四人は焦る心を互いになだめ合いながら、里への帰り道を急ぎます。
ビーバーもスカンクも、陸上での動きの機敏さで外敵から身を守っている訳ではないけれど、イトルもリオも懸命に足を動かして森を駆け抜けました。
そのおかげか、洞窟に行くのにかかった時間よりはるかに早く、集落に戻ることができたのです。
そこで四人を待っていたのは……。
「すげーな。なんとなくここまで入ってきたが、こんな村みたいな所に稀少動物がけっこういやがるぜ」
「とりあえず囲い作っちまおう。全部捕獲するには道具が足りねえからな」
「即席の看板作っとくか?」
「そんなもん効果ねえよ。全員で戻ることはねえだろう。二人残ろうぜ」
「だが、これだけ民家があって人っ子ひとりいねぇのはなんか変じゃねえか」
「気にするこたぁねえよ。人の住んでるとこにこんなに野生の動物がいるわけねぇ。ずいぶん前に捨てられたのさ」
「……さっきまで住んでたような気配があんだけどな……」
「んなことより、肉食だけでもなんとか別にしちまわねえと!」
「こっちを襲って……こねえな」
人間の男が5人と、たくさんの動物たちがそこにはいたのです。
動物たちは、身体に衣服が引っかかっていたり、帽子が角に引っかかっていたり。
明らかに動物に姿を変えられたこの里の魔女たちでした。
「おい! 見てくれ、こいつ!」
人間の男はもう一人いたらしく、民家の中から美しい青い毛並みの、短い角を持った、シカによく似た動物の首にロープをひっかけて引っ張りだしてきているところでした。その首にはロープ以外にもネックレスが。
「おお、青いシカなんて珍しいな」
「シカじゃねぇよ。こいつはウシ科だったはずだ」
「……まさか、ブルーバックか⁉」
「なんだそりゃ?」
「絶滅種だよ! 300年くらい前に滅んだはずだ。嘘だろ? なんでこんなところに」
「すげえー! そうとう高く売れるぞ、こりゃー!」
幼馴染の四匹は、そんな騒ぐ男たちの様子を、家の陰からこっそりと覗き見ていましたが、リオとシィーラの耳に、何かが落ちる音を聞こえてきたのです。
「ど、どうしたの、イトルちゃん?」
見れば先程までイトルに咥えられていたブリサが、地面に転がりながらイトルを見上げていました。
「……ママだ」
「「「え⁉」」」
イトルは震える声で続けます。
「あの人出てきたの私のウチだし! あのシカさんが首にかけてるネックレス……絶対ママのだもん!」
イトルは三匹が止める間もなく、ブルーバックを引っ張る男の前に飛び出しました。
「ママを放して!」
突然飛び出してきた人語を話すスカンクに、男たちがたじろぐ。
「おいおいここはなんでもありかよ。喋るスカンクだと」
「ああ。だがスカンクはやべえぞ。肉食よりある意味やべぇ」
「屁される前に、殺しとっか」
男たちの内、二人がイトルに猟銃を向けました。
「ひっ! ……や。……イヤーーーーー‼」
イトルが叫んだかとおもうと、その瞳から大量の涙が!
途端に、男たちに異変が現れました。
まず、イトルから一番近かったブルーバックを引っ張っていた男が膝をつきます。
「な、なんだ? 急に眠気が……」
そして、次々に男たちが手にしていた銃を取り落し、その場に倒れていったのです。
男達ばかりではありませんでした。
周囲の動物たちも、どさり、どさりと、イトルとの距離が近いものから倒れていきます。
信じがたい光景でした。
どうやら、イトルの魔法が暴走しているようです。
イトルの眠りの香りの魔法が、大量の涙から分泌され、深い眠りの効果を周囲にまき散らしているに違いありません!
「う……そ。これ、イトルがやってるの?」
「ま、まずくね。あたしたちも眠っちまいそう」
「……スピー」
「駄目よ、ブリサ! この魔力量の魔法で寝ちやったら、解除してもらわないと起きられなくなる!」
「け、ど。これボクたちもやばい……よ。抗い……きれない!」
「スピー、スピー」
イトルから離れた位置にいた三人も、急激な眠気に襲われます。
イトルがコウモリたちに使った眠りの香りの魔法とは、こめられた魔力の量が圧倒的に違いました。
これは、誰かに解除されない限り死ぬまで眠り続ける、『死の眠りの香り』。
「くっ。なんだいこの馬鹿みたいな魔力の垂れ流しは!
……あのスカンクは……さてはイトルだね。それじゃあ、そこの三匹! リオ、シィーラ、ブリサかい⁉ ぼさっとしてないでアタシの後ろに隠れな! 結界を張るよ!」
限界に近付きつつあった三人の耳に、イトルの魔法を遮断するような強い声が響く。
三人が声をした方向に目を向けると、淡い光に包まれた、一匹の三角帽子とローブを身につけたマウンテンゴリラが、のっしのっしと歩いて来ているところでした。
「まさか、その声! おおばば様かよ」
「おおばば様⁉ 意識が残ってるの⁉」
「おおばば様、姿変わってない」
「変わってるよ! ブリサ、寝ぼけてないでシャンとおし!」
おおばば様は、ブリサにたいしてドラミングをして威嚇をすると、すぐに気を取り直して三人のもとまでやって来ます。
おおばば様が杖を振るった途端、四人は光のドームに囲われました。
ビーバーもスカンクも、陸上での動きの機敏さで外敵から身を守っている訳ではないけれど、イトルもリオも懸命に足を動かして森を駆け抜けました。
そのおかげか、洞窟に行くのにかかった時間よりはるかに早く、集落に戻ることができたのです。
そこで四人を待っていたのは……。
「すげーな。なんとなくここまで入ってきたが、こんな村みたいな所に稀少動物がけっこういやがるぜ」
「とりあえず囲い作っちまおう。全部捕獲するには道具が足りねえからな」
「即席の看板作っとくか?」
「そんなもん効果ねえよ。全員で戻ることはねえだろう。二人残ろうぜ」
「だが、これだけ民家があって人っ子ひとりいねぇのはなんか変じゃねえか」
「気にするこたぁねえよ。人の住んでるとこにこんなに野生の動物がいるわけねぇ。ずいぶん前に捨てられたのさ」
「……さっきまで住んでたような気配があんだけどな……」
「んなことより、肉食だけでもなんとか別にしちまわねえと!」
「こっちを襲って……こねえな」
人間の男が5人と、たくさんの動物たちがそこにはいたのです。
動物たちは、身体に衣服が引っかかっていたり、帽子が角に引っかかっていたり。
明らかに動物に姿を変えられたこの里の魔女たちでした。
「おい! 見てくれ、こいつ!」
人間の男はもう一人いたらしく、民家の中から美しい青い毛並みの、短い角を持った、シカによく似た動物の首にロープをひっかけて引っ張りだしてきているところでした。その首にはロープ以外にもネックレスが。
「おお、青いシカなんて珍しいな」
「シカじゃねぇよ。こいつはウシ科だったはずだ」
「……まさか、ブルーバックか⁉」
「なんだそりゃ?」
「絶滅種だよ! 300年くらい前に滅んだはずだ。嘘だろ? なんでこんなところに」
「すげえー! そうとう高く売れるぞ、こりゃー!」
幼馴染の四匹は、そんな騒ぐ男たちの様子を、家の陰からこっそりと覗き見ていましたが、リオとシィーラの耳に、何かが落ちる音を聞こえてきたのです。
「ど、どうしたの、イトルちゃん?」
見れば先程までイトルに咥えられていたブリサが、地面に転がりながらイトルを見上げていました。
「……ママだ」
「「「え⁉」」」
イトルは震える声で続けます。
「あの人出てきたの私のウチだし! あのシカさんが首にかけてるネックレス……絶対ママのだもん!」
イトルは三匹が止める間もなく、ブルーバックを引っ張る男の前に飛び出しました。
「ママを放して!」
突然飛び出してきた人語を話すスカンクに、男たちがたじろぐ。
「おいおいここはなんでもありかよ。喋るスカンクだと」
「ああ。だがスカンクはやべえぞ。肉食よりある意味やべぇ」
「屁される前に、殺しとっか」
男たちの内、二人がイトルに猟銃を向けました。
「ひっ! ……や。……イヤーーーーー‼」
イトルが叫んだかとおもうと、その瞳から大量の涙が!
途端に、男たちに異変が現れました。
まず、イトルから一番近かったブルーバックを引っ張っていた男が膝をつきます。
「な、なんだ? 急に眠気が……」
そして、次々に男たちが手にしていた銃を取り落し、その場に倒れていったのです。
男達ばかりではありませんでした。
周囲の動物たちも、どさり、どさりと、イトルとの距離が近いものから倒れていきます。
信じがたい光景でした。
どうやら、イトルの魔法が暴走しているようです。
イトルの眠りの香りの魔法が、大量の涙から分泌され、深い眠りの効果を周囲にまき散らしているに違いありません!
「う……そ。これ、イトルがやってるの?」
「ま、まずくね。あたしたちも眠っちまいそう」
「……スピー」
「駄目よ、ブリサ! この魔力量の魔法で寝ちやったら、解除してもらわないと起きられなくなる!」
「け、ど。これボクたちもやばい……よ。抗い……きれない!」
「スピー、スピー」
イトルから離れた位置にいた三人も、急激な眠気に襲われます。
イトルがコウモリたちに使った眠りの香りの魔法とは、こめられた魔力の量が圧倒的に違いました。
これは、誰かに解除されない限り死ぬまで眠り続ける、『死の眠りの香り』。
「くっ。なんだいこの馬鹿みたいな魔力の垂れ流しは!
……あのスカンクは……さてはイトルだね。それじゃあ、そこの三匹! リオ、シィーラ、ブリサかい⁉ ぼさっとしてないでアタシの後ろに隠れな! 結界を張るよ!」
限界に近付きつつあった三人の耳に、イトルの魔法を遮断するような強い声が響く。
三人が声をした方向に目を向けると、淡い光に包まれた、一匹の三角帽子とローブを身につけたマウンテンゴリラが、のっしのっしと歩いて来ているところでした。
「まさか、その声! おおばば様かよ」
「おおばば様⁉ 意識が残ってるの⁉」
「おおばば様、姿変わってない」
「変わってるよ! ブリサ、寝ぼけてないでシャンとおし!」
おおばば様は、ブリサにたいしてドラミングをして威嚇をすると、すぐに気を取り直して三人のもとまでやって来ます。
おおばば様が杖を振るった途端、四人は光のドームに囲われました。