そんなこんなでたっぷりとスイーツを堪能した後には!たくさんの皿の山ができていた。
 山になった皿のほとんどは柚子と透子が積み上げたものだ。
「はあ、食った食った」
 満足げにお腹を擦る透子に、柚子も笑う。
「私ももう食べられない」
「食い過ぎだ、お前らは」
 東吉と蛇塚は食後のコーヒーを飲みながら呆れたようにしている。
「しばらく甘いものはいいや」
「私もー」
 そう言いつつ、食後のお茶を飲みながらまったりとする。
 他愛ない会話をしながら時間が経っていく。
 そろそろ出ようとなったら、蛇塚が店員にカードを渡した。
「あっ、蛇塚君、私のは自分で出すよ」
 そう柚子が言ったが、蛇塚は首を横に振る。
「招待したのは俺だから」
「いや、でも悪いから」
 透子は誕生日ということで来ているが、柚子はまったく関係ない。
 そんな押し問答をしていると、東吉が口を挟む。
「甘えとけ。こういう時は男の顔を立てるのがマナーだぞ」
 こくこくと頷く蛇塚を見れば、それ以上失礼にあたると思い柚子が引いた。
「じゃあ、今日はご馳走になるね。ありがとう」
「うん」
 会計も終わり、店を出て、この後どうしようかなどと話ながら歩いていると……。
『……て』
 なにかが耳元で聞こえた気がして足を止めた柚子。
『た……けて』
「えっ?」
 きょろきょろと辺りを見回すが普通に人が歩いているだけだ。
 首を傾げる柚子の前から、集団が歩いてくる。
 艶やかな黒髪が波打つ、柚子と同じ年頃の女性。
 その女性を中心として、黒いスーツを着た大人が守るように歩いてくる。
 どこかのご令嬢だろうか。庶民でないことはすぐに雰囲気で分かった。
 その集団とぶつからないように横に避けた柚子はその女性とすれ違う瞬間、その女性の後ろに大きな龍が見えた。
「えっ!」
 驚きで目を大きくする柚子は、通り過ぎた女性を慌てて振り返る。
 しかし、再び見た女性の後ろにはスーツの大人が見えるだけだった。
「気のせい……?」
 幻覚でも見たのだろうか。
 けれど確かに見た気がしたのだ。
「あーい」
 子鬼が不思議そうに柚子を見る。
「子鬼ちゃん、今の見えた?」
「あい?」
 子鬼は言ってる意味が分からないと言うように首を傾げる。
 それに、周囲の人も変わった様子はなかった。
「やっぱり私の見間違い?」
「柚子ー。なにしてるの? 早く行くよー」
「うん」
 先を歩いていた透子に促されて柚子は小走りで透子たちと合流する。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない……」
 なんだかモヤモヤしたものを残してその場を後にした。