ここは深い深い森の中。
 大昔に行われた、『魔女狩り』の難を逃れた魔女たちの子孫が、ひっそりと暮らす魔女の里。
 この里で同じ年に生まれ、まるで姉妹のように育ってきた4分の1人前の魔女の少女たちが四人、元気に暮らしていました。
 四人はなにをするのも一緒。
 四人で笑って楽しく過ごし、時には怒って喧嘩して、泣いて謝って仲直り。
 お揃いのローブと三角帽子、それぞれの身体に合わせた杖を持って、今日も四人は一緒です。里の大人たちから入ってはいけないと注意されていた、里から少し離れた洞窟の中へ大冒険。


「ね、ねぇ……本当に入るの? やめようよ。おおばば様もここには恐い魔物が住んでいるから近づいちゃいけないって言ってたよ。見つかったらすごく怒られるよ」

 四人の一番後ろを、前を歩く少女のローブを掴みながら、おっかなびっくりについていく小柄な黒髪の少女が、目じりに涙を浮かべて言えば……。


「もう!相変わらずイトルは臆病なんだから!
 大丈夫だって。たんに暗くて岩とかごつごつしてて危ないからってだけだって。
 それに仮になんかいたって、ボクがやっつけてやるんだから!」


 四人の先頭に立って進む四人の中で一番体格の良い灰色髪の少女が、力拳を上に突き上げて高らかに宣言します。


「はいはい。そんなことよりシィーラ。懐中電灯点けて進んでちょうだい。暗闇でも周りが見えるのはあなただけなんだから。」


 イトルに服の裾を掴まれている少女が先頭のシィーラにそう声をかける。美しい光沢のある赤髪をひざ裏まで伸ばした顔立ちの整った美少女。しかも、ただ美しいだけでなく、しっかりと化粧までしている。全員が13歳という中で、一人だけずいぶんと大人びています。


「わかってるよ! リオは煩いんだから。って、こらブリサ!
 こんな所で寝るな! 立ったまま寝るな!」


 懐中電灯を点けたシィーラに怒鳴られ、リオの隣で半眼でうつむいていた、雪のような純白の髪を持つ、ぽっちゃり体型の少女が、はっと顔をあげます。


「えへへ♪ ごめんね~。ここ暗くってじめじめしてて~、なんだかとっても寝心地がよさそうで~♪」

「あなたはどこでも眠れるじゃない。ほら、イトル。私の後ろに隠れていないで、眠りの香りをだしてちょうだい。ブリサはそれを奥に風で運んで。
 そうすれば、なにかいたとしてもみんな眠っちゃうわ。これでイトルも恐くないでしょ? うん、完璧ね。私の作戦」

「う、うん! それなら……」
「えー。そんなのつまんなくね」
「先に眠っちゃたらごめんね~♪」

「同時に喋んないでよ。異議は認めません。この冒険は内緒なんだから。
 シィーラだって別に怒られたい訳じゃないでしょ?
 みんなまだ治癒魔法はあんまり上手く使えないんだから、もしものことがあったらたいへんよ。頑丈なのは、あなただけなんだから」

「ちぇっ。わかったよ。もう! あなただけ、あなただけって。しょうがないだろ? 得意なの身体強化魔法だけなんだから……」


 拗ねてみせるシィーラをしり目に、リオはイトルの背中を押して前に立たせました。
 イトルは周囲をちらちらと気にしながら、両手の手のひらを10回ほど擦り合わせてから、手のひらを上へと向けます。
イトルの手のひらの上に青白いキラキラしたなにかが浮かんでいました。
今度はそのキラキラに向かって、ブリサが片手をかざす。
すると、青白いキラキラは、イトルの手から離れ、洞窟の奥へとゆっくりと飛んでいきました。


「イトル、もっと出して。ブリサは風を強めて」


 二人がリオの言葉に素直に頷きます。
 イトルは先程と同じ行為を繰り返して、キラキラを沢山だし、ブリサは両手をキラキラにかざします。
さっきよりも多くのキラキラが、今度は勢いよく奥へと運ばれる。


「もういいんじゃねーの?」

「そうね。二人ともお疲れ様」

 1分程続けたところで、シィーラとリオが声をかけ、イトルとブリサが魔法をとめます。


「うっし! それじゃあ、冒険再開といきますか!」


 自身の右拳を左の手のひらに打ちつけたシィーラの言葉に、三人が揃って頷いたのでした。