「アハハハハハハハ、やったよ! 500年ぶりの自由だ!」
「さてさて、外はいったいどう変わったかねぇ?」
「暴れてやる。暴れてやるぞ!」
「男が……欲しいわねぇ」
魔法陣の中央、それまで小瓶が置かれていた箇所に四人の女。
四人は魔女。500年前に好きたい放題に暴れまわり、世界に恐怖をばらまいた邪悪な魔女の四姉妹。
「ふん。好きにやるには、この魔法陣を壊さないとだよ。小娘たちと違って、あたしゃあんたたちに合わせて行動するなんてまっぴらごめんだからね」
鉤鼻が特徴的な長身痩躯の長女アロスティア。
「それはこっちの台詞さ、姉さん。腹減って苛立ってんだ。腹の足しにもならない姉さんのぼやきなんか聞きたくもない」
でっぷりと太った次女アンジョーラ。
「500年調べた。破壊できる。一瞬だ」
男性のように筋骨たくましい三女ラズルシェニエ。
「ウフフ。それじゃあラズル姉さんにお任せするわ」
背筋が寒くなるほど美しい四女スィヌシア。
まったく似ていない人ですが、性格の悪さだけは一緒という、はた迷惑な四姉妹。
ラズルシェニエがその太い両腕を天井へと向けます。
「おお! 全てを支えし大いなる大地よ。お前の上に当たり前のように君臨する愚かなる者に、その偉大さを示すのだ!」
ラズルシェニエが呪文を唱えると地面が強く揺れだしました。
ただし揺れているのは四姉妹が立っている魔法陣のみ。
魔法陣の中央から、東西南北にむかってひびがはいり、綺麗に四等分に割れ、ついに魔法陣から光が消えたのです。
「よしよし。これで完全に自由だね。だが、腹の虫がおさまらないよ! あたしらを封じ込めた連中に仕返ししてやらなきゃね!」
「なに言ってんだい。とっくに死んでるよ。残ってるのはその子孫さ」
「どうせ束になっても私らを殺すことさえできない連中だ。面白くもない」
「ウフフ。アロ姉さん。それならこの土地に残って私たちを監視している、彼女たちの子孫に、呪いをプレゼントするのはどうかしら?」
スィヌシアの提案に、アロスティアが底意地悪そうに、にんまりと笑いました。
「いいね。それならあたしは、ここに住む低能な魔女たちを動物の姿にかえてやろう。
おお、体内に眠りし種の記憶よ。お前たちの姿はその姿にあらず。今こそ真の姿を取り戻せ!」
アロスティアの指から光ったかと思うと、そこからいくつもの光線が走り出したその内四つだけが魔法陣の上に落ち、それ以外は全て、天井に吸い込まれて消えていきました。
「よし。それならあたしはその心を本能のまま生きれるようにしてやるさ」
「待って。アン姉さん」
アロスティアに続いて魔法を唱えようとしたアンジョーラをスィヌシアは床を指さしながら止めます。
そこにはローブと三角帽子、それに杖がそれぞれ四人分。
でも、それの所有者であったはずの、少女たちの姿が見えません。
「なにさ」
「その子たちはあたしたちの封印を解いてくれた恩人よ。
心はそのままにしておいてあげて」
「ふん。いいだろう。全員動物の心に変えちまったら誰も苦しまない。それはつまらないからね。
……おお、理性に抑圧されし本能よ。いまこそ呪縛を解き放ち、その肉体を自由に突き動かすといい!」
アンジョーラの指から出た光は床にはいかず、全て天井に。
「ウフフ。次はあたしがやらせてもらうわ。私は優しいから動物に変わってしまっても、人間に愛され必要とされるようにしてあげる。
ただし、肉として、皮として、骨としてだけどね。
ああ、そうだ。これもあなたたちは除外してあげる。これで残りの人生は静かに暮らせるわ。正確には人生ではないけれどね。ウフフ。
……ああ、体内に眠りし素敵な魅力よ、目を覚ませ。あなたを誰もが愛してくれるように」
スィヌシアの指先からの光も全て天井へ。
「俺は呪いを固定化させよう。ねえさん達、スィヌシア。魔力を少しもらうぞ。これでアタシ達四人の魔力が同時に断たれない限り呪いが解けることはなくなる。
……おお、おおいなる力よ。新たに芽生えし力よ。汝いかなる者にも屈さずその使命を果たせ!」
ラズルシェニエの指先からの光は、アロスティアと同じで四つだけ地面に落ちました。
「ふう。少しは気が晴れたね。それじゃあアタシは南に行くよ。あったかい方が身体が楽だからねえ。あんたたちついて来るんじゃないよ!」
「ついて行くわけないじゃないのさ! あたしは西に行く。さっきからいい匂いがしてくるんだよ」
「俺は東だ。東には侍《さむらい》という強者たちが住んでいるという。楽しみだ」
「侍ってまだいるのかしらね? 私は北ね。寒い方が情熱的な男が多いでしょう。私も楽しみだわ」
四姉妹は好き勝手なことを言いながら、洞窟の入り口へと向かって歩いて行きます。
四姉妹の足音が完全に聞こえなくなり、魔法陣のあった広場は静寂に包まれました。
その静寂を破るように、四人の小さな魔女たちが残したローブが、もぞもぞ、もぞもぞと……。
「さてさて、外はいったいどう変わったかねぇ?」
「暴れてやる。暴れてやるぞ!」
「男が……欲しいわねぇ」
魔法陣の中央、それまで小瓶が置かれていた箇所に四人の女。
四人は魔女。500年前に好きたい放題に暴れまわり、世界に恐怖をばらまいた邪悪な魔女の四姉妹。
「ふん。好きにやるには、この魔法陣を壊さないとだよ。小娘たちと違って、あたしゃあんたたちに合わせて行動するなんてまっぴらごめんだからね」
鉤鼻が特徴的な長身痩躯の長女アロスティア。
「それはこっちの台詞さ、姉さん。腹減って苛立ってんだ。腹の足しにもならない姉さんのぼやきなんか聞きたくもない」
でっぷりと太った次女アンジョーラ。
「500年調べた。破壊できる。一瞬だ」
男性のように筋骨たくましい三女ラズルシェニエ。
「ウフフ。それじゃあラズル姉さんにお任せするわ」
背筋が寒くなるほど美しい四女スィヌシア。
まったく似ていない人ですが、性格の悪さだけは一緒という、はた迷惑な四姉妹。
ラズルシェニエがその太い両腕を天井へと向けます。
「おお! 全てを支えし大いなる大地よ。お前の上に当たり前のように君臨する愚かなる者に、その偉大さを示すのだ!」
ラズルシェニエが呪文を唱えると地面が強く揺れだしました。
ただし揺れているのは四姉妹が立っている魔法陣のみ。
魔法陣の中央から、東西南北にむかってひびがはいり、綺麗に四等分に割れ、ついに魔法陣から光が消えたのです。
「よしよし。これで完全に自由だね。だが、腹の虫がおさまらないよ! あたしらを封じ込めた連中に仕返ししてやらなきゃね!」
「なに言ってんだい。とっくに死んでるよ。残ってるのはその子孫さ」
「どうせ束になっても私らを殺すことさえできない連中だ。面白くもない」
「ウフフ。アロ姉さん。それならこの土地に残って私たちを監視している、彼女たちの子孫に、呪いをプレゼントするのはどうかしら?」
スィヌシアの提案に、アロスティアが底意地悪そうに、にんまりと笑いました。
「いいね。それならあたしは、ここに住む低能な魔女たちを動物の姿にかえてやろう。
おお、体内に眠りし種の記憶よ。お前たちの姿はその姿にあらず。今こそ真の姿を取り戻せ!」
アロスティアの指から光ったかと思うと、そこからいくつもの光線が走り出したその内四つだけが魔法陣の上に落ち、それ以外は全て、天井に吸い込まれて消えていきました。
「よし。それならあたしはその心を本能のまま生きれるようにしてやるさ」
「待って。アン姉さん」
アロスティアに続いて魔法を唱えようとしたアンジョーラをスィヌシアは床を指さしながら止めます。
そこにはローブと三角帽子、それに杖がそれぞれ四人分。
でも、それの所有者であったはずの、少女たちの姿が見えません。
「なにさ」
「その子たちはあたしたちの封印を解いてくれた恩人よ。
心はそのままにしておいてあげて」
「ふん。いいだろう。全員動物の心に変えちまったら誰も苦しまない。それはつまらないからね。
……おお、理性に抑圧されし本能よ。いまこそ呪縛を解き放ち、その肉体を自由に突き動かすといい!」
アンジョーラの指から出た光は床にはいかず、全て天井に。
「ウフフ。次はあたしがやらせてもらうわ。私は優しいから動物に変わってしまっても、人間に愛され必要とされるようにしてあげる。
ただし、肉として、皮として、骨としてだけどね。
ああ、そうだ。これもあなたたちは除外してあげる。これで残りの人生は静かに暮らせるわ。正確には人生ではないけれどね。ウフフ。
……ああ、体内に眠りし素敵な魅力よ、目を覚ませ。あなたを誰もが愛してくれるように」
スィヌシアの指先からの光も全て天井へ。
「俺は呪いを固定化させよう。ねえさん達、スィヌシア。魔力を少しもらうぞ。これでアタシ達四人の魔力が同時に断たれない限り呪いが解けることはなくなる。
……おお、おおいなる力よ。新たに芽生えし力よ。汝いかなる者にも屈さずその使命を果たせ!」
ラズルシェニエの指先からの光は、アロスティアと同じで四つだけ地面に落ちました。
「ふう。少しは気が晴れたね。それじゃあアタシは南に行くよ。あったかい方が身体が楽だからねえ。あんたたちついて来るんじゃないよ!」
「ついて行くわけないじゃないのさ! あたしは西に行く。さっきからいい匂いがしてくるんだよ」
「俺は東だ。東には侍《さむらい》という強者たちが住んでいるという。楽しみだ」
「侍ってまだいるのかしらね? 私は北ね。寒い方が情熱的な男が多いでしょう。私も楽しみだわ」
四姉妹は好き勝手なことを言いながら、洞窟の入り口へと向かって歩いて行きます。
四姉妹の足音が完全に聞こえなくなり、魔法陣のあった広場は静寂に包まれました。
その静寂を破るように、四人の小さな魔女たちが残したローブが、もぞもぞ、もぞもぞと……。