翌朝、可愛らしい4匹の小さなアニマルウイッチたちは、ロッキングチェアをミシミシと揺らすエプロン姿のマウンテンゴリラの前に、ちょこんと行儀良く座り、マウンテンゴリラが語りだすのを待っていました。
「……さて、なにから話したもんかね。……そうだね。結論から言っちまうと、この里にかけられた呪いの魔法の解呪は、あんたら四人にやってもらわなくちゃいけない」
「……おおばば様ではできないの？」
リオが当然の疑問を口にします。四匹が知る限り、魔力の高さも魔法の技術も、おおばば様を上回る存在は、里にはいないはず。
「昨日あんたらの会話が聞こえてきたけどね。
イトルの見立ては合っているよ。
本来なら、呪いってのは術者の魔力を断ってやれば消えるものだけどね。
厄介なことに、呪いを固定化する呪いがうわぐすりのように塗り込められている。しかもその塗られた呪いがえげつない。四人の魔力を混ぜ合わせたものを自分達から独立させて呪いとして成立させている。
……つまりだ。魔力供給されなくても継続するから魔力を断っても解呪されない」
一番真面目に魔法を勉強しているイトルが頷きます。
「解呪するためには、呪いが発動されたのと逆の現象をぶつけてやる必要があるんだよね」
「そうさ。イトルはちゃんと勉強しているね。話を聞いた限りじゃ、四人はバラバラの方角に行っちまった。どのみちアタシ一人じゃできないが、そもそもアタシは里に結界を張る、里の連中が争わんように面倒を見る、呪いの完全定着を遅らせるってのを同時にこなしていかなきゃならん」
「いや、でもさ。ボクたちが行ったところで、あの魔女たちをどうにかできるとは思えないんだけど……しかも、同時にだろ？ どう考えたって無理じゃん！」
シィーラの言葉に、おおばば様が鼻をフンと鳴らしました。
マウンテンゴリラの大きな鼻の穴から吹き出された大量の鼻息にあおられて、ブリサがコテンと後ろに倒れます。
「500年という歳月を甘くみるんじゃないよ。あたしら魔女が、もしもに備えてこない訳がないだろう？
いつか封印が破られ、あの邪悪な四姉妹が暴れだすことぐらいは想定内さ。
あいつらの性格も得意な魔法も、研究に研究を重ねて、記録がいまに残されてきている。対策もばっちり……だったんだけどねぇ。さすがに復活と同時に遠隔で呪いを飛ばしてくるのは想定外だったね。まずは姿くらい見せて欲しかったよ」
はぁと、おおばば様が大きく息を吐く。
ブリサが後方に2回転がる。
そのブリサが体勢を立て直して、トテトテ元の位置に戻ると、おおばば様は椅子から立ち上がり、四人の前に四つの小瓶と四つの砂時計を置きました。
「なにこれ？」
「マジックアイテム……かしら？」
「あ、あの封印に使ってた瓶に似てるよね？」
「砂時計だから～、時魔法がこめられてるのかな～」
「同時に喋るんじゃないよ！ ちゃんと説明するから良くお聞き。奴らの呪い魔法を強化させたのはおそらく三女のラズルシェニエ。500年前にも同じ類の魔法を使ってる。５００年前は囮を使って四人を一ヶ所に集めたそうだけどね。さすがに同じ手は喰らってくれないだろうと用意されたのがこの二つのアイテムさ。『封印の小瓶』と『時止まりの砂時計』」
「そのまんま」
「センスないわね」
「す、すごい！」
「……スピー」
「同時に喋んなって言っただろうが！ ブリサ、どさくさに紛れて寝るんじゃない！ 話の途中だよ！」
おおばば様がドラミングをしてから、言葉を続けます。
「500年前に使われた『封印の小瓶』は、蓋を開けて相手の名前を呼び、相手が返事をしたら封印できるって代物だった。それを四姉妹の声を模写する道具でそれぞれの姉妹の名前を呼んだ。
この時はうまいこと返事をしてくれて、封じ込めたと記録には残っているのさ。これはそれをさらに進化させた小瓶だよ。蓋を開け10メートル以内で相手の名前を言うんだ。それだけでその相手を小瓶に封じられる」
「10メートルか。微妙だな」
「ええ。遠いようで近いわね」
「相手はあの伝説の4姉妹だもんね」
「がんばらないとだね～」
おおばば様が大きく頷く。
「ああ。あんたらにも魔女たちの所にたどり着くまでに成長してもらわにゃ困るよ。
それで、こっちの『時止まりの砂時計』の役割はわかるね？
これは所持者以外の時間を止める。時間を止めている間に封印しちまえば、時が動き出したときには同時に封印したことになるっていうすんぽうさ。時間は3分。誰か一人でも使えば時間が止まるけど、同じ物を持ってる他の三人も動ける。だから実質、止めておける時間は12分あると考えていい。ただし、一度使うと再度使えるようになるには三年かかるんだよ。
あたしが呪いの定着を遅らせるといっても、一年もたせるのが精一杯だろうから、時間を止めている間に小瓶を使うチャンスは、砂時計をばらばらに使えば4回あると覚えておきな」
「でも、おおばば様。いくらチャンスが4回あっても、タイミングを合わせられないんじゃ難しいと思うわ。なにか連絡手段になる道具はないの？」
「……相変わらず頭の働く娘だね。そういう道具も確かにあったのさ。ただ使える距離がせいぜい2・3kmってところなんだよ。スマホって方法も考えたが、あれは充電が面倒だし、電波が届かなけりゃアウトだ」
4匹はスマホというのがなんなのかわからなかったので首を捻りますが、おおばば様はかまわずに話し続けます。
「あんたらにはそれぞれ旅立ってもらう前に、揃ってここから一番近い街。ドロンに行ってもらうよ」
そう言って、おおばば様は一枚の封筒を四人に差し出しました。
「……さて、なにから話したもんかね。……そうだね。結論から言っちまうと、この里にかけられた呪いの魔法の解呪は、あんたら四人にやってもらわなくちゃいけない」
「……おおばば様ではできないの？」
リオが当然の疑問を口にします。四匹が知る限り、魔力の高さも魔法の技術も、おおばば様を上回る存在は、里にはいないはず。
「昨日あんたらの会話が聞こえてきたけどね。
イトルの見立ては合っているよ。
本来なら、呪いってのは術者の魔力を断ってやれば消えるものだけどね。
厄介なことに、呪いを固定化する呪いがうわぐすりのように塗り込められている。しかもその塗られた呪いがえげつない。四人の魔力を混ぜ合わせたものを自分達から独立させて呪いとして成立させている。
……つまりだ。魔力供給されなくても継続するから魔力を断っても解呪されない」
一番真面目に魔法を勉強しているイトルが頷きます。
「解呪するためには、呪いが発動されたのと逆の現象をぶつけてやる必要があるんだよね」
「そうさ。イトルはちゃんと勉強しているね。話を聞いた限りじゃ、四人はバラバラの方角に行っちまった。どのみちアタシ一人じゃできないが、そもそもアタシは里に結界を張る、里の連中が争わんように面倒を見る、呪いの完全定着を遅らせるってのを同時にこなしていかなきゃならん」
「いや、でもさ。ボクたちが行ったところで、あの魔女たちをどうにかできるとは思えないんだけど……しかも、同時にだろ？ どう考えたって無理じゃん！」
シィーラの言葉に、おおばば様が鼻をフンと鳴らしました。
マウンテンゴリラの大きな鼻の穴から吹き出された大量の鼻息にあおられて、ブリサがコテンと後ろに倒れます。
「500年という歳月を甘くみるんじゃないよ。あたしら魔女が、もしもに備えてこない訳がないだろう？
いつか封印が破られ、あの邪悪な四姉妹が暴れだすことぐらいは想定内さ。
あいつらの性格も得意な魔法も、研究に研究を重ねて、記録がいまに残されてきている。対策もばっちり……だったんだけどねぇ。さすがに復活と同時に遠隔で呪いを飛ばしてくるのは想定外だったね。まずは姿くらい見せて欲しかったよ」
はぁと、おおばば様が大きく息を吐く。
ブリサが後方に2回転がる。
そのブリサが体勢を立て直して、トテトテ元の位置に戻ると、おおばば様は椅子から立ち上がり、四人の前に四つの小瓶と四つの砂時計を置きました。
「なにこれ？」
「マジックアイテム……かしら？」
「あ、あの封印に使ってた瓶に似てるよね？」
「砂時計だから～、時魔法がこめられてるのかな～」
「同時に喋るんじゃないよ！ ちゃんと説明するから良くお聞き。奴らの呪い魔法を強化させたのはおそらく三女のラズルシェニエ。500年前にも同じ類の魔法を使ってる。５００年前は囮を使って四人を一ヶ所に集めたそうだけどね。さすがに同じ手は喰らってくれないだろうと用意されたのがこの二つのアイテムさ。『封印の小瓶』と『時止まりの砂時計』」
「そのまんま」
「センスないわね」
「す、すごい！」
「……スピー」
「同時に喋んなって言っただろうが！ ブリサ、どさくさに紛れて寝るんじゃない！ 話の途中だよ！」
おおばば様がドラミングをしてから、言葉を続けます。
「500年前に使われた『封印の小瓶』は、蓋を開けて相手の名前を呼び、相手が返事をしたら封印できるって代物だった。それを四姉妹の声を模写する道具でそれぞれの姉妹の名前を呼んだ。
この時はうまいこと返事をしてくれて、封じ込めたと記録には残っているのさ。これはそれをさらに進化させた小瓶だよ。蓋を開け10メートル以内で相手の名前を言うんだ。それだけでその相手を小瓶に封じられる」
「10メートルか。微妙だな」
「ええ。遠いようで近いわね」
「相手はあの伝説の4姉妹だもんね」
「がんばらないとだね～」
おおばば様が大きく頷く。
「ああ。あんたらにも魔女たちの所にたどり着くまでに成長してもらわにゃ困るよ。
それで、こっちの『時止まりの砂時計』の役割はわかるね？
これは所持者以外の時間を止める。時間を止めている間に封印しちまえば、時が動き出したときには同時に封印したことになるっていうすんぽうさ。時間は3分。誰か一人でも使えば時間が止まるけど、同じ物を持ってる他の三人も動ける。だから実質、止めておける時間は12分あると考えていい。ただし、一度使うと再度使えるようになるには三年かかるんだよ。
あたしが呪いの定着を遅らせるといっても、一年もたせるのが精一杯だろうから、時間を止めている間に小瓶を使うチャンスは、砂時計をばらばらに使えば4回あると覚えておきな」
「でも、おおばば様。いくらチャンスが4回あっても、タイミングを合わせられないんじゃ難しいと思うわ。なにか連絡手段になる道具はないの？」
「……相変わらず頭の働く娘だね。そういう道具も確かにあったのさ。ただ使える距離がせいぜい2・3kmってところなんだよ。スマホって方法も考えたが、あれは充電が面倒だし、電波が届かなけりゃアウトだ」
4匹はスマホというのがなんなのかわからなかったので首を捻りますが、おおばば様はかまわずに話し続けます。
「あんたらにはそれぞれ旅立ってもらう前に、揃ってここから一番近い街。ドロンに行ってもらうよ」
そう言って、おおばば様は一枚の封筒を四人に差し出しました。
