私はティア。職業『勇者』
私達は久し振りに帰ってきた。
大規模な魔物の軍勢を討伐してきたので心身共に疲れた。
でもきっと『勇者』の私はそんな弱音を吐く事は許されない。
そんな事を言ったら騎士団の士気が下がり、危険が増す。
だから毅然とした態度をとり続ける。
私は負けてはいけない。全ての戦いに勝ち続けなければならない。
「大丈夫か、ティア?」
私に声をかけたのは幼馴染みのタイガだ。
職業は『賢者』。私と長い間一緒に戦ってくれている戦友でもある。
「何が大丈夫なの、タイガ」
「今回の戦いでも先陣を切って戦ったんだ。少しは休みを入れた方が良い」
「ダメよ。私は勇者、皆のために先陣を切るのは当たり前」
「休める内に休むのも仕事だ」
「それは普通の戦士がすること。私には必要ない」
「……なら僕一人でリュウにでも会って来ようかな」
「リュウに?」
私が初めて振り向くとタイガはニヤニヤした顔で私を見た。
また引っ掛かったと思っているのだろう。
私達幼馴染みの中で唯一普通の人間だった。
職業は調教師と余り良い職業ではないが私達のように戦場を駆ける事が無い分、平和に過ごしている。
彼は少し不思議な感じがした。
いつも私達に会っても何て事もなく受け入れてくれる優しい人。私達の周りは色々変わってしまった。雑貨屋のおばさんも、精肉店のおじさんも皆子供の私に敬語を使うようになった。もっと言うと私の親戚を名乗る大人がいっぱい出てきた。叔父さん叔母さんなら昔から知ってる。でも叔父さんの叔父さんとかは知らない。
そんな人達がいっぱい現れた。
でもリュウは変わらず私達にタメ口だし、特に気を使っているようには見えない。
そんなリュウが唯一の弱音を吐ける人だった。
「どうするティア。僕は行くけど」
「…私も行く」
「なら一緒に行こうか」
そうね。少しなら問題無いわよね。
久々にリュウに会えると思うと嬉しく思った。
私達はリュウに会うために町外れの牧場に向かって馬に乗っていた。
「さて今回はリュウにどんな話をしようか」
「いつもの下らない笑い話で良いでしょ?」
「えぇ、たまには別な話をしようよ。いつも同じ話じゃリュウも飽きると思う」
「ならどんな話にするの?」
そんな土産話の相談をしながら向かっていた。
リュウはプレゼントよりこういった話の方が好きでよく笑いながら聞いていた。
だから今回はどんな話をするかで盛り上がっていた。
話をしながらだったせいか牧場にすぐに着いた。
「こ、これは勇者様。今回はどうしましたか?」
牧場主のおじさんが焦りながら聞いてきた。
ここに来る理由はいつも同じなので普段はこんな事を聞く事はない。
「おじさん、リュウは?」
「それは、その……」
歯切れが悪い。もしかしてリュウに何かあった?
「リュウに何かあったの?」
「あったと言うか、何と言うか……」
「ハッキリ言って」
「ティア、落ち着いて。おじさんも、そんなにびくびくしないで話してもらえないかな」
タイガが落ち着かせるように言う。少しキツく言い過ぎたかもしれない。
おじさんは一度深呼吸すると不安そうに言った。
「リュウは……行方不明なのです」
行方不明?リュウが?
「行方不明、ですか?」
タイガが聞いた。
「はい」
「一体何時からですか?」
そしておじさんはポツポツと言った。
「2ヶ月ほど前に狼が牧場に現れたのですが、その時にリュウも居なくなってまして……」
「狼に襲われたとかは?」
「全くそんな形跡はありませんでした。ですから余計わからないのです!リュウは毎日真面目に働いていましたし、馬や牛達に気に入られていたので突然居なくなる理由が‼」
「落ち着いて下さい!とにかく襲われたとかじゃ無いのですね?」
「それは確かかと」
「だってよ、ティア」
本当にどういう事?確かなのはリュウはここに居ない事だけ。
「ティア?」
「今日は帰ります。リュウの事、教えていただきありがとうございました」
「いえ、何の役にもたたずすみません」
町に戻る途中。
「タイガ、私リュウの事探しに行く」
「ちょっと勇者の仕事はどうするの!?」
「勇者の仕事のついでで探させてもらうだけ。それなら問題無いわよね」
「まぁついでなら……でも何処に居るかは全くわからないよ」
「だから探すのよ。死んでたら許さない」
絶対に見つけ出すからね、リュウ。
【後書き】
次回から本編に戻ります
私達は久し振りに帰ってきた。
大規模な魔物の軍勢を討伐してきたので心身共に疲れた。
でもきっと『勇者』の私はそんな弱音を吐く事は許されない。
そんな事を言ったら騎士団の士気が下がり、危険が増す。
だから毅然とした態度をとり続ける。
私は負けてはいけない。全ての戦いに勝ち続けなければならない。
「大丈夫か、ティア?」
私に声をかけたのは幼馴染みのタイガだ。
職業は『賢者』。私と長い間一緒に戦ってくれている戦友でもある。
「何が大丈夫なの、タイガ」
「今回の戦いでも先陣を切って戦ったんだ。少しは休みを入れた方が良い」
「ダメよ。私は勇者、皆のために先陣を切るのは当たり前」
「休める内に休むのも仕事だ」
「それは普通の戦士がすること。私には必要ない」
「……なら僕一人でリュウにでも会って来ようかな」
「リュウに?」
私が初めて振り向くとタイガはニヤニヤした顔で私を見た。
また引っ掛かったと思っているのだろう。
私達幼馴染みの中で唯一普通の人間だった。
職業は調教師と余り良い職業ではないが私達のように戦場を駆ける事が無い分、平和に過ごしている。
彼は少し不思議な感じがした。
いつも私達に会っても何て事もなく受け入れてくれる優しい人。私達の周りは色々変わってしまった。雑貨屋のおばさんも、精肉店のおじさんも皆子供の私に敬語を使うようになった。もっと言うと私の親戚を名乗る大人がいっぱい出てきた。叔父さん叔母さんなら昔から知ってる。でも叔父さんの叔父さんとかは知らない。
そんな人達がいっぱい現れた。
でもリュウは変わらず私達にタメ口だし、特に気を使っているようには見えない。
そんなリュウが唯一の弱音を吐ける人だった。
「どうするティア。僕は行くけど」
「…私も行く」
「なら一緒に行こうか」
そうね。少しなら問題無いわよね。
久々にリュウに会えると思うと嬉しく思った。
私達はリュウに会うために町外れの牧場に向かって馬に乗っていた。
「さて今回はリュウにどんな話をしようか」
「いつもの下らない笑い話で良いでしょ?」
「えぇ、たまには別な話をしようよ。いつも同じ話じゃリュウも飽きると思う」
「ならどんな話にするの?」
そんな土産話の相談をしながら向かっていた。
リュウはプレゼントよりこういった話の方が好きでよく笑いながら聞いていた。
だから今回はどんな話をするかで盛り上がっていた。
話をしながらだったせいか牧場にすぐに着いた。
「こ、これは勇者様。今回はどうしましたか?」
牧場主のおじさんが焦りながら聞いてきた。
ここに来る理由はいつも同じなので普段はこんな事を聞く事はない。
「おじさん、リュウは?」
「それは、その……」
歯切れが悪い。もしかしてリュウに何かあった?
「リュウに何かあったの?」
「あったと言うか、何と言うか……」
「ハッキリ言って」
「ティア、落ち着いて。おじさんも、そんなにびくびくしないで話してもらえないかな」
タイガが落ち着かせるように言う。少しキツく言い過ぎたかもしれない。
おじさんは一度深呼吸すると不安そうに言った。
「リュウは……行方不明なのです」
行方不明?リュウが?
「行方不明、ですか?」
タイガが聞いた。
「はい」
「一体何時からですか?」
そしておじさんはポツポツと言った。
「2ヶ月ほど前に狼が牧場に現れたのですが、その時にリュウも居なくなってまして……」
「狼に襲われたとかは?」
「全くそんな形跡はありませんでした。ですから余計わからないのです!リュウは毎日真面目に働いていましたし、馬や牛達に気に入られていたので突然居なくなる理由が‼」
「落ち着いて下さい!とにかく襲われたとかじゃ無いのですね?」
「それは確かかと」
「だってよ、ティア」
本当にどういう事?確かなのはリュウはここに居ない事だけ。
「ティア?」
「今日は帰ります。リュウの事、教えていただきありがとうございました」
「いえ、何の役にもたたずすみません」
町に戻る途中。
「タイガ、私リュウの事探しに行く」
「ちょっと勇者の仕事はどうするの!?」
「勇者の仕事のついでで探させてもらうだけ。それなら問題無いわよね」
「まぁついでなら……でも何処に居るかは全くわからないよ」
「だから探すのよ。死んでたら許さない」
絶対に見つけ出すからね、リュウ。
【後書き】
次回から本編に戻ります