「調教師がよくここまで来たな」

 何も無いただの鉄の部屋にしか見えない場所だった。
 ただこの部屋に入った時から力が入りづらくなった気がする。
 とりあえず返事しとくか。

「おかげで偽王に色々と面倒臭い事になったがな」
「俺の愚弟は元気か?」
「元気なせいでこんな所に居るがな」
「それはすまない。俺から謝罪する」
 胡座を掻いて頭を下げようとしたが止めた。

「しなくていい、させるなら弟の方にさせる。それより依頼がある。どちらかと言うとそっちの方を聞いて欲しい」
「依頼とは?」
「これを短剣に出来る存在を捜している。その情報が欲しい」
 右手の牙をドワルに見せる。

「手にとっていいか?」
「良いよ。かなり希少《レア》な素材だから傷付けんなよ」
 俺はドワルに牙を渡した。
 あえて爺さんの事は聞かない。偽王のせいで若干人間不審になってる気がする。

「これは……この牙はフェンリル殿の牙か?いやあの方が負けるはずは………」
 へえ分かるんだ。爺さんが言ってたドワーフはこの人で合ってるみたいだな。

「これはそのフェンリルに貰った牙だ。昔の喧嘩で欠けた牙を貰ったんだ」
「なんと!あのフェンリル殿に気に入られたのか!お前…いやあなたは一体何者ですか?」
「敬語を使われるのは苦手だ。普段通りでいい、それよりそれを加工出来る存在を知ってるか?」
 ドワル王はジット牙を視ていると何か気迫のようなものが身体から現れると力強く言った。

「俺に打たせて欲しい!あのフェンリル殿の牙を他の誰かに任せられない、任せたくない‼この牙なら伝説《レジェンド》級の武具が造れる‼おそらく俺にとっても最高傑作になるだろう‼」
 何だか滅茶苦茶興奮してるが頼むのは造る所までだぞ。

「その武具は俺が使うが?」
「いや、お前以外に使えないだろう。この牙はまだ素材だがお前以外に使われるのは嫌うだろうな」
「嫌う?まるで生き物のように例えるな」
「俺達、鍛冶師からすれば鉄も魔物の素材も生きているようなものだ。素材の声を聞き、俺達はその声に導かれて最高の武具を造れると信じている」
 素材の声か………嫌な表現じゃ無い。むしろ気に入った。

「分かった、この牙はドワル王に頼む」
「‼本当か!?」
「本当だ。ただしこの騒動を終わらせてからだ。後牙の加工はどのぐらい時間が掛かる?」
「………納得の出来る物を造りたい。最低一月、下手すれば一年掛かるかもしれん」
 い、一年か。そりゃ爺さんの牙は頑丈で何でも切れるがそこまで時間の掛かる素材だったとは…………

「分かった。後必要な道具や素材は俺に言ってくれ、俺の剣だ。俺も出来るだけ協力する」
「それは助かる。おそらくただの炎では熱すら入らん、何処かの強力な魔物の炎が必用になるだろうからな」
 火の時点で既に探さんといかんのか!?
 ま、まぁしゃーないだろ。爺さんの牙は規格外だろうし……

「とりあえずドワルはこの変な部屋から出よう。出なきゃ加工も何も出来ない」
「そうだな、まずは弟から鍛冶場を取り戻さなければいけないな」

 それじゃ一つ喧嘩しますか。