告白を断った次の日、少しばつが悪いまま朝を迎えた。
 今日は一人で起きる。
 何でもリル達は夜中に女子会をするとか言って別の部屋に行った。
 正直一人で考えたい事もあったため俺としては都合が良かったので、そのまま見送った。

 一人で考えたい事とはティアの事だ。
 恋愛感情がないからふったが、やはりどこか後悔している俺がいる。
 他の言い方はなかったのか、もっと傷付けないような言い方はなかったのかずっと頭の中でぐるぐると思考だけが止まらない。
 恋愛感情という意味ではリル達にも初めは持っていなかった気がする。

 リルの事は綺麗だとは思っていたが嫁にしたいという感情はなかった。
 カリンも最初は娘感覚で付き合っていたし、正直下心より親心の方がある気がする。
 その分俺に迫って来た時は驚いたが、結局そのまま行為に及んだ。
 オウカも俺は世界を見る手伝いをしたいと思ったのがきっかけだったし、第一にあんな出会いで惚れられるとは思ってもみなかった。
 アオイについては今も嫁としての位置は微妙だ。
 いつも隣でそっと支えてくれるし、確かに俺はあの人が欲しくてほぼ無理やり連れてきたが、それも恋愛感情とは違う気がする。

 そう考えると親友と言ったがもっと別な言い方があった気がする。
 ……結局、俺は何がしたいんだろう。
 あれもこれもと欲張っているくせに理由が弱い。
 相手の好意にただ答えているだけで、俺から好きだと言った事はないのかもしれない。
 ……完全にダメ男じゃん。

 そんな事を考えながら食堂に着くと何故かティアが明るかった。
 普通に挨拶をして、普通に飯を食う。
 逆に普通過ぎて違和感を覚える。

「タイガ、ティアの奴、昨日の事ってあまり気にしてない?」
「それはないと思うけど。実際あの後会った時はまだ落ち込んでいたし」
 そう、そのはずだ。
 まだ引きずっている様に見えたし、それが一晩でここまで復活するとは思えない。
 きっと何かあったんだろう。

「あの、本当に頼むんですか?」
「頼むわよ。あの人達も承諾してくれたし」
「でもあの人達普通じゃ……」
 アリスとティアの会話に何か引っかかりを感じるがあまり気にしなくていいか。

「リュウ、ちょっとお願いあるけどいいかな」
「ん?なんだ」
「今日だけグラン達と手合わせしてくれない?私今日から少し本気で鍛えるからさ」
「それって逆にいいのか?いつもはグランさん達に鍛えてもらってるんだろ?」
「いいの。しばらくは臨時教師がついてくれるから」
 臨時教師?魔術系を中心に鍛えるのか?
 とりあえず了承はしたが何がしたいのかさっぱり分からない。
 さらに分からないのはリル達だ。
 全然俺の中に帰ってくる気配がない。

 普段は飯の前には俺の中の戻ってくるが今日は帰ってこない。
 多分昨日からなんだろうが連絡が全く来ない。
 女子会が盛り上がり過ぎて寝坊でもしてるのか?
 そう思って部屋に戻ってもまだ帰ってこない。
 仕方ないので今日は俺とダハーカだけで闘技場に向かった。

「って、心配してたのに、何でお前らはティアと一緒にいるんだよ!」
「つい盛り上がっちゃて」
「女同士だし盛り上がるのもいいが、連絡ぐらいはしろよ、ったく」
「ごめんってリュウ」
 そう、何故かリル達はティア達と一緒に現れた。
 理由は不明、聞いてもはぐらかせれる。
 ティアと仲良くなったのは嬉しい事だが、何か嫌な予感がする。

「ではさっそくするか」
「待ってくれダハーカ。今日の午前はタイガ達が相手してくれるらしいから、ダハーカとの修業は午後から頼む」
「む、そう言えばそんな話をしいていたな。では午後まで待つとしよう」
 そう言って観客席まで跳んだダハーカ、今日の相手はタイガ達勇者パーティーだ。
 久しぶりの一対複数だ。
 この際勇者の仲間の実力を体験してみるか。

「よろしくお願いします」
「よろしく頼むよリュウ」
「それじゃさっそくしましょうか」
「そうだな」
 タイガとマリアさん、グランさんが陣形を取りながら武器を構える。
 タイガとマリアさんは杖を、グランさんは剣を構える。
 俺は……素手でいいか。
 ゲンさんは今回戦いに参加せず、審判としてそこにいる。

「それでは始め!」
 ゲンさんの声で最初に動いたのはマリアさんだ。

「ウォールディフェンス、スピード!」
 へぇ、付加術も使えるのか。
 てっきり回復系の魔術だけだと思ってた。
 しかも、かけたのはグランさんにだ。

「ふん!」
 付加術の効果か、それなりに早い。
 ティアの師匠と言うだけあって綺麗な剣筋だ。
 と言ってもまだまだ余裕で避けられるが。
 軽く避けていると、グランさんの横を風の魔術が抜けた。

「ウィンドショット」
 避けた先で点による攻撃、仲間に当たらないよう繊細な制御が必要だが、それをこなすタイガも中々のものだと思う。
 と言っても生存本能やら魔力探知で、撃つタイミングはまる分かりだが。

「そっちも攻撃してこい!」
「ほーい」
 そう言われてグランさんの腹を殴る。
 鎧に守られているからそこまでのダメージはないはずだが、その殴られた衝撃で身体を軽く浮かせてからタイガにぶつかる様に真っ直ぐ殴った。

「く!」
 所詮軽くなのですぐに地面に着くが勢いだけは止まらない。
 しばらく砂煙を上げながら踏ん張っていたが結局かなり遠くまで動かした。

「ヒール!マジックブースト!」
 マリアさんがグランさんを回復させ、さらにタイガに魔術を強化する付加術をかける。
 タイガの身体は付加術の効果によってオーラが強く光った。

「ウィンドトルネード!」
「マジックウォールアーマー!」
 地面の砂を巻き上げながら来る小さな竜巻に、俺は魔術に対する耐性を強化する付加術を自身にかける。
 そのままくらうがダメージはない。
 そこにグランさんが斬りかかるが俺は簡単に避けた。

「ファイヤートルネード!」
 ここはあえて前衛のグランさんを無視し、マリアさんに魔術で攻撃する。
 選んだのは複合魔術と言われる二つの属性を混ぜた魔術だ。
 タイガがさっき放ったトルネードに炎の属性を足した事になる。
 ファイヤートルネードは炎で焼くと言うよりは熱風で焼くと言った方が正しい魔術だ。

「グランドウォール!」
 タイガが地面を盛り上げて守る魔術は炎と風に強いのでいい選択だ。
 しかし使用者の視界も塞ぐ事になるので、使ったを見て俺は今のうちにグランさんを倒す事にした。

「おっら!」
「はあ!」
 正直に言うとグランさんの剣はかなり遅い。
 何せ俺が相手をしてきたのは、魔物の中でもトップクラスに強い連中ばかり。今更普通の人間の中で強いぐらいでは俺を止める事は出来ない。
 グランさんの剣が振り落とされる前に、俺はグランさんの腹を殴った。
 と言っても本気で殴ったら死ぬので死なない程度にだが。
 倒れるグランさんを横目に残った二人に近付く。

「っ!サンドトルネード!」
「付加術、スピード!」
 ほぼ同時に使った魔術で勝ったのは俺だった。
 上空に向かって使った魔術で足止めをしようとした様だが、その前に俺の拳が届きそうになったとき。

「そこまで!」
 ゲンさんが止めた。

「勝者はリュウだ。文句はないよな」
 その一言にタイガは杖を下した。

「まさかあのサンドトルネードより早く来るとは思ってなかったよ」
「それは付加術のおかげ。普通に走ってたら間に合わなかった。それとゲンさん、なんでタイガを倒そうとした時に止めたんだ?まだマリアさんが居たのに」
「マリアは攻撃魔術をろくに使えないんだよ。だからグランとタイガが倒されたらそこまでって事だ」
 ふーん。
 そんな弱点があったのか、今はマリアさんはグランさんを治療するために走っているがしばらくは痛みは取れないと思うぞ。

「それよりリュウ」
「何だよタイガ」
「あれって何?」
「あれって何だ」
「目を背けないで言ってほしい。ティアが相手しているあれは何?」
 実はずっと後ろの方で派手な音がしているのを俺はずっと無視していた。
 何が起こっているかは大体予想できてたし、それに見たくなかった。

「あの人達本当に何者?」
 まさかのティアの臨時教師はリル達だった。