爺さんに噛まれて数分後。

『もう大丈夫じゃな』

 そう言って俺の腕から口を離した。

 毛並みも初めて見た時より艶もあるし、肢体もしっかりと地面を踏み締めている。
 と、言っても病み上がりなのは変わらないので念のため触診したが何ともなかった。

「流石伝説様だ。魔力を補っただけで、ここまで回復するとは」

『お主の魔力がよかったからの。それよりその魔力を使いこなしたいと』

「ああ、流石に町やらで特訓する訳にもいかないからな。ここなら人もめったに来ないだろうし、いい修行場になる」

『それは構わん。しかしまずはここで生きていく力を手に入れんといかん。でなければすぐに死んでまうぞ』

 え、そこからなの?俺の修行って、そっから始まるの?

『お義父様!それはいけません‼この様な人間を群れに入れるのですか!?』

『何を今さら。儂を助ける代わりに儂らの群れに身を置くのが条件じゃったろ』

『それはそうですが、この人間はあまりにも不審です‼あの力が我らに向けばこの群れは‼』

『その時は殺せばよい』

 ヤッパ納得しない奴も出てくるか。

 どう説得するかなぁ。

 すると爺さんからとんでもない殺気が!?

『貴様、儂の命の恩人を殺すと言ったか?』

 なにこの殺気。向けられてない俺もメッチャ怖いんですけど‼
 って逃げるな外野の狼ども‼いや本当逃げないで、本当に怖いんだって‼

『やっぱりお祖父様は凄いわ、これほどの殺気を放つなんて』

「お前の爺さん何者だよ」

『お祖父様は初代フェンリルよ。修行と進化を繰り返すうちに今の存在になったそうよ』

 初代か、納得。
 そりゃ強いに決まってる。
 だって親父さん完全にビビってるし、周りの連中が逃げ出す訳だ。

「なぁ爺さん。ここで生きていくに必要な力はどのぐらい要るんだ?」

 とりあえず話をブッタ切ろう。このまんまだと話進まん。

『む、必要な力はかなり多い。しかも人間のままでは我々の領域までは多くの壁があるぞ』

「人間を辞めろ……か。ま、いいよ別にそのぐらいなら」

『案外あっさりしてるのぉ。恐ろしくないのか?』

「怖いか怖くないかの二択なら怖いよ。でも何も出来ずに死ぬよりはマシだろ」

『平然と言うのぉ』

 苦笑いしながら爺さんは言った。
 狂ってるのは自覚してる。
 でもやっぱり力は欲しい。そのぐらい良いだろ?男なんだからさ。

『まぁよい。力は持っていて損は無いからの、欲しけりゃ持って行くが良い』

 ヤッパ楽だわー、魔物は力を得ようとすることに疑問を持ったり、なぜ得ようとするかいちいち小煩くない。

「そんじゃ稽古でも付けてくれるのか?」

『まだダメじゃ。今やったら一秒も持たん、まずは体作りからじゃ』

 そりゃそうか、とりあえず今後の方針が決まっただけでもいいか。