リル達が一体化で俺の体内に戻った後、宿に帰った。
 ずっとあそこに居たら面倒臭い事になってた気がするし、とにかくベットでゆっくりしたい。
 すでに夕方になっているので多分アリスはとっくに宿に戻っているだろう。

「リュウさんお帰りなさい」
 案の定アリスが先に戻っていた。

「ただいま。そっちはどうだった?」
「はい、ちゃんと報告してお給料もいっぱい貰えるかもしれません」
「そりゃよかったな。俺の方も一段落したよ」
 ベッドに腰掛けながら息を吐いた。
 今日は戦闘とは違う意味で疲れた。

「あの、アオイさんや従魔の子達は?」
「今は別の宿にいる。従魔オッケーの宿でゆっくりしてんじゃない?」
 適当なことを言っておく。
 だって俺の中にいるとか信じないでしょ。

「そうでしたか。……そのリュウさんに質問なんですけど勇者様についてどのくらい知っていますか?」
「勇者について?いや良く知らん」
 本当は色々知ってるがしょせん友達程度の会話しかしてないし、活動とかそういうのはよく知らん。
 でもなぜ聞いてくる?布教的な感じか?

「実はさっきの集会で勇者様が探している行方不明のご友人がいることが分かりまして、その捜索を我々も協力する事になりましたのでその情報収集です」
「友人?まさか賢者が行方不明なのか!?」
 タイガの奴が行方不明!?

「いえ、賢者様ではなく別のご友人だそうで何かご存じありませんか?」
「ご存じも何も初耳だしな……」
 別な友人?俺知らねぇ。
 ティアの勇者話を聞く限り思いつくのは若い新兵の事だが名前とかは覚えてないしな…だいたいは騎士団長とか魔術師団長、あと僧侶のお姉さんの話ぐらいだし……

「わりぃ、やっぱ分かんねぇ」
「そうですか。すみませんやっぱり分かりませんよね、すみません」
「いやいいよ別に、ちなみにどんな奴だ?」
「えっと、隊長の話だと幼馴染で調教師だとか」
 ん?幼馴染で調教師?
 まさか……

「名前もリュウって方で、もしかしたらリュウさんの事かな?と思いまして」
 あ、それ思いっきり俺の事だ。
 ティアが俺の事を探してる?やっべ、マジやばい。

 確かにリルに連れて行かれたから行方不明にはなっててもおかしくないがまさか勇者様直々に探してくるとは思ってなかった。
 せいぜいどっかの騎士団とかが探してるもんだと思ってた。

 これってつまり俺がどんだけ逃げてもいつかぶつかるんじゃね?
 うっわー、これどうしよう。
 生き残ってちゃっかり強くなってましたとかどう説明すればいいんだ。

「そっちのリュウって方は戦闘能力があまりないそうですし、やっぱり違いますよね」
「さ、さすがの俺も同じ名前の奴に会ったら覚えてると思うしな」
「そうですよね」
 なんとなく笑いあう俺達。
 アリスは普通に、俺は乾いた感じに笑う。
 マジでどうしよう。

「ところでリュウさんはこの後どこか向かうところとかありますか?」
「ん?まぁ次は個人的な用事でフォールクラウンだな。少し武器の手入れをしてもらいに」
「付いて行っちゃダメですか?」
「え?いやそれこそお前の方はいいのかよ。仕事、万年人手不足だって言ってたじゃねぇか」
 突然仕事が入ったとか、チームの誰かが負傷したのでフォローに入らないといけない、みたいな事ってないのか?

「大丈夫です。重要な情報を持ってるかもしれない人に付いて行くのは皆やっています」
「俺は大した情報なんて持ってない」
「私達はフェンリルとガルダの情報を探しています。何か知ってるんでしょう」
 そりゃかなり知ってるよ。鍛えてもらったし。
 このまま何も言わないのも変か、なら忠告として言っておこう。

「ガルダは知らんがフェンリルは知ってる。ただちょっかい出すなら止めておけ、あれは人間にどうこう出来る相手じゃない」
「そうなんですか」
「ああ。あれはヤバすぎる、ちょっかい出すつもりなら何も言わん」
「ええ、どこで見たのかぐらいは教えてくださいよ」
「絶対に言わん。いいのか?その情報のせいで多くの人間の命が消えても」
 少し脅すように言う。
 その情報から何が起こるのか諭すように。
 実際アリスは少しビビってる。

「あいつは力の塊だ。全てを切り裂いて食い千切る化物狼だ。魔物の素材を使ってようが何だろうがあいつにとってはただの邪魔なだけのものだ。簡単に切り裂くだろうさ」
「えっと、ミスリルとかでもですか?」
「そこまでは知らんが明らかに硬そうな亀形の魔獣を簡単に食ってたぞ。甲羅に籠ってたのにな」
 その言葉に少しだけ震えたように見える。

「それが人間であった場合、何十人、いや何百人切り裂かれていたんだろうな?」
「亀って見てたのですか?食べてるところ」
「だから生き残った。フェンリルだと思われる魔獣が他の魔獣を食ってたおかげで俺は逃げ切れた。俺はその亀に比べれば小さいし、何の力もないから無視された、の方が正しいと思うけどな。勇者に言っておけ、手は出さない方がいいってな」
 そう言って締めくくった。
 実際にティアがそれで思い止めてくれるならそれでいいし、それでも止まらない時は俺が前に出て止めるしかない。

「……そう隊長に伝えておきます。危険なので中止にするべき、と」
「頼んだぞ本当に。強行突破して皆死にましたとかシャレにならん」
 一応は伝えたからな。
 それでもやるなら俺も魔物サイドに立って戦ってもいいけど。

「それじゃアリスはどうする?結局付いて来るか来ないかの話だったろ」
「付いては行きますよ。面白そうだし、美味しいのも食べれそうだし」
「……まさか食い物が狙いじゃないだろうな?」
「違います。お仕事のためです」
 最後にちょっとだけ明るくなってその日は休んだ。


『さて、どうしようか』
 夜中、アリスが寝た後俺とリル達は相談をしていた。

『勇者がリュウを狙ってるって話よね。もちろん殺すわ』
『過激すぎ、はっきり言うと俺とティアが会う事そのものは別に問題でも何でもない。ただ問題はお前らの方だってんだよ』
『今回の勇者は魔物嫌いが極端ですからね、おそらくドラゴンである私やオウカ様も危険でしょう』
『私も炎目当てで狙われてるみたいなんだよねパパ?』
『そうだな。ったくどこのバカだ?リルとオウカの事をしゃべった奴は』
『私は今回おとなしくしているのだ』
『そうしてくれると助かる。フォールクラウンでは出来るだけ皆大人しくしてくれ。それとティアマトさんには新しい刀の製作で協力してもらう事になると思うからそうも言えないけど』
『分かりました』
 大雑把に話をしてティアへの対策を練る。
 魔物嫌いに魔物を見せる訳にもいかないので慎重に行動しないと。

『ドワル達に口止めっているかな?』
『お話しを聞く限りですが、ドワル様達には私の爪を加工する作業に集中させた方が良いのでは?熱が入ると止まらなくなる方のようなので、それを利用してはどうでしょう』
 なるほど、それはそれでいいかもしれない。

『後は国全体にはドワルの方から言ってもらおう。その方が確実で早い』
『パパ、フォールクラウンにいる間はパパの外に出ちゃダメ?』
『その方がパパは安心する。でも出たいなら一言言ってくれれば大丈夫だぞ。それでも注意は必要だけど』
『ならパパの中にいる。パパの中広いからこっちにいる』
『悪いな』
『問題ないよ』
 後はリルだけだが……

『私も今回はリュウの中にいる。どんな勇者かきちんと見極めたい』
『了解、ありがとうなリル』
『リュウ、気を付けてね』
 おう。
 さてティアマトさん以外は俺の中にいるから大丈夫だとして後は言い訳を考えておかないと。

『リュウ、私からも報告』
『ウル。珍しいな、お前から連絡なんて』
『かなり重要な事だもの。アジ・ダハーカがもうすぐ復活する』
 …………マジかよ。
 このタイミングとか面倒臭いなぁ。

『仕方ないでしょ。私だってこんなに早く孵るとは思ってなかったもの』
『復活した時俺の中から飛び出す可能性は』
『それは大丈夫。意地でもリュウの邪魔はさせない』
『そ、そうか。よろしく頼む』
『はい』
 すんげー頼もしいがやばいのは止めてくれよ。

 ダハーカの復活とティアとの再会がかぶるとかどうなる事やら。