「ドロンの街にはね、アタシらが外の世界とやり取りするために、繋ぎになってくれている者たちが数人住んでいるのさ。
 これはその内の一人に宛てた手紙だよ。いまの里の状況、四姉妹のこと、あんたらへの協力依頼、そんな内容をしたためておいた」


 おおばば様は手紙と2枚の紙切れををリオの前に置きました。


「街までの森の地図とその協力者の家までの地図だよ。アタシの方でも使い魔は飛ばしておくから、上手くいけば街の入り口までは迎えに来てくれるかもしれん。
 本業は魔法使いだが、表向きは薬屋をしている男さ。名前はリチュオル・テイル。気難しいところはあるが、街にいる協力者の中では一番信用と信頼のおける相手さ。お互いの連絡手段の件、あいつならなにかしらの手をうってくれるだろう」

「……おおばば様、それで私たちはこれらのものをどうやって運べばいいの?」


 リオがもっともな質問。
 いまの彼女たちは小動物。荷物をいれた袋を背負うだけでもたいへんです。


「まってな。いま、アタシが便利な魔法をかけてやるよ」


 おおばば様はそう言って、大きくて逞しい手を四人にかざします。


「ああ、世界と世界をつなぎし狭間よ。非力な我らに慈悲を。ほんの少しの空間を我らに貸し与えたまえ」

 おおばば様のかざした両手が光り輝く。呼応するように四人のお腹も輝き始める。
 光がおさまった時には、四人のお腹にファスナーがあった。


「入り口は身体の大きさに比例しちまうからね。シィーラとプリサは多少狭めだが、なんとか入るだろう」


「おお!なんだコレ⁉ スゲェー!」


 シィーラがお腹のファスナーを下ろし、中の真っ暗な空間を覗き込む。


「収納魔法さ。スペースはこの部屋くらいだね。入り口から入れられる物なら保管できるし、整理は中で勝手にされる。取り出す時は手を入れて取り出したい物を思い浮かべればいい。ブリサは風の魔法を手の代わりにしな」

「は~い」


「……なんだかぬいぐるみみたいになっちゃったわね」

「贅沢いうんじゃないよ。あんたら自身が使えりゃあ必要な時に入り口を宙に出すこともできるが、できないんだからしょうがないだろ。自分たちでできるように魔法の、魔力の使い方を覚えな」

「うん。アタシ、頑張る」

「よしよし。イトルは魔法に関してだけは積極的だね。
 それじゃ、それぞれ一度家に戻って必要な物を入れてきな。1時間後にここに集合だ。
 あー、あと時が止まっているわけじゃないから、食べ物とかをいれた時は気をつけるんだよ。普通に腐るからね。街までの食料はアタシが用意してあるから。入れるんだったらお菓子くらいにしときな」

「「「「はーい」」」」

 元気よく返事をした四人は、それぞれ自宅へと戻り、旅の準備と動物の姿のままベッドの上で眠っている母親に別れを告げて、おおばば様の家に再集合。
 おおばば様の用意してくれたご飯と道具を、それぞれお腹の不思議空間にしまいこみ、里の出口に並び立つ。


「いよいよだな」

「ええ。なんとかして呪いをとかないと」

「こ、怖いけど頑張る」

「えへへ、きっとなんとかなるよ~」


ブリサのいつも通りの暢気なものの言い方に、緊張した面持ちだった三人の顔に笑顔がうかぶ。


「まったく、ブリサは暢気だな。ボクらが一緒なのは街までなんだからな」

「そうよ。一人になったらどこでも寝ちゃダメよ。いまのあなたは鳥なんだから。油断してたら食べられちゃうんだからね」

「フフ、でも不思議。ブリサちゃんがそう言うと、本当になんとかなっちゃいそう」

「さあさあ、お喋りはそのへんにしときな。おそらく街に着くのは夜になるだろうが、ぐずぐずしていたら、森の中で一晩明かさないといけなきゃならなくなるよ。魔法があるから野生動物くらいはなんとかなるだろうが、それでも不意をつかれたらまずいからね。できる限り急いで森を抜けるんだ。いいね」

「「「「はい!」」」」


4匹が揃って元気よく返事をして、振り返ることなく森へと入る。
4匹の姿が完全に森の中へと消えると、おおばば様はぼそりと呟きました。


「あの子達を頼んだよ。……バカ息子」