そして氷メガネは車のエンジンをかけ発進させようとした。
その瞬間あたしは思わずドアを開けて転げ落ちるように道路に飛び出た。

運転席の氷メガネが驚いて見ている。
でもあたしはもうとめられなかった。
自分の熱い思いを…
このまま胸に秘めていられなくなった。
氷メガネがあたしを追ってくる様子もない。
あたしはそのまま再び店に向かって走った。

そして行列の最後尾に今度は一人で並んだ。
時間も昼近くになるとさすがに行列も落ち着くのか、人の数も減ってきた。

あたしは常に最後尾に自分がくるように、あたしの後ろに並ぶ人に次から次へと順番を譲った。
そして誰もあたしの後ろに並んでいないのを確認し、あたしは再び店へと入った。

「いらっしゃいませ!」

かわいい女の子の店員が笑顔で挨拶する。

あたしはショーケースの中のシュークリームを探した。
あった…。
ほんとだ、顔が書いてある…。
かわいい…。

なんか見ているだけでこっちまで笑顔になるような…
そんなシュークリームだった。

"シュー・ア・ラ・クレーム・ドランジュ"と名付けられたそのシュークリームは、当店一番人気と書かれたポップがついていた。

あたしは店員の女の子に尋ねた。

「あの…伊藤さんに、お会いしたいんですが…」