「ちょっと言い過ぎじゃない? マスターが好意で商品置いてあげてるのに。この店の良さが分からない人は、来なきゃ良いのに」
ガチャンと音を立てて、突然、テーブルに置かれた四角い平皿。
長方形のベビーチーズに枝豆と生ハムを突き立てたナニかは、一体何のつもりだろうか。
「マキさん、好意で置いて貰っているのは僕だから」
「だからって、黙ってたら言いたい放題。うちの店の一体何が悪いって言うわけ」
振り返ると背後に、白いシャツに黒のパンツスーツ姿の金髪の女性が立っていた。
あからさまに私と妹を睨んでいる。
「うちにはうちの看板メニューありますから。ポテサラとか地味でダサいし。居酒屋のテーブルの隅で干からびてそうだし」
そう言いきると彼女は、あからさまに鼻で笑った。
私のポテトサラダはこの目の前の…自称当店の看板メニュー以下か…。
なら差し詰めマキさんとやらが出すこのプレートは、荒野で獰猛な猛禽類に串刺しにされた死肉を彷彿するのだが…。
今さら、何処から突っ込もうか、私は呆れて腹が立たなかった。
やれやれとため息をつきながっら冬野さんに視線を写すと、彼も顔をしかめてこっちを見ている。
さすがに妹が言い過ぎだった。
にしても、妹の表情を横目で確認すると。
綺麗に上がる妹の口角。
不吉な予感しかしなかった。
「お酒と食事が不味い店の良さなんて分かりたくもないわ。笑っちゃう」
そう言い切って、お通しのポテトサラダを食べきる妹には。
正に、『天に唾吐く』って言葉がお前に良く似合うと思った。
私の会社で最恐の存在になんて口をきくんだ。
いっそ羨ましい。
お前は、怖いものがないのか?
妹の『雰囲気が良くてもお酒と食事の悪い店の良さなんて~』てのは正論だとしても、だ。
だがそれを……。
私みたいに、地味で、根暗で、残念ななお前が。
直視できないくらいイケメンで、リア充で、パリピ属性の冬野さんに言うのは、涙物レベルに片腹が痛い。。
何で、本当の事、言っちゃうかな?
惜しげなく。
妹は普段むやみに、喧嘩とかしないし売らないのに、どうしたと言うんだ。
妹を睨みながら、絶妙な重低音で女性スタッフは妹に言った。
「だまれ、デブ」
と。
間違いない、この暴言のセンス、私の会社で最恐の女子社員 マキさんだ。
確かに、私の妹は性格悪いし割とぽちゃで、デブかヤセの二択に置いて、デブだろう。
たまに妹見ていてハムが食べたくなる事もあるし。
だけど、人を、ましてや暴言吐いたにせよ客にデブとはドSな。
マキさん……こと荒巻 美月は、私の同期。
私は短大卒、彼女は大卒採用なので年はマキさんが2つ上。
同期と言っても、学歴と年齢が上の彼女に、当初からマウンティング激しくて、短大の同期の半分が彼女が原因で退職したっけ。
社交的な性格で、会社の飲み会の半分は彼女が仕切っている。
合コンとか、頻繁にやっていて、男性受けも悪くない。
ちょっと意地悪なのが玉に傷で、敵やアンチも多いが、人の事言えないにしても。
彼女は今や、営業一課のチーフをしている。
私は営業二課のサブチーフ。
パワーバランスめっさ悪いんですけど。
私、この人と揉めて、良い事なんて万が一にも一つもないのに。
やめてよ、波風たてたくない……。
頼む、妹よ。
ここは穏便にと、念を込めながらすがる様な目で首を小刻みに左右に振りながら、懇願の目で妹を見つめた。
すると。
それに気づくと、妹はまるで聖母の様に私にほほえんだ。
見ず知らずの人に豚呼ばわりされた後のこの表情。
ちょっと見ない間にこんなにこの子成長したの?
分かってくれたのね、嬉しいぞ。
妹よ。
ありがとう。そう思ったのも束の間。
「お姉ちゃん、この豚しゃべったよ。爆笑!!」
(*_*) ソレ、イチバン アカンヤツナ…
バカーッ 妹のバカー ブハッ。
私はしたたかマキさんの白いブラウスの胸元に、口に含んでいた飲み物で綺麗に放物線の絵を描いた。
彼女の胸に染み込む飲み物の様に私は消えてなくなりたかった。
「ちょっ汚っ!!」
「すっすみません」
私は、思わずバッグからハンカチを差し出したが、要らないわよって突き返されてしまった。