突然のあたしの申し出に水谷さんは驚いて言った。

「僕が喫煙者って、どうして？あ、もしかしてタバコ臭いですか？」

水谷さんはそう言って、自分の体をクンクンと嗅ぎ始める。

「いえいえ、違います！そうじゃなくって…。覚えていらっしゃらないみたいだけど…、実はあたし、水谷さんとは初対面じゃないんですよ？」

あたしの告白に、水谷さんはもちろんだが、氷メガネと富美子まで驚いている。

「え？尚美ちゃん、それ、どういう事？」

あたしはＭ市のデパートの喫茶店で水谷さんと会った時の話をした。

「あっ！そういえば、あの時の…、名刺まだ持ってますよ！そうか…、あなたが…。いつも富美子があなたの話をしてたのに…気づきませんでした…。すみません」

水谷さんはそう言ってあたしに謝った。

「いえ、水谷さんがあたしを覚えていないのは当たり前です。あたしもあなたの事に気づいたのは随分後からです」

「そうなの？尚美ちゃん？」

富美子が相変わらずハトが豆鉄砲をくらったかのような顔で聞いてくる。

「うん…。ちょうど水谷さんと喫茶店で会った後に、富美子に会って。事情を聞いているうちに富美子の好きな人と、あたしが喫茶店で会った人が同一人物だってね。だからって、その時のあたしがどうしてあげる事もできなかったんだけど。だから今、二人がこうなってくれて、安心した…」