次の日、もう一度龍皇とグウィバーさん夫婦に組手を頼んだ。
 昨日リルとカリンに言われた所を改善するために。

「再び私達と戦いたいとはたいした根性だ」
「リュウ、よろしいので?」
「はい、大丈夫です。今日は勝ちにいきます」
 思い出せ、ダハーカの一戦を。
 ただただ楽しく感じた一戦を。

「では始めようか」
「お願いします」
 龍皇が構えたので俺も構える。
 グウィバーさんは俺を見て何か警戒しているように見える。
 昨日とは何か違うように見えたのだろうか?

「はぁ!」
 龍皇が先にしかける。
 俺は冷静に戦闘系スキルを発動、龍皇の攻撃をカウンターで顔を殴り返す。

「ぐぅ!」
 更に距離をとるために腹を思いっきり殴った。

「がはぁ!」
 龍皇の次にすぐグウィバーさんが来ると思ってたが何故か来なかった。

「ドライグ、今の拳どうでした」
「……重い、昨日の拳よりはるかに重い。昨日のリュウは本気ではなかったと見るべきか?」
「と、言うよりは迷いが無くなったと見るべきでしょう。今の拳が、おそらくアジ・ダハーカを倒した拳なのでしょう」
 まさか意識の違いだけで、ここまで違うとは俺自身も驚いた。
 そうだダハーカの時のように敬意をはらい、全力で殴る。これが俺のバトルスタイル、善も悪も関係無い、殴り合い。

「今のリュウはまさしく邪龍を倒した英雄の拳です。ドライグ、全力でいきますよ」
「ああ、アジ・ダハーカが満足した理由がようやく分かった。あの拳がアジ・ダハーカを満足させたのだな」
 実際は剣技もあったけどな。

 そして龍皇のグウィバーさんのコンビネーション攻撃が始まる。
 龍皇が攻撃メインでグウィバーさんが防御メインなのは昨日の戦いで分かった。
 普通は二人を分断させるのだろうが俺はしない。
 真っ正面から二人を同時に相手する。
 バカな戦略なのは分かっているがこれが俺なりの敬意。

 龍皇夫婦は人間の姿のままでドラゴンを象徴する角に翼、尾を出して俺に向かって来る。
 龍皇の蹴りを片手で防ぎ殴ろうとしたが、グウィバーさんの拳が殴らせない。
 グウィバーさんの拳を掴み龍皇に投げ付ける。
 龍皇が受け止めた所を俺はグウィバーさんに蹴りを入れる。

 蹴られたグウィバーさんは俺にブレスを放つ。
 俺は両手をクロスさせるように身を守ったが身体が少し凍る。
『覇気』で身を守っているがそれでも凍るのがグウィバーさんのブレスの力。
 そこに龍皇が後ろから攻撃する。

 龍皇の攻撃によって上に飛ばされたが俺はすかさず魔力放出で二人を攻撃、グウィバーさんはブレスで相殺、龍皇は攻撃後の隙があったので、もろにくらったように見える。

 地に降りた瞬間グウィバーさんが殴りにきたが俺も殴ったが龍皇やオルムさん程の攻撃力はない。
 俺とグウィバーさんの拳がぶつかったがグウィバーさんが競り負けた。
 その隙にグウィバーさんの顔を殴ろうとしたが龍皇が後ろから俺を殴る。

 俺はわざと拳の勢いに抵抗せず飛んで距離をあけた。
 その後改めて龍皇とグウィバーさんに向き合う。

「ふう、やっぱ強いな」
「それは私達のセリフだ」
「ええ、流石アジ・ダハーカと殴り合った英雄です」
 龍皇とグウィバーさんに言われるのはちょっと嬉しい。
 でも今は。

「もう少し付き合ってもらいますよ。お二人共!」
「こい!」
「来なさいリュウ!」
 勝負を楽しもう。


 大分長いこと勝負して時間がたった。
 結果は俺の勝ち、理由はグウィバーさんに参ったと言わせたからだ。

「あ~疲れた」
 流石にドラゴン二体はやっぱり疲れる。
 ま、ダハーカの眷族よりはましか?不特定多数の敵に襲われるよりは。

「リュウ……まだ動けるのか……」
「これが若さ……でしょうか?」
 子供がまだちっこいのに何言ってんだか。

 けど今回の経験で大分慣れた。
 仲間や大切な誰かの殴る心構えを。

「お二人共、今日はありがとうございました」
「……ティアマトに勝てそうか?」
「勝てるかまでは分かりませんが思いっきり殴れそうです」
「なら良い」
 龍皇はどこか満足そうに言った。

 さて褒賞式はもうすぐ行われる。