驚いてあたしを見たお兄さんは…
直後、大声で笑った。
そしてひとしきり笑った後、あたしに言った。

「尚美さん…アンタ、スゲーよ。この朴念仁の敏生を、よくそこまで手なずけたね…」

朴念仁…
確かにそーよね。
初めて出会った頃のコイツは…

貴和子さんが結婚できないかもって焦ったのもわからなくもない程性格がひんまがってたもんね。

「手なずけたなんて…あたしは何も…」

「おい。今さらそんなかわいこぶったってもう、おせーぞ」

氷メガネが笑いながらあたしをからかう。

「なんで?」

「お前さ、さっき兄貴にどえらい声で怒鳴ってたじゃねーか。しかもすっげー言い方で」

あっ…
そっか…
そうだったわね…。

あたしはいきなり恥ずかしさが募り、下を向いてしまった。

そんな時、ずっと沈黙を守っていた貴和子さんがやっとの事で口を開く。


「あの…悠生…。私も謝らせて欲しいの…。
あの人の仕打ちをわかっていながら…あなたを守ってあげられなくて…本当にごめんなさい。それに美緒さんにも…辛い思いをさせてしまって…。あの時私がもっと強かったら…あなたにも、敏生にも、あんなに苦しい思いをさせずに済んだのに…。今さら謝っても、もう遅い事はわかってます…。だけど、本当にごめんなさい…」

複雑な心境なんだろう。
お兄さんは黙ってうつむいたまま、何も答えてはくれない。