懐中電灯を持つシィーラを先頭に、四人は洞窟の奥へ奥へ。
 身体強化魔法で視力が強化されているシィーラにとって、暗闇でも懐中電灯は必ずしも必要ではありません。でも、後ろの三人はそうはいきませんから、シィーラはすぐにでも走り出して洞窟の奥へと突き進みたい衝動を一生懸命に抑えて、三人の為に足元を照らしました。


「思っていたより歩きやすいわね。……やっぱり人の手が加わっているのかも」


 リオが興味深々といった様子で、シィーラが照らす地面を観察します。
 今四人が歩いている道は、岩肌こそ露出しているものの、端の方にしかつらら石や石筍が見えません。まるで誰かに整えられたかのようだったのです。


「お! 見ろよ! コウモリたちが天井にぶら下がったまま寝てるぜ!」


 シィーラが言いながら懐中電灯を天井に向けようとしたのを、リオが慌てて手を押さえつけました。


「なにすんだよ」

「バカ! せっかくイトルが眠らせたのに、起こしたら意味ないでしょ。
 人を襲ってくるとは思わないけど、驚かれて飛び回られるだけでも邪魔になるんだからね」

「え、えと、よっぽど強い刺激を与えなければ大丈夫だよ。深く眠っている匂いがするから」


 イトルは、いろんな効果のある香りをだすだけではなく、自分で自分の魔法にかからないように、嗅覚もとても鋭敏だったのです。まるで、鼻だけが身体強化魔法をつかっているように。


「えへへ♪ イトルちゃんスゴイね。シィーラちゃん気をつけてね」

「そうね。気をつけなさいよ、シィーラ」

「お、お願いね。シィーラちゃん」


 三人の言葉に、シィーラのほっぺがプクーとふくらみます。


「なんだよ、三人とも! ボクがなにかやらかすみたいに! 気をつけるのはみんな―――――」


 シィーラは言葉を突然きストップ。足の裏に、なんだか柔らかいものを踏んだ感触が……。
 慌てて足をどけると、プギャという鳴き声と共に一匹のコウモリが飛びたちました。慌てて飛んだコウモリはぶら下がっていた他のコウモリにぶつかって、驚いて目を覚ましたコウモリが、これまた慌てて飛んで他のコウモリにぶつかって。
 こうしてコウモリたちは、集団パニック飛行!


「このおバカ!」
「さすが、シィーラちゃ~ん♪」
「ひぃぃぃぃぃ!」


 のんびり屋のブリサがイトルのローブを掴む。
 臆病なイトルがリオのローブを掴む。
 しっかり者のリオがシィーラのローブを掴む。
 四人が一列になり、シィーラはぶつかりそうになるコウモリを杖で軽く叩き落しながら、後ろの三人を引き剥がさない程度の速度で、洞窟の奥へと駆けだしました。
 三人も、ローブを掴んだ手に力をいれて、シィーラに必死についていきます。
 100メートル近く走ったでしょうか?
 コウモリたちの鳴き声は、ずいぶん遠くへと。


「もう大丈夫みたいだな」


 平然とした顔でそう言ったシィーラに、息も絶え絶えだったリオが噛みつきます。


「ふ、ふざけ……てんじゃ……ないわよ! ……このおバカ!
 注意しろって言ったそばから!」

「な、なんだよ! 三人してボクに変なこと言うからじゃないか!」

「こういうことしでかす奴だから、言ったんじゃないのよ!」

「なんだとー!」

「……ねぇねぇ、ふたりとも~♪」


 今にも泣き出しそうなイトルの隣で微笑んでいたブリサが、のんびりとした口調で二人の喧嘩に割って入りました。


「見て見て~。奥の方。なんか明るいよ~」

「「え?」」


 二人の視線が同時に洞窟の奥へ。
 ブリサの言った通りでした。
 赤みを帯びた光が、洞窟の奥、L字に曲がった角の向こうから。


「……行ってみよう」

「そうね」


 さっきまで口論をしていたのが嘘のように、二人は手を繋いで慎重に奥へと進む。
 ブリサもいまだに目じりに涙を浮かべたままのイトルの手を引いて二人に続きます。

 L字の角を曲がった先はこの洞窟の最深部。
 つまりは行き止まり。
 そしてそこに赤い光の光源が。

 中央に四つの小瓶が置かれた、赤い光を放つ複雑な紋様の魔法陣が、四人を出迎えたのです。