女の子は一瞬驚きの表情を見せたが、「少々お待ちください」と言って小走りで厨房へ行った。

そして中には入らずドアから少しだけ顔を覗かせ、「すいません。伊藤さん、今よろしいですか?」と言った。

厨房の中から、お兄さんと思われる男性がこちらをチラッと見る。

あたしの顔を見て店員の女の子と何やら話をし、そのままこちらへ歩いてきた。

来た!
どーしよ!
マジで来ちゃった!

あたしは自分から会いたいと言ったくせに今さらながらブルってしまっていた。
あたしの目の前に立ちお兄さんは口を開いた。

「あの…僕に会いたいというのは…あなたですか?」

あら…なんか声が氷メガネと似てるわね…。
しかも、メガネを外したアイツにほんとによく似てる…。
少しの間顔を凝視したまま何も答えずにいると、お兄さんが不思議そうな顔をした。

「あの…失礼ですが…僕にどのようなご用件でしょうか?」

あ!
そうだった!
見とれている場合か!

あたしは姿勢を正して頭を下げながら言った。

「初めまして!あの…あたし…敏生さんの婚約者で…飯田といいます」

やだ、あたしったら自分で婚約者とか言ってしまったよ…。
でもこの場合めんどくさい説明してるヒマないから、これが手っ取り早くていい。