「本当にもうしないでしょうか?」
 黒牙を出て少ししてアリスが聞いてきた。
 そりゃ当然の疑問だが後はあいつらを信用するしかない。

「さぁな。あいつら元々そんなに悪い感じはしなかったし、多分大丈夫じゃないか?」
「それも勘ですか」
「ああ。でもあいつらのエルフは単なる戦力増加のために捕まえてたみたいだし他に比べればマシな部類だと思うけど」
 さっきもらった書類にはご丁寧に購入理由まで書いてあった。
 他の裏ギルドに譲る前はそこまで悪い待遇ではなかったようだし、購入理由も戦力増加のためと書いてある。

「全て疑ってちゃ疲れるし良いとこで切り落とせば大丈夫だって」
「そういうものですかね?」
「俺はそう思ってる」
「次は私達に協力してもらいますよ」
「分かってる」
 次というのは貴族連中の摘発に協力すること。
 今夜忍び込んで開放したのはごく一部のエルフと精霊だけ、残りは正面から国の騎士団を使って拉致られたエルフと精霊を取り戻すらしい。

 今回の事件でほとんどの悪徳貴族を一網打尽にするつもりらしい。
 俺としては事件の摘発とか関係なくそんな連中殺せば?と思うがきちんと法に従って裁くのが情報部《かれら》のポリシーだとか。

 そういうことを聞くと俺ってやっぱり魔物思考になってきたなとつくづく思う。
 アリスに今回の事件に関わった貴族の罪はどうなるか聞いたら身分剥奪の上で国外追放か、極刑の可能性もあるらしい。
 奴隷を正規購入してるならともかく、非正規奴隷の所持はかなり重いとか。

「でも俺に出来る事なんて少ないと思うけどな」
「摘発では騎士団の方々が動きますし私達は貴族が逃げたら捕まえるのが仕事ですからね」
「それも騎士団の仕事だと俺は思う」
「それがたまに厄介な貴族がいるんですよ。屋敷のどこかに抜け穴を作ってる貴族とか、酷いときは転移魔方陣を用意してるところもあるぐらいですからね」
「そりゃまたずいぶん金をかけた貴族がいたもんだ」
 転移魔方陣は確かに便利な魔術ではあるが標高やらなんやらを計算してようやく安全に使える癖の強い魔術だったりする。
 計算が違えば空から落ちることになるし、逆に地面に生き埋めになることもある。
 なので転移系の魔術はかなりの腕前を持つ魔術師にしかできない魔術だったりするので、依頼して設置するとなるとかなりの金が必要になるのだ。

「おかげで苦労しましたよ。魔術師の方に計算してもらってどこに行ったか調べてもらったり、追いかけるために走り回ったり……」
「あ~なんとなく分かったから鬱になるのは止めような」
 俺は資料を渡しながら言った。
 もしエルフに金をかけていたら転移魔方陣を設置してるとこは多分ないだろう。

「今日は帰って寝るか。明日もエルフを取り返すのに苦労するかもしれないし」
「あ、私はこの資料を先輩達に渡してから宿に戻るのでお先にどうぞ」
「そうだったのか。それじゃあお休み」
「お休みなさいです」
 アリスと別れ、先に宿に戻った俺は驚いた。
 何故かリルにカリン、オウカとティアマトさんが勢揃いして部屋に居た。

「どうした?念話《れんらく》なかったから驚いたぞ」
「もうずっとリュウと触れ合ってなかったからきちゃった」
「パパ頭撫でて~」
「リュウは妻をないがしろにする悪い亭主だったのか?」
「やめてくれよ!そりゃ最近は構ってやれなかったとは思ってるがいきなりこんな特攻してくるとは思ってなかったし」
「リュウ様。皆様とても寂しがっております。どうかお許しください」
「それは許すし、俺にも原因はあるから構わないけどアリスもそのうち帰ってくるからそんなに時間かけて構ってやれねぇぞ?」
 皆の頭を撫でながら一応言っておく。
 そりゃ皆とイチャイチャぐらいはしたいけどさ。
 これでも一応仕事の途中なんだが。

「実はそれを解消するスキルを手に入れたのよ」
「私とお姉ちゃん、オウカちゃんとティアマトさんも同じスキルを覚えたよ」
「スキルの名は『一体化』!これでリュウと一緒にいられるのだ!」
「あれ、俺はそんなスキル持ってないぞ?」
「あくまで私達が一緒に居たいと思う心によって習得できたスキルですのでリュウ様には関係ないかと」
 そう言うもん?
 にしても『一体化』か、どんな効果のスキルなんだ?

「それで使ってみた感想は?」
「まだ使った事ないから、これから使うのよ」
「ちょ!実験無しでいきなりかよ!」
「大丈夫大丈夫、体に害はないから」
 リルが狼の状態で俺の身体に入り込んだ!?
 俺の身体に水の波紋みたいなものができて、するりと入った。

「え!これ本当に大丈夫なのか!?」
「二番カリン行きます!」
「三番オウカ行くのだ!」
「私も失礼します」
 次々に入り込んでくる嫁達を止めようと手を出すが抵抗むなしく皆入り込んでしまった。
 これ本当に大丈夫なんだよな!?

『へ~これがリュウの中。すごい魔力量ね』
『パパの中広ーい‼』
『しかしこれは魔力量が多すぎではないか?』
『オウカ様大丈夫ですか。オウカ様にはまだ濃すぎると思うのですが』
 ああ、皆無事みたいだな。
 しっかし『一体化』ってこんな感じで使うスキルなのか?
 俺はベッドに寝転びながらそう思った。

『何とか大丈夫なのだ。しかしこれはドラゴンの気配がするのだが……』
『確かに……あっちの明るい所からね』
『それじゃあパパの中を探検だー!』
『カリン殿待って欲しいのだ!』
『オウカ様!カリン様!急に走ってはいけません‼』
『ティアマトさん、子供二人を見失う前に行きますよ!』
 カリンとオウカを追いかける保護者二人!
 多分明るい所って多分俺の魂だよな?
 あー!ちょっと待って!まさかこのままだとあいつと鉢合わせすることになるんじゃ‼
 今はダメだ今はダメだ!

『あいつってアジ・ダハーカの事?』
 違うけど他にヤバいのが!って聞こえてんの?
『皆に聞こえてますよリュウ様。それで誰が居るのでしょうか?』
 ……ヤバい、俺の状況が本気でヤバい!
『あれ?あそこに誰かいる』
『本当なのだ。おーい!』
 見つかった!?

『……まさか『一体化』でリュウの中に侵入してくるなんて』
 見つかったーーーーー‼
 終わった、俺の人生終わった。

『お姉さんは誰?私はカリンだよ』
『私はオウカなのだ。貴女からドラゴンの気配がするが同族で間違いないだろうか?』
『……そうね。私はドラゴンよ、名前はウル。リュウの最初の従魔よ』
『……………え?』
 リルが俺に悲しそうな視線を送る。
 その顔が見たくなかったから言えなかったんだよ。

『お久しぶりです。我らの母よ』
『やめなさいティアマト、ここでは私はただのドラゴンです。ここではそう畏まる必要はありません』
『ですが……』
『相変わらず固いですね貴女は。今はリュウの従魔でしかありません』
 ティアマトさんとウルが話してる間もリルは悲しそうにずっと視線をお送り続けている。

『リュウ…………』
 リル、そのごめん。言い出しにくくって。
『いつ契約したの?』
 ガキの頃だ、リルに合うずっと前。
『そう…………』
 やべぇ、罪悪感が半端ない。
 でも言い訳しようにも何て言えばいいか分かんないし、どうすれば……

『リルさん。初めまして、ウルと言います』
『え、ええ』
『外でリュウを守っていただきありがとうございました』
『え、貴女がリュウを守っていたのではないの?』
『守れていたのは魔力ぐらいです。自己再生に必要なエネルギーや覇気の必要なエネルギーを補うぐらいの事しかできませんでした。しかしリルさんは外で様々な事から守ってくれました。そのお礼です』
 ウル?何を考えてる。

『まあ、それなりには守ってきたけど』
『しかし、リュウの一番だけは譲りません』
 あれ!?途中までいい雰囲気だったよな‼
 そう言うとリルは顔を真っ赤にして吠えた。

『何よいきなり!リュウの一番は私に決まっているでしょ‼』
『年期が違うのでそうとは言えないですよ』
『何よ!よくリュウは私を抱きしめて寝てる事が多かったんだから‼』
『私だって外にいたときはよく一緒にお昼寝をしてリュウの寝顔を堪能してました‼』
『リュウはよく私の髪を褒めてくれるわ!』
『そのぐらい私もあります!』
 ……何だろう、この俺の暴露トークは?恥ずかしいんだけど。
 白熱して色々と俺の恥ずかしい過去がどんどん出てきてるが。

『怖いのなくなったね』
『オウカ様あの中に参加しなければ正妻にはなれませんよ』
『多分簡単に負けるのだ』
 あ~なんかごめんな。
 俺の体内に居るって言っても信じてくれる気がしなくてさ。

『……では罰としてしばらくここに居させて貰いましょう』
 あれ?そんなんでいいの?
『私も賛成!』
『私もなのだ!』
 まぁ皆が良いなら良いけど。

『ちょっと、この狼は嫌よ!』
『勝手な事言わないでよ!私はリュウの奥さんなんだから!』
 うん。リルとウルに喧嘩友達が出来たって事にして今日は寝よ。