午後の修業も無事終わり、部屋でごろごろしていると部屋の水晶が光った。
 確か連絡用の水晶が光ったとなると相手はあの二人か?

「はい、もしもし」
『やっと完成したぞリュウ!』
「何が完成したか分かるが落ち着け」
 目の下に隈が出来たドワルが映っているがちゃんと寝てたんだろうな。
 多分ドルフも隈を作っているだろう。

「それじゃあ明日取りに行くな。いつ頃が良いよ?」
『いつでもいいぞ。予定としてはリュウの方が忙しいと思うが』
「それじゃ昼に行くわ。楽しみにしてるぞ」
『ああ、待ってる』
 アオイの爪で出来た刀か、きっと綺麗な刀身なんだろうなぁ。
 その時ロウが何か反応した気がするがメインはお前だぞロウ。

「なにかいい事でもありましたか」
「ああいい事があったよ。お前の爪で出来た刀が完成したって」
「それは良かったです」
 そっと入ってきたアオイに話した。
 アオイは茶を淹れながら嬉しそうに笑う。

「少し時間が掛かりましたね」
「時間は気にしてないがきっと良い出来だろうさ」
「いい出来でなければ困ります」
「それは確かに」
 アオイが淹れてくれた茶を少しずつ飲むと少し静かな時間が流れる。
 落ち着いた心地いい時間。
 そんな時に言う事じゃないが今の内に言っておくか。

「アオイ、ちょっといいかな?」
「何でしょうか」
「えっと、その……今夜抱いてもいいか?」
 やっぱダメだ。
 俺に語学が足りない。
 オブラートに言おうと思ったが結局ストレートに聞いてしまった。
 アオイも顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「その、私はかなり年を取っていますし、リル様やカリン様の様な若さはとっくに……」
「関係ねぇよ。俺が決めたんだ、それよりアオイはどうなんだ。やっぱ嫌か?」
「いえ、よろしくお願いします」
 ベッドの上で深々とお辞儀をするアオイに俺は慌てて顔を上げさせた後、俺達は一つになった。

 次の日、いつもより機嫌の良いアオイと反比例してリル達は不機嫌だった。
 そりゃあ仕方ないと思うけど三人の目線が痛い。
 そしてリル達から話を聞いたのか、ティアからはどす黒いオーラが迸っている。
 他の勇者パーティーとアリス、ゲンさんも怯えてる。

 午前の修業はティアとの組み手だったがかなり激しかった。
 怒りのせいか、パワーは上がっていたが細かい動きと綺麗な剣筋がぶれて寧ろ悪くなっている。
 力任せは良いとは限りません。
 そんな感じで午前の修業は終わり、ドワルの所向かう時に面倒事が起きた。

「え、お前らも来んの?」
「当たり前でしょ。リュウがお世話になってる人だもの、私も挨拶ぐらいはしたいわよ」
「僕やグランさんは単にその剣に興味が有るだけだけどね」
 とティア達も付いて来ると言い出した。
 正直あのテンションの二人と勇者パーティーを会わせたくない。
 さっきも断ったのにティアはまだ諦めない。
 どうしたもんかな?

『リュウ様、もういっその事全て話てのはいかがでしょう。行動を共にしている以上隠し通すのは難しいかと』
『それは確かだがドワル達は許してくれるかな?』
『では私が先に行って参ります。その際に事情を話します』
『……頼んだ』
 アオイは一つ頭を下げると気配一つ感じさせずドワル達に向かった。
 さて、俺も事情説明頑張ってみるか。

「あ~分かったよ。会わせるから落ち着け」
「ようやくね」
 根気勝ちしたと思ってる様だが決め手はアオイだからな。

「まずこれから会う鍛冶師はこの国の国王だ」
「…………それってドワル様の事?」
「そうだ。前にこの国に来たときもドワルに頼んだんだよ。ちなみにその時持って来たのはフェンリルの牙だ」
「………………ちょっと待って。それってこの間雲を切ったって剣の事?」
「多分それで合ってる。試し切りで雲を切ったらしい。それじゃ話も長くなるし、歩きながら話そっか」
 歩き出すと慌ててティア達が付いてくる。
 まだ驚いているが構わず話を続ける。

「そして今はアオイの爪で刀の製作を頼んでた所だ」
「ちょっと色々待って!ドワル様に剣の製作を頼んだ事よりもっと大変な事言わなかった!?フェンリルの牙をどうやって手に入れたの‼」
「本人から貰った」
「本人?」
「フェンリルはリルの爺さんだからな」
「リルさんのお爺さん?」
「そうだって。爺さんに鍛えてもらったからな」
 もはや絶句しているティア。
 いやティアだけじゃなく勇者パーティー全員か。

『リュウ様、ドワルから了承を得ました』
『了解、もうすぐそっちに着く』
『分かりました』
 と言っても、もう話す必要はないか。
 必要ないと言うよりは聞いて来ないって方が正しいと思うけど。
 そのままドワルの城に到着、まっすぐ工房に向かった。
 そしてそこに居るドワル達は。

「ぐごごご……」
「すーすー」
 寝てた。
 やっぱり徹夜だったのかドワルはソファーで、ドルフは椅子に座ったまま机で寝てた。
 ティア達も驚きの光景に目を瞬いている。
 俺は前回の時によく見た光景だけどな。

「アオイ、了承うんぬんは」
「寝ていたので勝手にいただきました」
 それは了承を取ってないって言うと思うぞ。
 とにかく起こすか。

「おい、起きろ。おい」
「…………」
「……うんん?……あ、リュウ殿おはようございます」
「おはようドルフ。刀貰いに来た」
「もうそんな時間ですか」
「これ以上醜態をさらす前に渡した方が良いと思うぞ」
「醜態?」
 そう言ってようやく俺の後ろにティア達が居る事に気付いた。
 ガタッと椅子から落ちそうになったのを受け止める。

「な、何故勇者がここに!?」
「無理矢理俺に付いて来た。一応アオイを先に行かせて確認をとったつもりだったんだが……」
「起こして下さいよティアマト様!」
「お疲れの様でしたので」
 アオイが悪びれずに言う。
 ドワルはまだ寝てる。

「とりあえず刀は貰って行くぞ。後試し切り出来る場所をくれ」
「それなら手配は済んでいます。前回の様子から少し遠い場所を選びました。ある程度は暴れても問題ありませんが……」
「別な問題でもあるのか?」
「前回同様兵が付きます。それから諸国への根回しも済んでいますので後の問題と言いますか。その、勇者達はどうしましょう?」
「連れてく。目の前で俺の実力も見せておきたいし、そろそろ暴れないと身体が鈍る」
「分かりました。まずは兄上を起こしましょう。兄上、いい加減起きて下さい、兄上!」
 身体を揺すりながら無理矢理起こすドルフ。
 ようやく起きたドワルはティア達を見て驚いていたがアオイの「早くしなさい」ですぐに刀を持って来た。

「これがティアマト様の爪で造った刀だ。違和感はないか握ってくれ」
 そう言われて握るとしっくりきた。
 柄と鞘を握り、少しだけ刃を見ると濡れた様な霞仕上げ。
 アオイの蒼が刃文と一緒に見るとまるで静かに波打っている様だ。

「違和感はない。随分と美人になったな」
「ああ、俺も驚いた。ここまで綺麗な刀はそうない」
「だな。流石アオイだ、刀まで美人になるとは思ってなかった」
 アオイは一つ頭を下げただけだが嬉しそうにしてるのを感じる。

「それじゃさっそく試し切りに行こうか」
「その前に名前、決めてやれ」
 あ、名前ね。
 そうだな………

「あお……そう………蒼……蒼流《ソウリュウ》はどうよ?」
「少しはひねった方か」
 あっはは、そんなひねれてなかったか?
 しかし刀まで蒼流は美しく輝く。
 流れる水のように輝く。

「それじゃ試し切りといきますか」