「――ごちそうさまでした」
晩ごはんの時間。愛美は半分も食べないうちに、箸を置いてしまった。今日のメニューは、大好物のハンバーグだったというのに。
「あら、愛美ちゃん。もういいの?」
照美先生が、心配そうに愛美に訊いた。
「うん、なんかあんまり食欲なくて……。先に部屋に行ってます」
「そう? あとでお夜食に、おにぎりが何か持って行ってあげましょうか?」
「ううん、大丈夫です。ありがとう」
ぎこちなく笑いかけて、愛美は食堂を出た。重い足取りで階段を上がっていく。
(……結局、園長先生に進路のこと話せなかったなあ)
理事会はもう終わっているはずなのに、園長先生は晩ごはんの席にも来なかった。その前にでも、話そうと思っていたのに。
部屋に戻ると、愛美はしおりが挟まった一冊の本を手に取った。
『あしながおじさん』――。彼女が幼い頃からずっと愛読している本で、もう何度読み返したか分からない。
この本の主人公・ジュディも愛美と同じように施設で育ち、ある資産家に援助してもらって大学に進学。作家にもなった。
――もし、この本みたいなことが自分にも起こったら? 進学問題だって簡単に解決できちゃうのに……。
「……まさかね。そんなこと、あるワケないか」