力抜きまくって負けて起きたらやけに薬臭い部屋に居た。
 多分ここは……医務室か?
 硬いベッドにとにかく白一色の布団、うん、百パー医務室のベッドだ。
 気絶だけで医務室に寝かせる必要なんてないのに。

 そう思って身体を起こそうとすると可愛いのが四人、布団の中に居た。
 狼に鷲、ピンクと蒼いドラゴンが狭いベッドの上でくっ付きながら寝ている。
 皆俺の腹の上で静かにしていた。
 どうやら心配をかけたようなので軽く頭を撫でると皆くすぐったそうに身を捩る。
 カワイイと思い、起こさない様にそっと撫でているとノックがした。
 部屋に入ってきたのは白衣の男とティアだった。

「起きましたか」
「えっと?」
「覚えていませんか?あなたは闘技場で気絶していました」
「それよりどのぐらい寝てました?」
「大して寝てませんよ。ざっと五分ぐらいです」
 壁の時計を見ながら言う白衣の男、多分医者なんだろう。
 医者と思われる男は俺の目を見ながら診察する。

「問題なさそうですね。意識もはっきりとしていますし頭の怪我もこぶだけだったので大丈夫でしょう」
「ありがとうごさいます」
「これも仕事なので気にしなくて結構ですよ」
 ティアが礼を言うが特に気にした様子もなくまた部屋から出て行った。
 俺は腹の上の四人を起こそうと手を掛けようとした時にティアが声をかけてきた。

「どうかした」
「気絶する前のこと覚えてる?」
 どこかそわそわとした様子で聞いてくるティア。
 あの諦めない宣言の事か。

「覚えてる」
「そう……なら良いや」
「全く、諦めの悪いのはいつからだよ」
「分かんない。けど急に出て来たリルさん達に負けたくないのは本当、だってずっと好きだったんだもん」
「まぁ……分からなくはないか」
 突然出て来た女に惚れた男を分捕られたらそりゃ諦めきれないか。

「だから今度は私がリュウを好きにさせるから覚悟しといてね」
 そう言うティアは俺を指しながら明るく宣言した。
 ……案外そう時間は掛からないかも知れなかったりしてな。

「だがティア、鈍感な俺を惚れさせたかったら相当頑張んないとダメだからな。覚悟しとけ」
「そんなのずっと前から知ってる。だから先にはっきりと言わせてもらいました」
「なら俺は浮気しない様に気を引き締めないといけないな」
「どうせならリュウのハーレムに入れてよ。出来れば独占したいけどそれは無理そうだし」
 そう言ってリル達を見る。
 このメンバーに勝つのは難しいと俺でも分かる。
 特に警戒するべきはアオイかな?

「ところでまた旅に出るの?」
「ああ、今度は東の国で刀について学びたくてな。基礎や応用でさらに強くなれるなら願ったりだ」
「……リュウってそんなに力に貪欲だったけ?」
「……一応切っ掛けはお前なんだけどな」
「え?」
 どこか不思議そうに聞いてくるティア。
 そう言えば力を求める切っ掛けについてはウル以外には誰にも言ってないか。

「お前が腹に大怪我したって聞いた時歯痒かった。お前が戦地で頑張ってる間の俺は犬猫と遊んでたわけだしな、そんな自分が嫌で力を求め始めた。と言っても当時は筋トレぐらいで大した事はしてなかったんだけどな」
 軽く笑いながら言うとティアは顔を俯いたまま何かぽつりと言った。
 その言葉は俺には聞こえなかった。
 顔を上げるとティアは真っ赤な顔で言う。

「その今日は宿でリュウを送り出す会みたいなのするからすぐに来てね!それじゃ!」
 早口にそう言って医務室を出て行った。
 何だあの赤い顔、初めて見た。

「これは強力そうなライバル登場ね」
「パパの事大好きだから簡単にあげないよ!」
「勇者も最初に比べると大分変ったのだ」
「ふふ、リュウ様の妻にふさわしいかは私が判断いたしましょう」
 布団の中で寝ていたはずの四人が目を覚ました。
 やっぱり起きてたか。

「で、皆はどう思ってんだ。ティアの事」
「私は構わないわよ」
「パパが良いならいいよ」
「私も構わないのだ」
「私はある程度の実力があるか確認したうえで判断したいと思います」
 四人中三人はあっさりしているがどうにかなりそうだ。
 しかし一つだけ気になる事がある。

「ティアが最後に出したあれ、何か知ってるか」
 そう聞いてみたが誰も分からない様だ。

「それは私から答えよう」
 その声が聞こえたのはドアを開けたダハーカだった。

「あれが何か知ってんのか?」
「あれは勇者の持つスキル『覚醒』。一時的だが全能力を上げる勇者のみが使えるスキルだ」
「……成長したらヤバそうなスキルだな。俺の『生存本能』とは違うんだろ」
「そうだ。覚醒は肉体そのものに作用するものではなく、全身を包むオーラから力を引き上げるものだ。しかし覚醒が発現するきっかけは勇者によって違うのがデメリットか。おそらく勇者が使った覚醒はまぐれだろう」
「でもそのまぐれで気絶したんだ。今はいいが後々面倒そうだ」
 おそらくティア自身が強くなればなるほど強力になっていくだろう。
 俺の生存本能は潜在能力を無理やり引き上げるスキルだがティアのスキルは纏うオーラから力を上げるスキル、安全性だけ見ればティアの方が有利だ。

「ま、今のティアは魔物をそこまで敵視している訳じゃないしいざとなったら俺が止めるよ」
「そうね。リュウの実力なら問題ないし大丈夫でしょ」
「そうそう、あと今日は飯たっぷり食って明日東の国に行こうか」
 徒歩十日の距離でも俺達からすれば問題ないが魔王の縄張りの傍を通るからには注意が必要だ。
 魔王には魔物の事はばれるだろうが静かに通れば問題は起きないはず。

 そんな感じで考えを纏めた後俺達は宿に戻った。
 そこでは宿の人達が宴会場の一部を整理してパーティー会場に変わっていた。
 俺達が来たのを確認したティアが引っ張り、ドワルの乾杯でパーティーは始まった。

 酒の強いドワル対グランさんの酒の飲み勝負が始まり大いにに会場は盛り上がった。
 しかしここでダハーカが乱入、一番度が高い酒を水の様に飲んだのを見て流石のドワルも降参した。
 アリスは相変わらず飯に直行、マリアさんはお菓子に直行する。
 ティアとタイガはドルフと話している。
 どうやら今回の決闘による話を諸国にどう伝えるかなど、政治的な話をするところを見るとティアは政治的にもやはり重要な存在のようだ。
 リルとカリン、オウカ達は今回のパーティーに参加できたので仲良く飯を食べながら話している。
 最後にアオイは色んな人にナンパされていた。
 どうやらこの国の偉い人やらに誘われたようだがアオイは全く動じずむしろ有力な情報を引き出しているのを見ると相変わらずだなと思ってしまった。

 そして俺は一人柱に寄りかかってグラスの酒をちびちび飲みながら皆の様子を見ていた。
 最近は皆と居る事が多く、賑やかで心地良いがたまには一人で皆の様子を見るのも楽しい。
 飯と酒を交互に飲んで食ってを繰り返している内に柱越しにゲンさんが寄りかかるのを感じた。

「どうだ、楽しんでるか?一人で飲んでる様だが」
「楽しんでるよ。仲間やダチが楽しそうにしてるのを見るのも楽しいもんだ」
「それなら良い、しかし嫌な話が出た。『聖女』と『教皇』が動き出すそうだ」
「動いたらどうなる?」
「魔物達を殲滅する気だそうだ。特に大森林の魔物達をな」
 ……穏やかな話じゃないな。
 もはや第二の故郷と言っても構わない場を殲滅するとは気に入らない。

「最近の教皇は妙だ。確かに魔物嫌いだが強引に話を進める方ではなかった」
「なら聖女の方は」
「力はあるが地位がない。聖女と言っても所詮はシスター、話を進めるだけの発言力はない」
「…………他の第三者が大森林を狙っている可能性があると」
「もしくはお前だリュウ。お前が狙われている可能性が高い。アリスを連絡代わりに置いていく、気を付けろ、相手はもしかしたら」
「何が来てもぶっ殺すよ。俺の大事なものを壊す気なら」
 覚悟決めておくか。
 大虐殺をする覚悟を。

「タイムリミットは?」
「早くて一か月。元々フェンリル退治で使う予定の兵士と教会の戦士合同だそうだ。と言っても俺が口でどうにか教会の兵士だけに抑えてみるがな」
「数は多い方が嬉しいがティアを慕ってる連中を殺すのは気が引けるな。ダメそうなら他の国の連中を寄越す様にしてくれ、そうすれば俺も『魔王』になれるかもしれない」
「…………魔王に至らせる協力はしない。だがおそらくそうなるだろう」
「できるだけバカな連中で頼む。優秀な人材を殺すのは勿体無い」
「善処する」
 そう言って柱から離れて行った。
 刀の修業は出来るだけ早く終わらせておこう。
 それと同時に連絡を爺さんと龍皇に連絡してそこから各長老達にも連絡、場所は……龍皇国と精霊の森に集まってもらうか、二つ一緒ならどうにか収まるだろ。
 連絡は……精霊王に頼むか、全然話とかしてないし。

『…………もう動いてるよ』
『あれ?聞いてた』
『さっき彼、いや彼女から連絡が来たから動いてるよ。風の精霊や妖精達に頼んだよ』
『ならついでに精霊達から情報聞いといて』
『ちょ‼そんなに一気には出来ないよ‼』
『すぐに使う訳じゃない。最低一か月後の戦争のためだ』
『戦争!?』
『多分一方的な殲滅になると思うけど』
 さらっと言うがもし教会の最大戦力がティアなら余裕で勝てる。
 問題は聖女の戦闘力だが……

『僕そんな危険な事に協力しないといけないの……』
『ファイト、俺を手伝ってくれ』
『嫌だぁぁぁぁぁあああああ‼』
 明るく言うがダメか。
 さてと戦争準備をしながら刀の腕を上げるか。