私、アリスはリュウさん焼き肉パーティーが終わった後、先輩達と一緒にいた。
 リュウさんはアオイさんと一緒に借りた野営道具を洗って返すと言っていたのでその後別れた。

 それにしても美味しかった。
 リュウさんが狩ってきたジャイアントボアも、アオイさんの料理も美味しかった。

「アリス、涎垂れてるわよ」
 先輩が私の口元を指差しながら指摘されたので慌てて拭いた。
 先輩はいつも何処からか情報を引き出してくるので凄い。
 そのやり方を学ぼうとしたが私には出来そうにない。

 先輩の情報は大抵ギルドや飲屋街での店員になってお酒の相手をして冒険者から情報を引き出している。
 たまに貴族がお忍びで来る、綺麗なドレスを着てお酌をする仕事とかでも情報を取ってくる。

 私の様な隠れてじっと話を聞くより難しくて、大変な仕事だ。
 きっとリュウさんのイメージも先輩の様な女性に違いない。
 だって私、見た目子供だし、話術も下手だし。

「それにしてもあのリュウって男、何かいい情報を持ってる気がするのよねぇ」
「いい情報と言うとどんなですか?」
「なにか……とんでもない情報よ。従魔もレアなドラゴンの子供だし、大森林に関する情報とかね」
 それは……あると思う。
 リュウさんは大森林に住んでいた事もあるらしいし、さっき先輩とリュウさんの話を聞いていたがどうやらフェンリルの居場所を知っている様だった。

「でも何となくですけど教えてはくれないと思いますよ。初めて従魔の子達を見ましたがとても可愛がっているようでした」
「そこが問題なのよね~。私達フェンリルとガルダの住処も調べてるし」
 空を切った武器を作ってもらうにはフェンリルの牙とガルダの炎が必要、この事は私達情報部に任せられた仕事の一つでもある。
 基本勇者様に必要な情報は私たちが調べて、隊長が真偽を確認するのが私達の仕事になっている。
 もしリュウさんがフェンリルの情報を持っているならとても欲しい情報だ。
 伝説の魔獣とあって成功報酬も高いし。

「それが厄介なのよね。あの男、色仕掛けの類では情報を出してくれそうにないし、お金にも困っている様子もない。こうなると時間をかけて信頼を得てからじゃないと多分ダメでしょうね」
 先輩もため息を付きながら歩いている。
 そうこうしてる内に集会所に着いた。
 この国にいる間だけ使っている場所で以前泊まるはずだったあのボロボロの宿の地下だ。
 全員その地下に入ると色々言いだした。

「いや~美味かったな、あのジャイアントボア!」
「確かにまた食いたい味でしたね」
「僕は……アオイさんが気になるかな…」
「お前あの美人さんに惚れたのか⁉」
 私の兄貴分達がいきなり話し出した。
 上から長男次男三男四男と勝手に呼んでるが彼らにもちゃんとしたコードネームはある。

「はいはい、『ジャック』『トーマス』『チャーリー』『ジェイコブ』は黙りなさい。もうすぐ隊長が来るわよ」
 世界によくある名前、それが私達のコードネームになっている。
 よくある人名なら街中でも呼びやすいし、紛れやすいのでこうしたコードネームが生まれたとか。
 ただそれが原因で他の関係ない人まで反応してしまうが。

「なんだよ『ローラ』。お前だって肉を何度もお替りしてたじゃないか!」
「そこじゃなくて隊長が来る前ぐらいは落ち着け、って言ってんの」
「どうせあの人気配感じさせずに来るんだからどうしようもねぇって。それよりチャーリーがアオイさんに本気で惚れたみたいだぞ‼」
「別に惚れたとかじゃないですよ。ただ綺麗な人だったなぁっと思っただけでして」
「それが惚れたって言うんですよ。そうなると彼女がどの国の出身か調べる必要がありますね」
「いや止めておけって。高嶺の花だろ絶対」
 そんな感じでチャーリーさんの恋話に盛り上がる四兄弟。
 私も高嶺の花だと思うなーチャーリーさんにとって。

「ほう。チャーリーに惚れた女ができたのか」
 何の違和感もなくこの部屋に入り、自然と話に入った中肉中背の隊長がそこにいた。

「「「隊長!」」」
 私達は軍隊式の敬礼を慌ててする。

「ああそんなに畏まった礼をしなくていい。今回の仕事よくやってくれた、今回の事件は厄介だったろ?」
「隊長、そんなこと言うんだったらもう少し人を派遣してくださいよ」
「そうですよ隊長。おかげでかなり疲れました」
 皆不満を言うが隊長は聞き流している。

「分かった、分かったって。今回の事件の早期解決及び少人数での解決はちゃんと報告書に書いておくから、ボーナスもたんまり出るだろうからそれで美味いもんでも食って機嫌直してくれって。後今回の協力者って誰だ?」
「アリス、貴女から言いなさい」
「は、はい!」
 私は今回の協力者であるリュウさんについて細かく話した。
 隊長の疑問にもすぐ答えたから大丈夫なはずだ。

「……なるほど、フリーの冒険者で名前はリュウか」
「隊長?リュウさんは不思議な人ですが悪い人ではありませんよ」
「そこじゃねぇよ。国とは関係のない話だが名前が少し気になってな」
「名前ですか?確かにリュウなんて珍しい名前だと思いますが……」
 どこか別の島や大陸の人の可能性を疑ってるのだろうか?
 しかしリュウさんはライトライトが故郷と言っていたし…

「隊長への個人的な依頼って事ですか?」
「まあな。その個人てのがティアお嬢ちゃんなんだけどな」
 ジャックの質問にさらっと言ったが私にとって初耳だし最も重要な個人だ。
 勇者様の依頼っていったい?

「その内容は?」
「ただの人探しだよ。当然居なくなった幼馴染を見つけてほしいってな」
「幼馴染?賢者様ではなくて?」
「そうだよ。なんでもお嬢ちゃんの生まれ育った町にもう一人いたそうだ。職業もありきたりの『調教師』、そんな奴が突然失踪したからお嬢ちゃんも泡食ってたよ」
 なるほど、それがしばらく続いた勇者様の精神的不調の正体。
 仲のいい幼馴染の行方不明が原因だったんだ。

「アリス、お前はそのリュウって奴からお嬢ちゃんに関する事は何か言ってなかったか?」
「えっと、特には何も……」
 リュウさんから勇者様に関する事を聞いたのは勇者様の方針だけ。
 しかも求めていたのは私の意見だったのでこれじゃ決める証拠が少なすぎる。

「そうかなら聞いてこい。本物なら何か言ってくるだろうし違うならまた探せばいい」
「……そう簡単に話してくれますかね?」
「話を聞く限りどうでもいいことは話してくれるようだしな、そいつにとってどうでもいい話だったとしてもこっちにとっては重要な話だ。聞いてこい、今日は俺もこの国に泊まるから」
「分かりました。それとなく聞いてみます」
「それじゃ今日は解散。お疲れ~」
「「「お疲れ様でした」」」
 こうして私達は解散する事になった。
 とりあえず私はリュウさんに勇者様のこと聞きにいかないと。

「あれ?アリスもう行くのか?」
「はい、仕事は早めに終わらせる方がいいので」
 隊長が私が外に出るのを見て聞いてきた。
 そこにトーマスがいらない事を言った。

「それに宿も違いますしね」
「何だと?アリスだけか?」
「はい、そのリュウって方のおごりで別の宿にずっといたんですよ。しかも同じ部屋です」
 その時隊長から変な黒いオーラが出てきた。
 あれは皆知ってる不機嫌な時のオーラだ!

「……………アリス、やっぱり俺が直接聞いてくるからそこで待ってな。それと少し帰り遅くなるかもしれないから」
「隊長?なんか怖いですよ?」
「ちょっと情報聞いたら暗殺してくる」
「ダメですよ!勇者様の大事なご友人かも知れないのですから!」
 トーマスのいらない一言で大分時間を使ったが私はどうにか隊長をなだめて宿でリュウさんを待つ事にした。