リオ、シィーラ、ブリサの三匹が、マウンテンゴリラと変化したおおばば様の結界魔法に守られてから、5分くらいたった頃。
 後ろ足で直立していたシマスカンク姿のイトルが、唐突に倒れました。
 三匹は揃って結界から飛び出し、イトルに駆け寄ります。


「イトル!」
「まさか自分の魔法で寝ちゃったの?」
「しっかりして~」

「単なる魔力の枯渇だよ。安心おし」


 のっそりと四匹の側までやって来たおおばば様が、そう言って辺りを見回しました。


「あたしら以外は深く寝ちまったようだね。アンタらの中じゃ一番魔力を秘めているとは思ってはいたけど……ここまでかい」


 呆れるようにため息をつき、気を失っているイトルを見下ろすおおばば様。


「アンタら三人は、イトルをアタシの家まで運んで待ってな。
 あたしは男どもを森に捨ててから、里に不可侵の結界を張るからね」


 そう言って一番近くに倒れていたイトルの母を引っ張っていた男を片手で軽々と担ぎあげた。


「やっぱりおおばば様、あまり変わってない」

「変わってるよ!」


 ブリサの呟きに速攻でツッコミをいれ、おおばば様はその男を担いだまま、折り重なるように倒れている他の男たちの方へのっしのっしと歩いて行きました。
 リオたち三匹は顔を見合わせ頷き合うと、協力して……といってもほとんどリオ一匹でですが……リトルをおおばば様の家まで運び、火のついたままの暖炉の前に、そっと寝かせると、身体を寄せ合うようにして、おおばば様が戻って来るのを待ちます。
 三匹がウトウトし始めた頃になって、ようやく家へと戻って来たおおばば様。


「あんたらもいろいろあって疲れてるんだろうけどね。まだ寝せる訳にはいかないよ。あたしゃ最初の変化の魔法を喰らったところで結界を張ることができたから、人の意識を保つことができた。
 ……だけどね。あんたらじゃ無理。結界魔法を使うのはもちろん、注ぎ込む魔力もあの伝説の魔女たち相手じゃ、足りゃあしない。なにがあったか、最初からお話し」


 暖炉側のロッキングチェアに腰を下ろし、静かな声で三匹を促す。
 三匹はこうなっては誤魔化す訳にはいかないと、お互いに捕捉し合いながら、おおばば様に事の顛末を報告しました。


「……そうかい。そんなことがねぇ」

「「「……ごめんなさい」」」


 しょんぼりとする三匹を見ながらおおばば様は大きく息を吐き出す。


「そうだね。言いつけを守らなかったのは悪い。
 だがねぇ、いつまでも幼児じゃないんだ。
 もっと早くきちんと理由を説明しとくべきだったのさ。あたしらもね」
 

 おおばば様はそう言って勢いをつけてロッキングチェアから跳ね起きる。


「さて、あんたらには大事な話をしなきゃならないが、明日の朝にしよう。
 あたしもいろいろと準備しないといけないからね。
 ……少し待ってな。スープを温め直してきてやるよ。
 それを食ったら、今日はみんなここでおやすみ。今は毛皮もちだ。毛布もいらんだろう」

 おおばば様がキッチンへと入っていくと、三匹はイトルを中心にして顔を突き合わせます。


「大事な話ってなんだろうな?」

「この呪いのことに決まってるじゃない」

「そだね。解呪の方法とかかもね~」

「できんのか」

「言ってたじゃない。アイツらが」

「四人の魔力を同時に断つんだよね~」

「同時って……あいつら別々の所に行くって言ってなかったか?」

「一緒にいたって同時には難しいわよ。なんで同時じゃないといけないのかしら?」


 三匹が首を捻っていると、下から声が届く。


「……たぶんだけど、解除するには、呪いがかけられた状態と逆の状態をぶつけないといけないのかも」

「イトルちゃん! よかった~♪ 大丈夫~? 気分悪くな~い?」

「大丈夫。ありがとう、ブリサちゃん」


 そう言って起き上がろうとしますが、シィーラが四指でイトルの頭を押さえ付けます。


「そのまま横になってな。話は明日するって言ってんだから。あたしたちもスープ飲んだら寝るし」

「えー。あたしも飲みたい。お腹すいたの」


 イトルが情けない声をあげると、キッチンから飛んでくるおおばば様の声。


「わかってるよ、つまらない心配すんじゃないよ」


 四匹がキッチンの方へ目を向けると、エプロンをしたマウンテンゴリラが、スープとバナナを四人分乗せたお盆を片手で持って、のっしのっしとキッチンから出て来るところでした。


 お盆の上に乗ったバナナを見ながら四匹は、「やっぱり、おおばば様あまり変わってない」という言葉を辛うじて飲み込んだのです。