石崎 誠 26歳。
彼氏いない歴 = 人として生きた分だけ。
男性経験は運動会やレクリエーションで手を繋いだ以上の事は経験がない。
でも一応これも経験のうちに入るなら、自信を持って言おう。
男性経験ありだって。
「石崎さん、これあげる」
「ありがとうございます」
ファミレスでお茶した後。
なんでか、市内で有数の展望スポットに夜景を見に行く事になった。
自分の街を見渡せる展望台で、冬野さんにホットのミルクティを買って貰った。
すみません。
大事な事なんで確認させてください。
私って……地味で根暗で残念が代名詞の社内のみそっかす。
石崎 誠。
その人ですよね。
朝起きて顔も洗わず会社にくる。
朝シャンしてるのに髪をブローせずに家を出る。
朝食にパンやおにぎりをかじりながら、通勤する世に言う干物系女子ですよ、私は。
え、ええ!
罪深いので、10万くらいお金支払っといた方が居だろうか?
この罪の重さをお金に換算すれば、きっと破産せんばかりだ。
「冬野さん、私(見た目ほど貯金もしてない地味で根暗で残念な)」
「ちょっと待って」
冬野さんは私の言葉を遮って私の肩を引いた。
「そっち手すり錆びているから」
そうなんだ。と思って納得するのもつかの間。
ありえない位近くに引き寄せられて、素面なのにお酒に酔ったみたいにくらくらした。
「ご、ごめんなさい」
「謝る事ないだろ? 今日は本当にありがとう。 助かった」
改めてお礼を言われて、恥ずかしくなって顔を背ける。
肩を引かれて冬野さんの胸の前に私の顔があった。
体温を感じそうな位近くに。
もし、このまま抱きしめられたら。
ショートして頭から湯気出せるかもしれない。
頭から蒸気機関車みたいに煙出るかも知れない。
私、が突然煙出したら、どうしよう。
「あんまり、優しくしないで下さい。冬野さんみたいに素敵な人にそんな言われたら、勘違いして惚れちゃいますよ」
「可能性の話?」
可能性ではない。
確定事項だ。
ずっとすきだった。
でも、大丈夫。冬野さんを困らせる気も、冬野さんのイメージにかすり傷さえ負わせるつもりはない。
「可能性じゃないですよ。誰だって勘違いしてしまうって話です」
冬野さんは、あからさまに目を丸くして、一瞬黙ってちょっと不満気味に私に言った。
「ふ~ん。そうかな」
「そうですよ」
私は、そういってため息をついて笑った。
すると、冬野さんも同じ様にため息をついた。
「そんなお世辞はいらないよ」
冬野さんは私からそっぽを向いて展望台から望む西側の海沿いの夜景に視線を移した。
「君は少しも、俺を好きにならなかったのに、説得力に欠けるよ。俺の事、今まで一度も良いなんて思ったこと無い癖に?」
「だから、冬野さん、私の事からかっちゃダメですってば、本気にしちゃいますよ」
冬野さんに初めて君って呼ばれて、私は困惑した。
どう言う意図で私は今、冬野さんに君って呼ばれたんだろうか?
無作為だろうか、悪意だろうか、はたまた敵意だろうか?
それとも……。