「行ったみたいだな。なんだったんだアレ?」


 一番大きなローブから這い出てきたのは、シィーラの声をしたヨツユビハリネズミ。


「まさか、邪悪な魔女の四姉妹……おとぎ話じゃなかったの?」


 リオの声でそう言ったのは、赤い毛並みが美しいビーバー。


「そ、そんなことより、どうしたらいいの⁉ 私たち動物になっちゃってるよ!」


 一番小さなイトルのローブの中から顔をだしたのは、イトルの声をしたシマスカンク。
 そう。彼女たちは邪悪の魔女四姉妹によって、動物の姿に変えられてしまったのです。


「わかんないわよ、私だって! 伝説の魔女の魔法なんて私たちにとけるわけないじゃない!」

「わーわー、泣くなイトル! リオもイトルにあたったってしょうがないだろう!
 ってボクになだめ役なんてできるかーっ! こういうのはブリサの役割だろ……って、ブリサ、どうした?」


 ブリサがのんびりとしているのはいつものことでしたが、三人が揉めている時のフォローは意外に早いのです。そのブリサが、なかなか顔をみせない。
 心配になり、イトルは涙を引っ込め、リオは怒りの矛を収め、シィーラと一緒に三匹トテトテ歩いてブリサのローブを覗き込みます。


「「「ブリサ?」」」

「ふええ。三人ともいるの~? ここどこ~? 出口どこ~?」


 よく見ればローブの小さな膨らみが、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
 ぽっちゃり体型のブリサのローブが、ふっくらしすぎていて、いままで気づけなかったのです。
 三匹は顔を見合わせると、それぞれ慣れない体でローブの襟元を掴むとバッサバッサとローブを払う。
 すると、黒と茶色と白が絶妙に配色された小鳥がぽてっと落ちました。
 とある地域で、雪の妖精と呼ばれるシマエナガ。
 逆さまに地面に落ちたブリサは、もがきながら体勢を立て直し、正面からつぶらな瞳で三匹を見ます。


「ほえ~。みんな本当に動物になっちったね。びっくり~」


 ふっくらとした可愛らしい姿でそう言ったブリサに、シィーラは右から、リオは左から体を寄せます。
 ビーバーとヨツユビハリネズミに挟み込まれたシマエナガの身体が、地面からちょっと持ち上がる。


「ど、どうしたの~、ふたりとも? ……シィーラちゃんちょっとチクチクするよ~」

 二人が理由を言うより早く、シマスカンクと化したイトルが正面からギューっとブリサにしがみつく。


「ふええええ? イトルちゃんまでどうしたの~」


 宙に浮いた足が、バタバタ。


「「「シマエナガ、チョ~カワイイ‼」」」

「ウエエエエ! 三人とも落ち着いて~。こんなことしてる場合じゃないよ~。
 里に急いで戻らないと。ママたちが心配だよ~」

「「「あ!」」」


 三匹が同時に我に返り、ブリサが地面にポチャっと落ちます。


「ひ、ひどいよ~」

「ゴメン! でもホント早く戻らなきゃ!」

「……仕方ないわね。シィーラは私の背中にしがみつきなさい! 針たてるんじゃないわよ。イトルはブリサを咥えて来て、歯をたてないようにね!」

「お、おう!」
「わ、わかった。気をつける」

 体格差を考えてのリオの指示に、二匹は即座に反応し、洞窟からの撤退を開始しましたが、半分も戻らないところで難関にぶつかります。


「くさい! なにこの腐ったような臭い!」

「まさか、コウモリ⁉ 全部死んで……腐ってるの⁉」

「こ、これもあいつらの魔法かよ」

「……私達を殺そうと思えば、簡単に殺せたんでしょうね」


 先を行く二匹が息を呑んでいると、後ろからのんびりとした声がかかる。


「二人とも道を作るからどけて~」


 シィーラを乗せたリオが横に移動してすぐ、二匹の横を風が吹き抜け、コウモリたちの死骸を脇へと片付けます。
 同時に洞窟内が、心安らぐ優しい香りに満たされました。


「さすがブリサ。掃除はお手のもんだな」

「イトルも助かるわ。でも、どうしてイトル真っ赤になってるの?」


 リオの指摘通り、イトルが黒い毛並みだというのに、はっきり分かるほど頬が真っ赤です。


「えーとね。イトルちゃん、魔法つかうのに―――――」

「んー! んー! んー!」


 イトルがブリサを咥《くわ》えたまま、前足だけでブリサの口を塞ごうとしますが、ブリサは羽をパタパタさせ風魔法を起こして巧みにかわします。


「おならしたの」


 シィーラとリオに見つめられ、イトルはブリサを咥えたままうつむきました。


「さすがスカンク」

「まぁ、良い香りをだすスカンクなんて貴重よ。それより急ぎましょう」

「うん。こんなことできる人たちが里に行ってたらたいへんだよ~」

 リオが四足で駆け出すと、イトルも慌てて顔をあげ、後を追って洞窟の出口を目指したのです。