時刻は24時30分。24時を前に客足が途絶え、最後のお客もお店を後にして、冬野さんと二人になった。

カウンターで並んで立ちながら、冬野さんはレジ締を私はカウンター席を吹き上げていた。



「今日は本当にありがとう。いつもはこんなに忙しくないんだよ」

「そうなんですね。今日みたいにお客さん入るんだったら、スタッフ一人じゃ足らないですよ」



冬野さんは、浅くため息をついて、目を細めた。



「本当、いつもはこんなにみんなお酒も食事も頼まないんだよね。いつもより、寛いでた感じ」

「ミックスナッツとか、枝豆とか、チーズじゃ長居出来ないですからね。冬野さんは、このお店で何を目指しているんですか?」



「何って? どういうこと?」

「えっと、お酒を楽しむお店にしたいのか、食事ができるお店にしたいのか? お酒と食事を楽しめるお店にしたいのか? です」



それとなく聞きたかった事を思い切って尋ねて、胸が痛んだ。

冬野さんがきょとんとした表情で、固まってしまったからだ。



私、冬野さんを不快にしたい訳じゃない。

一時的にでも持てた冬野さんとの一時を楽しく過ごせたらそれで良いのだか。



「後者だ」

「へl?」



「お酒と食事両方できる店が良い」



「なら、良かったです」




「俺さ、石崎さんの事、好きだったよ」



「え?」




私は、思わず冬野さんの顔を見上げた。



冬野さんは、作業を止めて私を見ていた。



「冬野さん、今、なんて言いました」



「俺、前会社に居た頃、石崎さんの事好きだったって話」




ん?




え?




は?




「取り敢えず、考え込んで息を止めるのはナシ。昔の事。でも、石崎さんはちみつレモンが恋人って俺の話聞いてくれなかったよね」



「え。あ、その」




確かに、付き合っている人が居るか聞かれて、居ないって答えるの恥ずかしくて、咄嗟に居ます。はちみつレモンです。って言った。



そうだ。



三年前、最後に冬野さんの送別会で会話した時、私、周りに、地味で根暗で残念ってイジラレて、男性経験ないとか、酒の話のツマミにさせられて、そう言ったんだった。



『はちみつレモンさえあれば大丈夫です』



って。




「今もはちみつレモンが恋人?」




何で今更、このタイミングで蒸し返すんだ。




「どうして、そんな事聞くんです?」



「だって、はちみつレモンじゃもしなかったら、今日はともかく、さすがにこれからはこんな時間まで俺に時間使わせる訳にはいかないだろ?」





( ^ω^)・・・ 





( ^ω^)・・・




そっか、世の妙齢の女性なら大半生身の恋人居るから考え付かなかった。





「生身はいません。冬野さんが必要なだけ、働きますからご安心ください」