朝起きると体の調子が良かった。
 なぜだか知らんがいつもより身体がスムーズに動く気がする。

「リュウさんおはようございます……」
 逆にアリスは目の下に大きな隈が出来ていた。
 動きもどこかぎこちない。

「おはようアリス。どうしたその隈は?」
「ああ、これはですね…昨日の押収した書類整理で寝不足なだけですよ…おかげでとっても眠いです」
「大丈夫か?これから貴族共をとっ捕まえに行くんだろ?」
「大丈夫です……仕事はスピードが命なので数日の徹夜は慣れたものですよ」
 フラフラの状態で言っても説得力が全くねぇ。
 やっぱりライトライトってブラック国家じゃねーの?

「せめてスープぐらいは飲めよ。眠気覚ましになるかも」
「何言ってるんですか……そんなの飲んじゃったら眠たくなりますよ……」
「冗談かどうか分かんないがとりあえず顔でも洗って目覚まして来い」
「は~い」
 心配しか出てこない。
 アリスの奴、俺のところに引き抜けないかな……

『リュウ……』
 リルさん、そんな恐い声を出していますが嫁にする気はありませんよ?
『……』
 分かってくれてありがとう。
 でもやっぱり心配になるだろ、あんなフラフラになるまで働いてると思うとさ。

 リルは何も言わないが分かってほしい。
 ちょっとは戦闘職以外の人間に目を向けて欲しいと。
 そう簡単にいく話でもないけどね。

 顔を洗い終わったら少しだけまともになったアリスと一緒に飯を食いにギルドへ。
 まだ少しフラフラしているのが気になるがここはやる気の出る言葉でもかけてやるか。

「アリス、この仕事が終わったら打ち上げでもしないか?」
「打ち上げですか?」
「そうそう。確か美味い肉を腹いっぱい食いたいとか言ってろ?だから今度ご馳走でもして」
「本当ですか‼」
 前乗りになって聞いてくるアリス、普通に飯食ってたのにかなり身を出してるぞ。
 そんなに肉が食いたかったか。

「ほんとだほんと、こんなしょうもない嘘を付くぐらい俺は器の小さい人間じゃねぇよ」
「約束ですよ!あと先輩達も呼んでいいですか!?」
「呼んでいいがどのぐらい来るんだ?」
「五人です!」
「分かった用意しておく」
「今夜ですか!明日ですか‼」
「できれば明日の昼が好ましい」
「了解です!先輩にもただ飯でお肉いっぱい食べれるって言っておきます‼」
 ま、まさかここまで興奮気味に食い付くとはまさに腹ペコ。
 飢えた魔物より飢えてるな。

「ならさっさと今日中に仕事を終わらせよう。明日の昼は焼肉パーティーな」
「焼肉…パーティー」
 夢見心地なとこすみませんが仕事が終わったらですよ。
 聞こえてますかーもしもーし。
 ダメだ、聞こえてねぇ。

 少し不安なままだが一応目も覚めたようなので今日はこの国の騎士団の人たちと一緒に悪徳貴族たちを捕まえまくる。
 しかし悪徳貴族もただでは捕まってくれず、アリスが言ってた抜け穴などから逃げ出そうとしてたがここで嬉しい誤算が生まれた。
 それはアリスとその仲間たちの活躍だった。

 どうも今朝の焼き肉話をすでに伝えたようで逃げ出す貴族を片っ端から捕まえていく。
 中には転移魔方陣で逃げようとした貴族もいたらしいが、逃げる前に魔方陣から貴族を蹴り出して取っ捕まえたらしい。
 まさかのハングリー戦法の勝利、目の前に肉をぶら下げた情報部に敵はいなかった。

 ちなみに綺麗な部屋で鎖につながったエルフや虫籠のような檻に入れられた精霊は騎士団の人達が解放、奴隷の証である刺青のようなものも消してくれた。
 自由になった精霊とエルフは村に帰った。
 もちろんリルやティアマトさんを護衛につけて。

 仕事が終わったのはその日の夕方だった。
 こっそり帰ってきたリルやティアマトさんもこっそり回収、エルフの村は元に戻り、精霊も大森林のどこかに帰った。

「リュウさん、打ち上げ今日じゃダメですか?」
「無茶言うな。まだ肉持って来てねーよ。明日腹いっぱい食わせてやるから待ってな」
「は~い」
「ついでに聞いておきたかったんだが、肉っていろんな種類あったほうが良いか?それともとにかく量か?」
「量でお願いします」
「あいよ」
 真面目な顔で言われちゃ仕方ないな。
 とにかく量っか。
 ……ジャイアントボアでも狩ってくるかな?
 明日の昼の献立を考えながらその日は過ぎた。


 次の日、俺は朝早く起きて準備をしていた。
 ジャイアントボアは大森林の東側、中間付近にいるので少し持って帰るのに時間がかかる。
 それに合わせて狩りに行かないと昼なんて簡単に過ぎてしまう。
 部屋に書置きをして俺は大森林の東側に向かった。

 ちゃっちゃと東側に到着、ボアを探しに動く。
 俺はこの東側で修業しまくってたから大体の予想はできる、ただ問題は今が秋に近いことだ。
 爺さんの話だとボアは冬眠のため、この時期に大量に飯を食うらしい。
 おかげで特に凶暴化したボアは少し厄介だとか。

 少し歩いただけでボアが掘って食った跡が残っている、できれば雄が美味いんだよな~雌も美味いがたいていこの時期は子供が居てさらに危険になってるから子持ちは狩りたくないな~。

 匂いと音を頼りに探すといたボアは一匹、たぶん雄だ。
 運がいいので早速狩る。
 でかい声で悲鳴を上げたがこれも食うためだ許せ。
 こうして昼のパーティー食材は狩る事ができた。

 昼になる少し前にギリギリ公国に帰ってこれた。
 ボアを引きずってきたので驚かれたが、俺だと分かると門番のおっさんが納得したような顔をしたのが何となく気に入らない。
 一応書置きでギルド前に集合と書いておいたがもう居るかな?

「リュウさん何連れて来たんですか!?」
「お、もう居たか」
 引きずってるとアリスの他に五人の男女が居た。
 たぶんあれがアリスの仲間なのだろう。

「そのおっきいの何ですか!?」
「こいつを昼飯にと思って狩って来ただけだ。さっさと食うぞ」
「それ確か高級食材のジャイアントボアですよね?」
「え、こんなのが高級食材扱いなの?初めて知った」
「本当に食べて良いんですか!」
「食うために持て来たんだよ。むしろ残したら拳骨な」
「残しません‼」
「それじゃ、捌くから少し退いてな」
 おとなしく下がったアリスだが他の五人はまだ固まってたのでアリスが退かした。
 ボアはデカ過ぎるのでギルドの中に入れない、だから外で解体するしかない。

 俺は久々にロウを使って解体していく。
 牙に皮、骨は卸すので傷付けないように肉を捌く。
 かなりのグロ光景に口を押さえる通行人もたまにいたがごめんなさい、だってギルドに入んないから仕方ねぇんだよ。
 手早く終わらせるとなぜか拍手が起こっていた。

「凄いですねリュウさん。こんなきれいに捌ける物なんですね」
「このぐらいギルドお抱えの解体連中だって出来るだろ」
「なんでこんなにきれいに解体出来るんですか?」
「さぁ?多分『調教師』だからだろ」
 あくまで自論だが調教師は生物を相手にする職業だ。
 生物を知る、つまり相手の生態、骨格、筋肉の動き方を最も知りやすい職が調教師だと思っている。
『医術師』は主に人間を相手にしているが多分捌く物さえあれば似たような事は出来るだろう。
 その事をアリスに伝えてみると。

「そう言われるとそう思えてきました。相手がどう動けて、どう動けないか知ってるだけでも有利ですからね」
「そう言う事。さて、飯にするか」
 余った骨や皮はギルドに卸して肉はすぐに焼いて食うことにしよう。