「あっ！でも、飲み物は控えめにしといて下さいね！ここからだと、近くにトイレが見つからなかったんで」

「そうね、立ちションもできないしね」

アンタ、立ちションって…
元高級官僚の奥様が言う言葉ですか…。

どれくらい時間が経っただろう。
車の時計はもうすぐ十九時半になろうとしている。
すると店横の通路から二人の男性が出てきた。

一人は知らない人で…
もう一人は、お兄さん！
間違いない！

「貴和子さん！」

あたしの言葉よりも早く貴和子さんは運転席から外へ飛び出して行った。

貴和子さん…
やっぱりお母さんだよね…。

あたしが感動に浸っていると、外から大きな怒鳴り声が聞こえた。

「うるせー！二度とその汚いツラ見せんなっ！離せっ！」

窓の外で、貴和子さんとお兄さんが言い争っていた。
そして必死にお兄さんの腕を掴んでいる貴和子さんを、お兄さんがふりほどこうとしているじゃないか！

あたしは慌てて車から降りた。

「ちょっと！アンタ、いい加減にしなさいよ！」

あたしの声にお兄さんが驚いて、貴和子さんを掴んでいた手を離した。