「――はあ……」

 ここは山梨(やまなし)県のとある地方都市。
 秋も深まったある日、一人セーラー服姿の女子中学生が、学校帰りに盛大なため息をつきながら田んぼの(あぜ)道をトボトボと歩いていた。

 それは決して、テストの成績が悪かったから……ではない。彼女の成績は、学年ではトップクラスでいいのだから。
 彼女の悩みはもっと深刻なのだ。進路決定を控えた中学三年生にとって、進学するか就職するかは一大事である。
 彼女は進学を望んでいる。けれど、それが難しいことも分かっている。

 なぜなら、彼女は幼い頃から施設で暮らしているから。

 彼女――相川(あいかわ)愛美(まなみ)は、物心(ものごころ)つく前から児童養護施設・〈わかば園〉で育ってきた。両親の顔は知らないけれど、聡美(さとみ)園長先生からはすでに亡くなっていると聞かされた。
 
 〈わかば園〉は国からの援助や寄付金で運営されているため、経営状態は決していいとはいえない。そのため、この施設には中学卒業までしかいられない。高校の進学費用なんて出してもらえるわけがないのだ。
 進学するとなると、卒業までに里親を見つけてもらうか、後見人になってくれる人が現れるのを待つしかない。
 卒業まであと半年足らず。そういう人が、そんな簡単に見つかるとは思えないけれど……。