ひっさし振りに猛ダッシュした。





こんな緊迫感は、小学生の時に自分の家のインターフォンにピンポンダッシュして母親に隣町まで追いかけられた時以来だわ。





あの日、夕飯のデザートの林檎、食べさせて貰えなかったのがいまだに忘れられない。





「まだパンチェッタが一切れ残ってたのに」




能天気な妹め。



もう500メートル位走ったから大丈夫だろうと思ったのか、肩でぜいぜい息をしながらそう言って立ち止まる妹。




現在冬野さんのお店の帰り道。





私は、あの後、思わずその場にクリーニング代金とお勘定として、一万円札置いて妹の手を引いて飛び出してしまった。







「今日のは、マスターの奢りだったのに、お金払わなくても良かったんだよ」





そう言って口を尖らせる妹に項垂れる。






「いたたまれないよ。もう、あんた、取引先の人にいっつも、そんな事言ってんの?」





「んな訳ないじゃん」






じゃあ、どういう訳だよ。




全く。






「一個、取引先無くしたじゃない?」






「あれくらい、大丈夫だよ。それに、今回のお店は竹中さんのお願いもあって行ったとこで、販売目的じゃないもん。竹中さんがあのお店の店長にお姉ちゃんが作ったサイトを見せて連絡が来たんだよ。だから、全部竹中さんが仕組んでたんだ」






「はあ?」




突然出て来た竹中さんと言うのは、私たち姉妹の事を親戚の様に面倒みてくれた近所の花屋の店主だ。





花屋を本業にしているが、傍ら家賃経営や簡単な建築の仕事をしていたりする。






うちの屋根の修理とか、商店街の看板の取り付けとかもやってくれたりと日頃かなりお世話になっている。





でも、その竹中さんに何を頼まれたんだろう。





帰りの道すがら尋ねると、それがとんでもない頼み事であることが判明した。





そして、自分は出来るならその事に関わりたくなかった事。





知らなければ、良かった。






まきこむんじゃないよ。




この野郎。




と、妹の事を恨んだ。