「すげえ！ なんだあれ⁉ 鉄の塊みたいのが、すげー速さで走ってるぞ！」
「バカね。あれが自動車ってやつよ」
「うわー。話には聞いていたけど、街っていろんな匂いが混ざってて、ちょっと気持ち悪いかも」
「ほえー。魔女の里とは全然違うんだね」
『ドロンへようこそ‼』と書かれた看板の陰に隠れながら、街へと続く舗装された道路を眺め、4匹は思い思いの感想を口にします。
夜になってからだいぶ時間が経ちましたが、なんとか1泊もせずに森を抜けることができました。その安心感からか、今は空腹と眠気に襲われて、4匹の声にはいまいち元気が足りません。
「困ったわね。森で1泊するよりはマシだと思って抜けてきたけど、この時間だとお店も閉まってるだろうし、協力者っていう男の人も寝てしまっている可能性があるわね」
リオがおおばば様からもらった地図を眺めながら、困ったように言いました。
「どこか休めるところあるかな」
「そうだなぁ。この姿じゃ、宿にも泊まれないしな」
「おしゃべりしてるの見つかってもダメだしねぇ~」
「いえ、もう見つかっちゃってますし」
「「「「え⁉」」」」
４匹が一斉に驚きの声をあげる。
黒髪のくせ毛の強い、眼鏡をかけた穏やかそうな容貌の少年が、4匹のすぐ後ろで、困ったように頭をかいて４匹を見下ろしていたのです。
「だっ、誰だよ！ ぶっ飛ばすぞ！」
シィーラが他の3匹をかばうように前に出て、四本の指をギュッと握りしめる。
「わわ！ 待ってください、待ってください！
僕は弟子なんですよ。弟子！
貴女方が訪ねようとしているリチュオル・テイルの。魔女の里のおおばば様から連絡がきましたので」
「迎えに来てくれたのね」
リオがそう尋ねると、少年はまた困ったように頭をかきました。
「師匠はほっとけって言ってたんですけど、厄介な呪いをかけられていると聞きましたので……。いや、なんと言いますか、みなさん実に可愛らしい。
あ、これ。一応、証拠として持ってきました。魔女の里のおおばば様が魔法で送っていらした手紙です。確認してください」
少年が差し出した手紙をシィーラが受け取り、中身を確認しますが、首をひとつ捻ってリオに渡します。
「見極める自信がないなら、開く前に渡しなさいな」
「う、うるさいな。もしかしたらわかるかもって思っただけだい！」
リオはシィーラの文句は聞き流し、おおばば様からの手紙の中身をしっかりと確認し頷きました。
「うん。間違いないわね。おおばば様の字だし、残っている魔力の残滓もおおばば様の魔力で間違いないわ」
「良かった。信じてもらえたようですね。
それでは、僕について来ていただけますか？
薬局……リチュオル・テイルの家までご案内します」
「あ、はい。あの、ところでお名前は？」
イトルが怖々尋ねる。
「わわ！ すいません。僕はギャラン・テイルです。えっと、ハリネズミがシィーラさん、ビーバーがリオさん、スカンクがイトルさん、鳥さんがブリサさんでよろしかったですよね」
「正確にはシマエナガだけどね～」
そう言ってブリサは、翼をはためかせて飛びあがり、ギャランの頭に着地する。
「テイルと言うことは、ギャラン君はリチュオルさんの息子さん？」
イトルの言葉にギャランは首を横に振る。
「血のつながりはありません。
一応育ての親とはなるんですが、籍を一緒にしているだけで、父親っていう感じではないですしね。
さて、とにかく家に行きましょう。
その姿で街にいるのは、いろんな意味で危険だと思いますから」
「そうだね～。よろしく～」
ブリサが頭の上で間延びのした返事をすると、ギャランは笑って他の3匹に手を伸ばす。
「皆さん、ちょっと失礼しますね」
そう言って、シィーラを上着のポケットに入れ、イトルとリオを両脇に抱えました。
「ちょっと！ 歩いてついて行くわよ！」
「わわ！ ごめんなさい！ でも、首輪がないので、こうしていないとペットとはごまかせません。
この街は、野生動物がのほほんと歩いていられるほど安全ではないんです。ここからそんなに遠くはありませんので、少しの間我慢してください」
「わかりました。あの……重いかもしれないけど、よろしくお願いします」
「そんなことはありませんよ。それじゃあ、行きましょう」
イトルの恥ずかしそうな言葉に、ギャランは微笑みでかえすと、そのまま街の中へと歩きだします。
ギャランの言った通り、10分も歩かぬうちに、リチュオル・テイルの薬屋兼住宅に到着しました。
大通りに面した店の電気は消えていまいたが、住居になっているらしい２階の窓から明かりが漏れていました。リチュオル・テイルはまだ起きているようです。
ギャランは脇道からお店の裏手に回り、イトルとリオを降ろすと、裏口の鍵を開けて中に入りました。
「ただいま戻りました」
裏口からすぐのところにある、階段の上に向かってギャランが声を上げましたが、上から返事は帰ってきません。
「寝ちゃってるのかな？」
「でも、電気は点いていたわよ」
「なにかお仕事してるんじゃないのかな？」
「電気点いてても眠れるしね～」
「いえ、きっとタバコを吸っているだけです。返事が返ってこないのは、いつものことですから」
ギャランが苦笑しつつ、シィーラとブリサをそのままに階段を上がっていく。イトルとリオも、それに続きます。
「師匠、連れてきましたよ」
上がってすぐの明かりが点いている部屋にギャランが入っていくと、そこには無精髭の中年の男がひとり、煙を口から吐き出しながら、ソファーに気怠そうに身を預けていました。
「あのババァ、厄介事を送ってきやがって」
「なに言ってるんですか。魔女の里がこのままだったら、師匠の生活だって困るでしょうに」
ギャランが呆れた様子でそう言うと、ソファーに腰を掛けていた中年男リチュオルは、ふんと鼻を鳴らしたのです。
「うわー、感じワルッ！」
「感じというか性格ね。悪いのは」
「ダ、ダメだよ、２人とも！ そんな本当のこと言っちゃ！」
「イトルちゃんとどめを刺しに行くね～」
「クッ！ やかましい生ものどもが！」
リチュオルは吸っていたタバコを灰皿に押し付け、立ちあがる。
「俺は疲れたから寝る。ギャラン、あとは任せた」
そう言ってリチュオルは奥の部屋へと姿を消しました。
「なんだよあれ。ムカつく」
「あとはって、ずっとギャランに任せっぱなしよね？」
「なにか怒らせるようなことしたかな？」
「おなか空いた」
4匹の言葉にギャランはクスリと笑う。
「本当は心配してたんですよ。皆さんは気づかなかったかもしれませんが、僕が声をかけるより先に、師匠の使い魔のフクロウが、皆さんの上空を飛んでいましたから」
4匹が信じられないといった感じで顔を見合わせると、ギャランますます可笑しくなったようで、声をあげて笑った。
「道具に関する相談は明日にしましょう。
いま食事を用意しますから、今日はゆっくり休んでください」
ギャランの言葉に4匹は揃って頷きました。
「バカね。あれが自動車ってやつよ」
「うわー。話には聞いていたけど、街っていろんな匂いが混ざってて、ちょっと気持ち悪いかも」
「ほえー。魔女の里とは全然違うんだね」
『ドロンへようこそ‼』と書かれた看板の陰に隠れながら、街へと続く舗装された道路を眺め、4匹は思い思いの感想を口にします。
夜になってからだいぶ時間が経ちましたが、なんとか1泊もせずに森を抜けることができました。その安心感からか、今は空腹と眠気に襲われて、4匹の声にはいまいち元気が足りません。
「困ったわね。森で1泊するよりはマシだと思って抜けてきたけど、この時間だとお店も閉まってるだろうし、協力者っていう男の人も寝てしまっている可能性があるわね」
リオがおおばば様からもらった地図を眺めながら、困ったように言いました。
「どこか休めるところあるかな」
「そうだなぁ。この姿じゃ、宿にも泊まれないしな」
「おしゃべりしてるの見つかってもダメだしねぇ~」
「いえ、もう見つかっちゃってますし」
「「「「え⁉」」」」
４匹が一斉に驚きの声をあげる。
黒髪のくせ毛の強い、眼鏡をかけた穏やかそうな容貌の少年が、4匹のすぐ後ろで、困ったように頭をかいて４匹を見下ろしていたのです。
「だっ、誰だよ！ ぶっ飛ばすぞ！」
シィーラが他の3匹をかばうように前に出て、四本の指をギュッと握りしめる。
「わわ！ 待ってください、待ってください！
僕は弟子なんですよ。弟子！
貴女方が訪ねようとしているリチュオル・テイルの。魔女の里のおおばば様から連絡がきましたので」
「迎えに来てくれたのね」
リオがそう尋ねると、少年はまた困ったように頭をかきました。
「師匠はほっとけって言ってたんですけど、厄介な呪いをかけられていると聞きましたので……。いや、なんと言いますか、みなさん実に可愛らしい。
あ、これ。一応、証拠として持ってきました。魔女の里のおおばば様が魔法で送っていらした手紙です。確認してください」
少年が差し出した手紙をシィーラが受け取り、中身を確認しますが、首をひとつ捻ってリオに渡します。
「見極める自信がないなら、開く前に渡しなさいな」
「う、うるさいな。もしかしたらわかるかもって思っただけだい！」
リオはシィーラの文句は聞き流し、おおばば様からの手紙の中身をしっかりと確認し頷きました。
「うん。間違いないわね。おおばば様の字だし、残っている魔力の残滓もおおばば様の魔力で間違いないわ」
「良かった。信じてもらえたようですね。
それでは、僕について来ていただけますか？
薬局……リチュオル・テイルの家までご案内します」
「あ、はい。あの、ところでお名前は？」
イトルが怖々尋ねる。
「わわ！ すいません。僕はギャラン・テイルです。えっと、ハリネズミがシィーラさん、ビーバーがリオさん、スカンクがイトルさん、鳥さんがブリサさんでよろしかったですよね」
「正確にはシマエナガだけどね～」
そう言ってブリサは、翼をはためかせて飛びあがり、ギャランの頭に着地する。
「テイルと言うことは、ギャラン君はリチュオルさんの息子さん？」
イトルの言葉にギャランは首を横に振る。
「血のつながりはありません。
一応育ての親とはなるんですが、籍を一緒にしているだけで、父親っていう感じではないですしね。
さて、とにかく家に行きましょう。
その姿で街にいるのは、いろんな意味で危険だと思いますから」
「そうだね～。よろしく～」
ブリサが頭の上で間延びのした返事をすると、ギャランは笑って他の3匹に手を伸ばす。
「皆さん、ちょっと失礼しますね」
そう言って、シィーラを上着のポケットに入れ、イトルとリオを両脇に抱えました。
「ちょっと！ 歩いてついて行くわよ！」
「わわ！ ごめんなさい！ でも、首輪がないので、こうしていないとペットとはごまかせません。
この街は、野生動物がのほほんと歩いていられるほど安全ではないんです。ここからそんなに遠くはありませんので、少しの間我慢してください」
「わかりました。あの……重いかもしれないけど、よろしくお願いします」
「そんなことはありませんよ。それじゃあ、行きましょう」
イトルの恥ずかしそうな言葉に、ギャランは微笑みでかえすと、そのまま街の中へと歩きだします。
ギャランの言った通り、10分も歩かぬうちに、リチュオル・テイルの薬屋兼住宅に到着しました。
大通りに面した店の電気は消えていまいたが、住居になっているらしい２階の窓から明かりが漏れていました。リチュオル・テイルはまだ起きているようです。
ギャランは脇道からお店の裏手に回り、イトルとリオを降ろすと、裏口の鍵を開けて中に入りました。
「ただいま戻りました」
裏口からすぐのところにある、階段の上に向かってギャランが声を上げましたが、上から返事は帰ってきません。
「寝ちゃってるのかな？」
「でも、電気は点いていたわよ」
「なにかお仕事してるんじゃないのかな？」
「電気点いてても眠れるしね～」
「いえ、きっとタバコを吸っているだけです。返事が返ってこないのは、いつものことですから」
ギャランが苦笑しつつ、シィーラとブリサをそのままに階段を上がっていく。イトルとリオも、それに続きます。
「師匠、連れてきましたよ」
上がってすぐの明かりが点いている部屋にギャランが入っていくと、そこには無精髭の中年の男がひとり、煙を口から吐き出しながら、ソファーに気怠そうに身を預けていました。
「あのババァ、厄介事を送ってきやがって」
「なに言ってるんですか。魔女の里がこのままだったら、師匠の生活だって困るでしょうに」
ギャランが呆れた様子でそう言うと、ソファーに腰を掛けていた中年男リチュオルは、ふんと鼻を鳴らしたのです。
「うわー、感じワルッ！」
「感じというか性格ね。悪いのは」
「ダ、ダメだよ、２人とも！ そんな本当のこと言っちゃ！」
「イトルちゃんとどめを刺しに行くね～」
「クッ！ やかましい生ものどもが！」
リチュオルは吸っていたタバコを灰皿に押し付け、立ちあがる。
「俺は疲れたから寝る。ギャラン、あとは任せた」
そう言ってリチュオルは奥の部屋へと姿を消しました。
「なんだよあれ。ムカつく」
「あとはって、ずっとギャランに任せっぱなしよね？」
「なにか怒らせるようなことしたかな？」
「おなか空いた」
4匹の言葉にギャランはクスリと笑う。
「本当は心配してたんですよ。皆さんは気づかなかったかもしれませんが、僕が声をかけるより先に、師匠の使い魔のフクロウが、皆さんの上空を飛んでいましたから」
4匹が信じられないといった感じで顔を見合わせると、ギャランますます可笑しくなったようで、声をあげて笑った。
「道具に関する相談は明日にしましょう。
いま食事を用意しますから、今日はゆっくり休んでください」
ギャランの言葉に4匹は揃って頷きました。
