富美子はあたしと目が合った途端、ニヤーっと笑った。
もしかして…この子はグル？

「尚美…左手を」

突然聞こえた敏生の声に驚いて振り向くと、右手に指輪を持ち左手をあたしに差し出していた。
なんとなく流れで敏生の手に自分の手をのせてしまった。

敏生は慣れた手つきで指輪をあたしの薬指にスッとはめる。
その瞬間、列席者から大きな拍手が会場いっぱいに鳴り響いた。

「おめでとう、尚美ちゃん…。これで正式に皆にもお知らせできたね！」

満面の笑顔で富美子が言う。

おめでとう…なの？
なんか、あたし…
ビックリし過ぎてなんだか…
なんだか、泣きそう…。

「ヤだ…。尚美ちゃん、泣かないでよ…」

富美子が困惑してあたしを抱き締めると、スッと水谷さんが富美子をあたしから離した。
そして今度は敏生があたしをスッポリとそのしなやかな両の腕(かいな)で包んだ。

敏生の胸が温かすぎてあたしは泣き止むどころか一層激しく泣いてしまい。

それはほとんど号泣に近かった。