ティアマトさんが速攻で仕掛ける。
 特に慌てる事もなく、ティアマトさんの拳や蹴りを防ぐ。

 まずティアマトさんは短期戦か長期戦かを見極めるために少しの間受け身になる。
 ティアマトさんはバランスタイプといった感じで、あらゆる状況でも攻撃出来る手段を持っている。

 近距離なら今のように格闘戦も出来るし、長距離ならブレスで攻める事が出来る。正に遠近共に優れたドラゴンはティアマトさんだろう。

 オルムさんは接近戦が得意で、グウィパーさんは防御とブレスによる長距離戦が得意だった。
 性格や種族、進化によって戦い方も変わるだろうがティアマトさんほどバランスを重視しているのも珍しい。

 俺も今回はロウを装備してはいるがまだ使うかは分からない。
 元々ティアマトさんがドラゴンの姿で戦う時のために用意していたので、人間の姿ではいつ使うかはまだ不明。

 今回ティアマトさんが人間の姿で戦うのを決めたのはおそらく体格差を無くすため。
 普通なら身体の大きい方が有利だが俺は体格差に関係無く殴り飛ばせるし、ティアマトさんのドラゴンの姿は四足全てを地面に付けたタイプ。
 腹の下までは見えない。

 龍皇も手足はあるが二足で立てるタイプ、オルムさんは手足の無い蛇のようなタイプならあまり問題無いのかもしれないが、急所となる腹が丸出しになってしまう小さい人間の俺では部が悪いと思っての選択だろう。

「まだ様子見ですか」
「ええ。弱い人間なのでじっくり観察させてもらってます」
「あまり長く見てると意外な攻撃に足を掬われますよ!」
 頭を狙ったハイキック、俺は後ろに跳んだ。
 その後に尾が迫っているのを『魔力探知』で知っていたから。

「……そう言えば『魔力探知』や『第六感』を持っていましたね」
「はい。だから言いましたよね?じっくり観察してるって」
 ティアマトさんは既にドラゴンの角と尾を出していた。

 これは前に龍皇とグウィパーさんがやっていたので、いつか使っては来ると思ってたが、まさか不意討ちで使うとは思ってなかった。

 後でグウィパーさんにネタバレしてもらった所、これは人化の術を一部解除しただけらしい。
 ただサイズは任意で変更出来るらしいが元のドラゴンのサイズ以上にはならないのが救いか。

 問題は相手がいつ解除するかと解除する身体の場所だ。
 もし拳と拳がぶつかった時、いきなり解除してドラゴンの腕で殴られる可能性は充分にあることが俺にとって一番の問題になる。

 でも攻めなきゃ勝てない。
 守って体力を削る事は出来ても倒せない。

「それじゃ、俺もそろそろ攻めますか」
「やっとですか。来なさい、女王の力を見せ付けてあげましょう」
 俺は改めて構える。
 これは俺の力をティアマトさんに見せるための場所でもある。
 敬意を持って倒そう!

 俺はティアマトさんの腹を思いっきり殴る。
 いやちゃんと殴れてない。
 殴られた瞬間後ろに跳んでダメージを減らしていた。
 今のは経験のなせる技ってとこか。

「驚きました。私の修練をしている時はここまで強い拳ではなかったはずです」
「そりゃ成長しないと生き残れないので」
「その成長、どこまで育っているか確めさせていただきます」
 俺はティアマトさんの攻撃を今までみたいに防がず、避けてカウンター気味に殴り返す。

 それにどこか嬉しそうにしたティアマトさん。
 結局ティアマトさんもドラゴンだと言う事。
 なんだかんだで互いに力をぶつけ合うのが楽しいのだろう。

 俺はそれに答える必要がある。
 出来なければそれで終わる。

 ………いや、これだとダメだ。
 思考に力を割いて意味の無い攻撃が多い。
 ならどうする?思考を捨てるか?
 それで勝てるのか?

 また良い拳が俺に決まる。
 よろめいた隙に拳と蹴りコンボで浮かされ、更にブレスで追撃を食らって仰向けに倒れる。

「げほっ、はぁはぁ」
「……この程度ですか。残念です」
 多少の打撲ぐらいしかついてない。
 これが俺の限界?

 とどめを刺すために近付いて来る。
 巨大なオーラが手に集まっていく。
 ヤバい、どうすれば助かる?
 どうすればこの危機を乗り越えられる!

「さようならリュウ」
 殺され!?

「がっは!」
 咄嗟に足が出た。
 これは『生存本能』か?

 ………ああなんだ、考えなんていらなかったのか。

「驚きました。まだ動けたのですね」
「ええ。まだ戦えます」
 俺はゆっくりと立ち上がりながら言った。

「しかしその様子では長くは保たないのでは?」
「はい。保たないので速攻で倒します」
 俺はティアマトさんの目の前に動いた。

「っ‼」
 何も考えずただ殴りにいく。
 ひたすら殴って蹴って、追い詰める。

「何故、何故急に!?」
「俺はとあるスキルを間違って使ってた事に気が付いただけですよ」
 そうスキル『生存本能』に統合された『第六感』。

 このスキルを俺は今まで防御にばかり使ってきた。
 しかしこのスキルは攻防一体のスキル。
 本能で危険を察知し、本能で最善の攻撃が分かるのが『第六感』。
 俺は素直にそのスキルに身を任せただけ。

 リルやカリン、オウカが言っていたように、気負い過ぎていた。考え過ぎていた。
 俺はそれを止めただけ。

「ティアマトさん。悪いですが逆転させてもらいます」
 怒涛とはこういう時に使うのだろう。
 負け直前だったぼろぼろの身体で確実にダメージを与え、一歩ずつ近付いていく。

「まさか、こんな手段があったなんて!?」
「弱いから、ひたすら強くなるために頑張って来ました。弱いから、ひたすら強い奴と戦って来ました。その修業の成果がこれです。認めてくれますか?」
「……認めざる負えないじゃないですか!」
 ティアマトさんも負けじと戦うがもう大分弱っていた。
 なら敬意を持って言おう。

「ありがとうございました」
 腹を抉るように拳を食い込ませ、魔力を放出した。

 ティアマトさんは闘技場の壁にぶち当り、気絶する。
 瞬間大歓声が響いたが俺も疲れきってその場で気絶した。