だが氷メガネは突然指輪を箱にしまった。

「やっぱやめた。行くぞ、尚美」

あのさー…
さっきから全然状況がつかめないんですけど。
アンタ、いくらなんでもマイペースが過ぎやしませんか?

ソファに座ったままのあたしの腕を掴んで立たせようとした氷メガネに、あたしはもう我慢も限界だった。
そして店にいるにもかかわらず、いつもの調子で怒鳴ってしまった。

「アンタ!いい加減にしなさいよ!なんの説明もなしに、いきなり何よ!あっちこっち振り回されてるあたしの身にもなりなさいよ!」

店内のお客さんや店員さんが驚いてあたし達を見てるけど、あたしにとってはそんなのどうだってよかった。

「あたし、こういうのついてけない。やっぱりあたしとアンタは価値観も違うんだよ」

あたしはそれだけ言って一人で店を出た。
方向もよくわからないけど、とにかく歩いた。
あてもなく今ここがどこかもわからないまま。
後ろを振り返る気すら起きない。

今アイツの顔なんて見たくなかった。
いつもはあたしが何も言わなくたって、ちゃんと気持ちを汲み取ってくれたのに。
どうして今日はしてくれないの?

あたしがワガママ過ぎるの?

氷メガネのさりげない優しさが当たり前だと思っている、あたしが悪いの?