「そりゃ…ないって言ったらウソになるわよ…。いったん辞めて、復帰して…。これからって時なんだから…」

あたしの言葉に敏生が大きくうなずく。

「俺もそれが一番気にはなってる。けど…わがままなのはわかってても、俺はお前にそばにいて欲しい。離れて過ごした期間で、イヤってほどわかったんだ。お前がいなきゃ、俺はダメだ…」

「それは…あたしも…おんなじよ…」

「尚美…これはあくまでも俺からの提案なんだけど…」

そう前置きをしてから、敏生は話し出した。

「お前さ、トレーナーの試験受ける気ない?」

トレーナー?
新人教育を主な仕事とする、会社の中ではわりと重要なポストよね?

「トレーナーって…。あたしが…?」

驚いて尋ねるあたしに、敏生は微笑む。

「そう。トレーナーになれば営業みたいにノルマはないけど、そのかわり新人が試験に受かるように指導しているかどうかって評価はついてまわる。それに営業のやり方なんかも同行訪問して指導したり。それはお前も知っての通りだ。でもな、俺は尚美みたいないいヤツがトレーナーになるべきだって思ってる。営業時代の成績がいい職員がトレーナーになってる現状は、どっか違うって思うんだ」