朝、森を出てドワーフの国に行く日。
 親父さんが朝から踏まれていた。

「えっと?」
『ごめんなさいね、リュウ。この夫《バカ》が娘と離れたくないと』
「ああ、なるほど」納得。

 親父さんが俺を強く睨み付ける。いやそんなに威嚇すんなよ。娘と二人旅する相手が気に入らないのはわかったからさ。

「それでお嬢はまだですか?」
『きっとリュウも驚くと思いますよ』
 奥さんは笑いながら言った。
 一体何に驚くのか期待しながら待つと。

「お、お待たせしました」
 綺麗な女の子が爺さんの後ろからそっと出てきた。
 漆黒の髪に白い肌、胸は少し小さめに見えるが多分歳は俺より少し下だろうか?将来的はデカイ。

「えっと爺さん、その娘は?」
『くくく、やはりわからんか。ほれ自己紹介せい』
「えっと、本当にわからないのリュウ?」
 向こうは俺を知ってる?あと爺さんや奥さんの反応を見る限り俺も知ってる娘のはず。そしてこの声はよく聞くお嬢の声と同じ………ん?同じ?え、てことは!?
「もしかしてお嬢‼」
「あはは、バレちゃった」
 どうなってんだこりゃ!?お嬢が人の姿になった‼

「人化の術、成功ですね。お婆様!」
『ええ、これで少しは人の目を欺く事ができるでしょう』

 確か完成度は高いが……
「その尻尾と耳は隠せないのか?」
「そこはまだ練習不足だし、出しておかないと落ち着かないのよ」
 へぇ、そんな弱点があったとは。

『リュウ、孫はご覧の通りまだ術を使いこなしている訳ではありません。なのでわたくし達の代わりに護ってあげて下さいね』
「はい。お嬢は護らせてもらいます」
 そう言うとお嬢が顔を真っ赤にして尻尾を振った。
 そんなに喜ぶ事かね?

『お父様、これならあれもよろしいのでは?』
『そうじゃのう。だがちと寂しくもあるのう……』
『仕方ないですよあなた。孫も既に女なのですよ』
 婆ちゃんが爺さんに顔を擦り付ける。
 一体何の話だ?

『リュウ、心して聞け』
 いや本当どうしたの?こんなマジな空気出してさ。
『これからリュウに我が孫娘の真名を教えようと思う』
 真名?お嬢の真名を教える?ちょっと待て。

「爺さん。お嬢の、いや魔物の名前はばらしちゃいけないものだろ?何で俺に教えようと思った?」
『その子がお主を強く求めているからじゃよ』
「ペット感覚じゃなかったけ?」
『そんなちんけな絆なら教えんわい。お主なら問題無いわ』
 そんなに期待されても困る。
 俺は人間だしお嬢より弱い。
 なのに何でそんなに俺を期待できるのかわかんね。

「何でそんなに俺を信頼できるんだか」
『リュウは自分で感じているより義理堅い。そうでなければ孫をやるわけがない』
「ならお嬢を従魔にしてもいいんだな?」
『一生添い遂げるなら』
 平然と言いやがった。

「なら貰っていく。お嬢、俺の女になれ」
 俺は強気に言った。

「なんか強気のリュウも良い」
 また尻尾を振った。え、強気でいっていいの?

「じゃ名前教え「いや、止めとけ俺が新しく『名付け』る」
『リュウ!?』
「爺さん。大事な名前だ、それは本当にいつか来る大事な日のために残しとけ」
「でもリュウ。『名付け』は危険何でしょ」
「俺の魔力量はとんでもないのは知ってるだろ?だから安心しろ、大した事はない。それより俺のネーミングセンスの方が不安だ」
「どんな名前?」
「一応シンプルに『リル』って考えた」
「本当にシンプルな名前だ……」
「やっぱダメ?」
「ううん。それでいい。それが良い‼」
 この瞬間、『リル』との間に魂の繋がりができた。
 とても温かく気持ちいい感覚。ずっとこの感覚を大切にしたい。

「爺さん。リルは俺が護り抜く」
『頼むぞ』
「当たり前だ。たまには連れて帰る」
『その時は曾孫も頼む』
「気が早すぎる。行こうかリル」
「ええ、お祖父様、お婆様、お母様。行って参ります‼」
『お父様は‼お父様にも言ってくれ‼』
 しかしお嬢改めリルは何も言わず、リルと俺の二人旅が始まった。