敵味方関係なく凍らせる少し癖のある魔術。
 上手く使えば便利だと俺も思うんだけどね。

「おいリュウ!余裕見せてないでさっさと倒せ!」
 なぜかゲンさんからお怒りを受けてしまった。
 そう言うゲンさんも相手が動けなくなって楽に倒せるようになったくせに。

「はいはい!ちゃんとやりますよ!」
 なら広範囲型攻撃魔術を見せてやるよ。

「あの魔術師を殺せ!」
 敵さんが俺に攻撃するつもりのようだがもう遅い。

「『アイスグレイブ』」
 地面から生えるように生み出された氷の剣が生きている盗賊全てを刺殺した。
 地面が凍ってないと発動できない魔術だがさっきしたアイスフィールドで地面は凍っているので後は発動するだけだったのでとても楽だった。

「はいお終い。ゲンさん無事か?」
「むしろ今の魔術に殺されるかと思ったぞ!突然俺の足元から氷が伸びて突き刺したんだからな!」
「悪いな、言う暇がなくてつい」
 あはは、と目を逸らしながら笑う。
 こうして盗賊を倒して次に向かう俺達だった。
 盗賊を倒して進む俺達、馬も落ち着き再び走り出す。
 俺は馬車の中でさっきの魔術を放った感覚を振り返っていた。

 ダハーカの魂が修復されてきている事によって様々な魔術に関する知識を引き出せるようにはなったが、あくまでもダハーカの知識から得ただけで実際に使う感覚的なものは全くない。
 これからは魔術を使う感覚と経験も必須になってくるだろうから今のうちに慣れておかないといざと言う時に使えない。

「リュウさんって魔術も使えたんですね」
「ん?まぁ一応な。もともと生活を助ける程度でしか使ってなかったけどこれからは魔術戦も仮定して慣れていかないと」
「いや、あれだけできれば十分だろ」
 アリスとゲンさんが言ってくるがまだまだだろう。
 だって攻撃のために使ったのは今回が初めてだし。

「確かにまだまだ不慣れな感じでした。リュウ様、これからは魔術を中心に修練いたしますか?」
「……いや、まだいい。魔術を習う時はダチに頼みたい」
「…………あの方に教えを乞うのは構いませんが、あまりやり過ぎないようにお願いします。リュウ様はあの方より魔力量が多いのですから」
 アオイがどこか不安そうに言ってくる。
 多分俺がダハーカから魔術を習った時にとてつもない災厄が来るとでも思っているのだろうか?
 でもやっぱり魔術は習っておきたいよ。
 ダハーカが回復系の魔術を使ってるのは見たし、あれならリルやカリンが傷ついた時に使える。
 ……まぁ、そんな相手は魔王ぐらいしか思い付かないけど。

「ダチ?リュウさんに魔術が得意なお友達がいるんですか?」
「いるよ。と言っても喧嘩した後だからそいつはまだ療養中だけどな」
「療養中、いったいどんな喧嘩したらそんな大怪我させるんですか」
「いやだって、あいつ本気の魔術をとにかく撃ちまくるし、接近戦では付加術で応戦してくるしで、俺も大怪我したんだからな。あの時はマジで死ぬかと思った」
 そう言ったらアリスとゲンさんが固まった。
 あれ?特にダハーカだって証明するようなことは言ってなかったよな?

「リュウさんを大怪我させた、死にかけさせた?」
「どんな魔術師だよ!?どこかで怒らせて大暴れしたら国が一つ滅ぶぞ!」
 あれ!?そっち!

「待て待て、今は療養中だって言ったろ。お前らが想定しているよな事はしばらくは大丈夫だって」
「そ、そうでしたね」
「リュウ、頼むそいつが元気になっても目を離さないでくれ」
「わ、分かったからその手を離せって」
 アリスはほっとしたように、ゲンさんは俺の肩を掴んで本気で言ってくる。
 確かにあの伝説の邪龍が暴れたら国ぐらい簡単に滅ぶだろうな。

『リュウ、その友達が目覚めかけているのを忘れないでね』
 久しぶりにウルが声をかけてきた。
 分かってるよ。その時はダチとして止めるって。
 そう簡単にはいかない事の方が多いかも知れないけど。

「ちなみにそのご友人がどこで療養しているか教えてくれないか」
「嫌だよ、情報部に言うのは。絶対暗殺しに来るに決まってる」
「そんな危険な存在に喧嘩売るわけがないだろ。監視を付けるだけだ、そんな事して逆に国を滅ぼされちゃ構わねぇよ」
「それでも言わん」
 だって俺の体内にいるし、どの国にもいねぇよ。
 あと俺を重症に追い込める=国滅ぶって思考は大丈夫か?
 俺が国を簡単に滅ぼせる存在みたいに言うのは止めてくれ。
 ダハーカを倒せたのは皆の協力があっての事だし、俺一人だったらとっくに死んでるよ。

「とにかくそう滅多に人が居る所に行くような奴じゃないし、多分大丈夫だろ」
「本当なんだろうなそれは」
「あいつは基本、自分より弱い奴と喧嘩しないから」
 はい、この話は打ち切りでーす。
 ぼろが出る前に話を終わらせまーす。

 無理に打ち切った事でさらに不審な目線を浴びる事になったが、ダハーカは本当に弱者を虐めて楽しむような奴じゃない。
 ただ純粋に戦いが好きなだけで、ただ純粋に力比べがしたかっただけで、ただ強過ぎただけ。
 もしかしたらあいつは自分が強くなり過ぎて後悔した事があるのではないだろうか?
 最後に見たあいつの顔は満足そうに見えたが、まさかダチになろうって言った言葉にだったりしてな。
 …………ありえないか。
 どう見ても戦闘狂だったし。

 少しダハーカを思い出して笑うとか俺ものんきだな。
 ……もうすぐ会えると思うと、早く会いたいと思ってつい笑っちまうのは何でだろう。

 馬の関係でまた少し休憩になったとき、俺は下級の魔術の練習をしていた。
 上級になればなるほどその制御は難しくなるし、その制御のために必要なのは、基礎から魔術を使う感覚、そして集中力。

 魔術は基本自然現象や『悪魔』が使用する魔法を模倣したものらしい。
 随分と大昔の話らしいが、悪魔を召還したとある権力者が、自国の知恵者に魔なる術を教えるように契約したのが始まりだとか。
 それより前の魔術師は精霊使いと呼ばれ、精霊と契約できた者の事を指す言葉だったらしい。

 精霊魔術は自然現象を利用した物のみだが、魔術は呪術、付加術のような、直接人体に影響のある術を中心に悪魔から習った。
 そこから精霊に頼る事もなく現象を操るものが、魔術師と呼ばれるようになった。
 その力を発動するに必要なものこそが魔力。
 生まれつき魔力の弱い者は大した魔術は使えないし、魔力が強い者は大きな魔力を使って大技を出せるという事だ。

 結局その人間に知識を与えた悪魔は、今となっては不明だが、おそらく相当な物好きなんだろうなと思う。
 悪魔から見れば人間なんて弱っちい存在に術を教えた程だ、きっとお人好しか、相当の物好きだろう。

 そして魔術に必要な物の話に戻ると、魔力の他にどうしてそうなるのか、という知識が必要らしい。
 魔術に知識は必須で何も知らない人間に魔術は使えない。
 どうして火が起こるのか、どうして水が湧くのか、どうして風が吹くのかを理解できていないと使用できない。

 実際にさっきの戦闘で一番しっくりきたのは付加術だ。
 付加術は生物の筋肉、骨格、臓器など詳しく知っていないといけない術だ。
 俺は元々『調教師』と言う生物をよく知る職業だったので納得する。
 しかし、付加術を極めようとすると、完全に近距離戦闘特化になりそうなので、そうなったら俺は脳筋の烙印を押されることになると思う。

 さすがに何でも出来るオールラウンダーになれるとは思ってないが、でもちょっとぐらいは長距離戦闘も出来るようにはなりたい。
 そう思って付加術の他に得意な魔術を探しながら修業中。

「アオイさん、リュウさんはどこまで強くなれたら満足するようになるんでしょうか?」
「……難しい質問ですね。リュウ様は時折り自身の事を過小評価してしまう事があるようですので、恐らく一生満足する事はないのではないでしょうか」
「マジかよ。あの初級魔術もかなりの威力だぞ。いったいどれだけの魔力を込めてんだ?」
「ゲン様、仕方ありませんよ。リュウ様は常に自身より強敵と戦うことを想定しています。どうしても力が入ってしまうのでしょう」
「あの、このままリュウさんが魔王になったりはしませんよね」
「おそらくですが、それも視野に入れているのではないでしょうか?以前、リュウ様が私に権力について聞いてきた事がありましたが、それが我が国の事ではなく、自ら国を興すとなればその時はおそらく」
「あんな魔王となんて戦いたくありませんよ隊長」
「お嬢ちゃんでも多分負けるな。手を出さずに監視だけしておくべき存在だ」
「ふふ、リュウ様は勇者様とは逆ですね」
 そんな感じで色々あったがようやくフォールクラウンの扉が見えてきた。
 相変わらず門の前には大勢の人が並んでいる。

「やっと着いたな」
「そうですねリュウ様」
「身体中が痛いです」
「次はあの列に並ばないといけないがな」
「皆さんすみませんが荷馬車は別の場所に置かなくてはいけませんので一度降りてください」
 俺、アオイ、アリス、ゲンさんそして最後にマークさんが言った。
 リル達も俺の中から出て扉を見ている。
 マークさんが荷馬車を置いてくる間に俺たちは列に並ぶ。

「私、フォールクラウンには初めて来ましたが、亜人の他に人間もたくさんいますね」
「フォールクラウンは鉱山都市としてだけじゃなく商業大国としても有名だからな。ここには自然と多くの商人も来るんだと」
 マークさん受け売りの言葉でアリスに説明する。
 そう言えばアオイは人型のままだけど大丈夫かな?一応俺の従魔にはなってるけど大丈夫だよな?
 前にもリルとカリンが人型で人前に出たこともあるし説明すれば大丈夫だと信じたい。

「それにしても皆お前の方を見てるな。少し調べたが随分と国王に好かれてるじゃねぇか」
「やめてくれ。俺はただの調教師、ただ単に希少《レア》な素材を持ってくるだけの男だよ」
「え、リュウさんってこの国の国王様と仲良いんですか?」
「別に、ただ希少な素材で武器と鎧作ってくれって頼んだだけの仲だよ」
 実際にそれ以上の関係はない。
 そりゃ鍛冶師としての腕は信頼しているが、国王としてのドワルの顔を見たのは数回だけ。国に関することに俺は突っ込んでない。

「もしドワルの政策に関することで俺越しに頼まれても、俺は何も出来ないからな」
「そうですか、できれば勇者様の剣を作って貰える様に頼んで欲しかったのですが」
「確か勇者にはお抱えの鍛冶師がいるんだろ?腕の良し悪しは知らんけど」
「腕は良いですが工房に居ない事の方が多いそうです。素材は自分で採ってくるって」
 なるほど、腕は良いが素材は自分で採ってくるタイプか。
 おかげで工房に居らず困っていると。

「さすが勇者パーティーの鍛冶師、まさに戦う鍛冶師の名に相応しい」
「おかげで俺が連れ戻しに行く事も多いがな。あの野郎、平気で危険地帯に行きやがる」
 はっはっは。マジでキャラが濃いな勇者パーティー。

「お待たせしましたー」
 そんな会話をしている内にマークさんが帰ってきた。
 マークさんが来て今までの話をすると、俺がどのぐらい商人に嬉しい事をしてきたか語りだした。
 カリンの羽の事や、あの鎧に包まれた鳥を卸した事など、色々言ってきて少し恥ずかしくなる。

『リュウ、私達はこの姿でいいのよね』
『前に人の姿になったけどこのままでいいの?』
『問題無いはず。むしろ心配はアオイの事かな』
『大丈夫でしょう。こちらに向かってくる者が解決してくれると思いますよ』
 そう言えばこっちに誰か向かってくるな。
 その方向を見ると前に会った詰所の人が走って来た。

「リュウ様!お久しぶりです。今回はどのようなご用件でしょうか」
「お久しぶりです。今回は武器の手入れとまた武器を作っていただきたくてこちらに参りました」
「そうでしたか。ではこちらに」
「あの、今回は俺だけじゃなくて他にも人がいまして」
 突然来た詰所の人を見ている皆、その顔を見て詰所の人は言った。

「リュウ様のパーティーメンバーと言う事ですね。では皆さんもこちらに」
 なぜか優先的に通された俺達、何でこうなった?

「えっと、なぜ俺たちを優先的に?」
「国王からのお達しです。リュウ様を優先的に通せと」
「ちなみに理由は」
「……どうせレアな素材を持って来ているだろうから、と」
 まさかこんな形で優遇されてるとは思ってなかった。
 それとも受付で起こる混乱を避けるためか?
 いや、やっぱりドワルの欲だろうな。

「やっぱりリュウさんは国王と仲がいいんじゃないですか」
「ここまで規格外だともう驚けなくなってくるな」
「リュウさんのおかげで楽ができました」
 三人とも感覚がマヒしてるぞ。元の常識人に戻ってくれ。

「パーティーメンバーの皆様はカードの提示をお願いします」
 そういってカードを出す俺以外の三人。
 俺も出すがアオイの事は何て言おう。

「あの、この女性は俺の従魔なのでカードを持ってはいないのですが……」
 詰所の人に言うと。
「ならリュウ様のカードから確認を取らせていただきます。アオイ様でお間違いないでしょうか?」
「はい私です」
「では問題ありません。リュウ様、国王が真っ直ぐこちらに来いとのお達しです」
 あっさりと終わった検問、それでいいのかドワル‼

「分かりました。悪いな皆、ちょっとドワルに会ってくる」
「国王を呼び捨て」
「普通なら不敬罪でとっ捕まってるぞ」
「では宿を探しておきますね」
 マークさんの不動のマイペースが羨ましい、他二人なんて呆然としてるぞ。
 そんな感じで仕方なくドワルの城に行く事になった。
 会ったら文句言ってやる。


「おい!ドワル!突然呼び出して何の用だ」
 いつものごとく謁見の間、そこには二人のドワーフ、ドワルとその弟ドルフが居た。

「どうしたいきなり怒鳴って。俺は何かしたか?」
「兄上、きっと勇者に言ったあの事では?」
「それもだそれも!あとなんで俺だけ優遇されてる形になってるんだよ!目立ちたくないって言ったじゃん!」
 周りの騎士も困惑しているような雰囲気が出ている。

「仕方がないだろう。お前が普通なら一生見る事のないはずの素材ばかり持ってくるのだ。なら混乱を起こさず持って来させた方がいい。そして今回はロウの整備と武具の製作を頼みに来たとか」
「色々突っ込みたい事はあるがまぁいい。今回の依頼はドラゴンの爪を使った刀の製作を頼みたい」
 俺はアオイの爪を出しながら言った。
 およそ長さは90㎝、この長さなら刀という武器が作れるはずだ。
 ドワルとドルフが玉座から降りてきて手に取ってじっと見る。

「これは……確かにドラゴンの爪だが初めて見る」
「確かに確かこのサイズの爪だと、中型から大型のちょうど中間あたりのドラゴンの爪のようですね、兄上」
「だがこれは恐らくかなり特殊なドラゴンのようだ。特殊な進化をしたドラゴンの爪……」
「水龍に近いしなやかさと、火龍に似た攻撃向きの爪。これはいったいどのドラゴンの爪でしょうか?」
 爪一つでアオイの本来の姿を予想してくるとは、流石ドワルとドルフ、この二人の目は誤魔化せないな。
 俺が何のドラゴンの爪かを言おうとした時、後ろからアオイが出てきて言った。

「その爪は私の爪ですよ、ドワーフ王」
 俺は気付いていたが、他の騎士達は気付いていなかったようで、慌てて武器を構えた。

「止めろ!武器を下げろ!あれには勝てん‼怒らせるな‼」
 ドワルの怒声に騎士達は武器を下した。
 襲い掛かる様な事はしなかっただろうけど、武器を突き付けられて良い気分はしないからな。
 武器を下げたのを確認して、アオイがドラゴンの女王としての顔を見せながら言った。

「私はティアマト、リュウ様と魂の契約をしたドラゴンの一体です。それとも蒼の女王、と言った方が伝わるでしょうか」
 その言葉に周りの騎士達から鎧が擦れる音がした。
 ガチャガチャと音が止まらない。
 その音に気にせずアオイはドワルとドルフを見る。
 一度ドワルが息を整えるとアオイに言った。

「まさかドラゴンの女王である貴女様の爪だとは分かりませんでした」
「私の姿を見た者そのものが少ないのです。仕方がありません。それで私の爪で本当にリュウ様の武具を作ることは可能なのですか?」
「その、図々しいお願いかと思いますが。そのためには貴女様の炎が必要となります。炎を頂けますか?」
 完全にドワルが下になっちゃったな。
 後で文句言われそう。

「では何か燃やすものを、リュウ様のため炎を与えましょう」
「ありがとうございます。おい、松明を持ってこい」
 遠くで震えていた人に言うと、その人は逃げるように行った。

「アオイ、ちょっとやり過ぎじゃない?」
「そうでしょうか?リュウ様をまるで下に見るような態度が目に余りましたので」
「俺達の関係はそれで合ってるの。オウカまでビビってるぞ」
 謁見の間の入り口あたりで震えている小さなドラゴンが一体いた。

「確かに少しやり過ぎたようですね」
「だからその不機嫌なオーラも抑えてくれ」
 ようやくオーラを抑えてくれた。
 アオイの怒りスイッチは危険過ぎる。
 程なくしてさっき走って行った人が松明を持ってきた。
 ドワルはそれを受け取ってアオイに差し出す。

「お願い致します」
 アオイは松明を受け取って息を吹き掛けるように松明に火を灯した。

「これでよろしいでしょうか」
「ありがとうございます」
「ではリュウ様参りましょう」
「あ、俺は少し気になるから鍛冶を見てから行くよ」
「承知しました。では後でお迎えに参ります」
「ありがとうアオイ」
 アオイは一つ礼をすると堂々と出ていった。
 震えてたオウカを連れて。
 その姿を見送るとドワルとドルフが俺を見て怒鳴った。

「「大物を仲間にし過ぎだ(です)‼」」