「まずは今の企画案を、誰かにプレゼンしよう。それで、どんな反応が帰ってくるか試すんだ」

 堀部の提案で、由良は何人かの社員にメッセージを送った。プログラマー、プランナー、デザイナー、職種は問わない。由良と一緒に作業をする機会が多く、気心が知れたスタッフを選んだ。
 そして昼休みに食事に誘ったり、夕方の集中力が切れそうな時間にお菓子を持って休憩室に集まったりして、『大星プラン(堀部が命名した)』のプレゼンを行った。

 けど……

『サンドボックス? やった事ないしなぁ』

 うん、大丈夫です。アタシもやった事ないから。

『ていうか鬼のような仕様書にならない? 俺絶対書きたくないよ……』

 まだ企画段階だし、そういう考えは一旦置いとこ?

『ここまで複雑にしないと駄目? 例えば小麦から作れるのはパンだけとか、あと市場で売るとか育成ゲーには必須じゃないですよね?』

 んー……コンセプトをよく読んで欲しい。育成ゲーム作りたいわけじゃないんだ。

『これソーシャルでやりません? オレ、家庭用ソフトやったこと無いからよくわかんないですよねー』

 んーー!ターゲットとかよく読んで欲しい!! 小学生相手にガチャでマネタイズする気!?



「あーーもう!! 企画段階なのに、なんで皆やれるかどうかの話しかしないの!?」

 品川駅の焼き鳥屋。前回と同じカウンター席についた由良は、ホッピーのジョッキ片手にボヤいた。この3日間でヒアリングできた内容の殆どが、ネガティブなものだ。このゲームをうちの会社で作れるか、自分にどんな作業が回ってくるのか、そんな観点から出てきた言葉ばかり。

「最初はそんなもんさ。みんな企画を立ち上げることに慣れてないんだよ」
「そういうもんですか?」
「下手なこと言うと、面倒くさい作業を押し付けられるかもって怖がってるんだよ。今のフェンリスの体制だと、仕事ってのは負担でしかないからな」
「うーん……」

 またしても高野か……。あの不信感で濁った視線が脳裏に浮かび上がる。

「けど、同時に大星さんのせいでもある」
「アタシですか?」

 思わぬ不意打ちに、思わず堀部の顔を見た。

「発展的な想像を促す説明ができてないんだよ。いい企画ってのは、イメージを芽生えさせるのが上手いんだ。1を語ることで、スタッフやクライアントの胸の中に10に膨らんだものを想像させる。そのためにはどうすればいいかを考えてみな」
「1を語ることで……」

 雲をつかむような話だ。何をどうすればよいかまるで見当がつかない。