そりゃ会社としては実績のある職員をトレーナーにした方がいいわよね。
それなりのスキルを伝授出来るんだし。
でも敏生の考えも斬新でいいのかもしれない。
あたしがいいヤツっていうのはちょっと照れ臭いけど…

「…いいヤツって…。あたしが善人って事?」

「まあな。営業は誠実な人間が最後は勝つって俺は思ってっから。そういう意味で、何も知らないヤツにお前が人として正しい、真面目な営業力を仕込むんだよ。一人でも多く、そんな外交員を作って欲しいんだ」

「なんか、責任重大じゃない?失敗したら…アンタにも迷惑かけちゃうかもしれないし…。無理よ、絶対…」

あたしの弱気発言を敏生が一喝する。

「お前にメーワクかけられんのなんて、慣れてっから。そんな理由で断んな」

「…………」

「俺は…結婚して、お前を家に閉じ込めておきたくはない…。慣れない土地で不安もあると思うけど…お前らしく、思いっきり好きな事して欲しいんだよ」

敏生の気持ちはすごく有難い。
でも、不安の方が勝ってしまう。

「だったら…別にKK生命じゃなくても、テキトーにパートみたいな仕事するわよ。医療事務の資格も…一応持ってるし」

あたしは伏せ目がちにそう言った。