そこへ一番最初に応対してくれた店員さんが戻ってくる。
手には白い手袋をはめ、店の名前が入った小さな紙袋を持っていた。

そしてあたし達の向かい側のソファに座り、紙袋の中からビロードでできたような小さな箱を取り出した。

なんだ、なんだ?
このシチュエーションは?

店員さんはその箱をあたし達に見えるようにパカッと開いた。

中に入っていたのは…
信じられないくらいキラキラと輝く、ダイヤモンドの指輪…。

ちょっと…
ちょっと、待ってね…。
今、頭の中を整理しますから。

えーっと、これは指輪ですね…。
てことは、どーいう事でしょーか。

「つけてみられますか?」

笑顔で店員さんが言う。

「お願いします」

氷メガネは躊躇する事なく店員さんに答えた。

わけがわかっていないのは間違いなくあたし、ただ一人…。

店員さんは箱からそっと指輪を取り出した。

差し出されたその指輪をどうしたらいいのかわからずにいると、店員は氷メガネの方に向き直った。

「どうぞこちらは新郎様からお渡しいただけますか?」

店員さんはにこやかに笑って、その場を立ち去った。

シンロー?シンロー…?

あたしは頭がパニックになり、同じ言葉を脳内リピートする。

「尚美、左手」

は?左手?

いまだに緊張で固まり続けるあたしにしびれを切らした氷メガネは、パッとあたしの左手を掴んだ。