言い返そうと思って口を開こうと思ったのに、なぜか出てきたのは罵声どころか…
なんと涙で。

あたしは自分でも無意識に出てしまった涙に戸惑った。
それにもっと戸惑ったのが、いわずとしれた氷メガネで。

「な…なんだよ…。泣くことないだろ?
こんなのいつもの事じゃねーか。お互い、慣れっこじゃねーのかよ…?」

そう…思ってた…
あたしも。
でもなんでかわかんないけど、泣けてくるんだもん!

あたしだって…
泣きたいわけじゃない。
でも…やっぱり…ショックなんだよ。

アンタが…
そんなに美緒さんを好きだったって事も、それをいまだに引きずってるって事も…。

だからって…
それを言ってどうなるわけでもないんだけど。

黙って涙を流すあたしの隣で、氷メガネが突然優しい声で言った。

「尚美…。大丈夫だって。信じてくれよ…」

え?
あたしはオロオロと目を泳がせる。

すると氷メガネは急に車を道路の端に寄せてとめた。
そしてエンジンはつけたまま運転席から腕を伸ばし、あたしの事を上半身だけ抱きしめた。

「な、何よ、急に…」

「黙ってろ」

あたしは言い返す事も、氷メガネの体をはねのける事もできずただそのまま氷メガネに体を預けていた。