「思い出した?俺たちの記念すべき出会いの場所」

見上げる敏生の顔は、今までに見た事がないくらい嬉しそうにほころんでいて。
思わずあたしもつられて笑顔になる。

「うん…。色々…思い出してた…」

「今となったらエステサロンのオーナーと藤堂に感謝じゃねーか?」

はい?
さすがにそこまでは思えないわよ?

「それは…ちょっと違うわよ…」

あたしの答えに納得できない敏生に言い返される。

「なんでだよ?あれがなきゃ、今はないぜ?」

「そう…かもしれないけど…。あたしが汚名を着せられたのがよかったの?」

「そーだな」

敏生は悪びれもせずにそう言った。

「ちょっと!どーいう事よ!?アンタはあたしがそんな目に遭っても平気なの?」

「なわけねーだろ。あくまでも、俺にお前を引き合わせてくれたってだけだ。お前にやった仕打ちは俺が仇討してやっから。心配すんな」

仇討?
そんな事…
今となってはもう、どうだっていいわよ。

「心残りは…ないか?」

そう…
いよいよあたしは敏生と結婚するんだ…。
そうなれば会社を退職か、もしくは転勤しなきゃいけない。

営業として続けて行くのは難しいかもしれない。地盤がないとなかなか新規契約はとれないから…。
今の顧客は継続できたとしても、新天地では…。