厨房に消えたお兄さんは、そのままこの位置からは見えない所に行ってしまったようで。

どうしたらいいかわからず氷メガネを見上げると、唇をかみしめながら突然あたしの腕を引っ張った。

「行こう、尚美」

行くって?
帰るの?

でも…
ためらうあたしを気にもしないで、腕を引っ張ったまま車に戻った。

運転席に座って大きくため息をつき、そのままうなだれた氷メガネにどう声をかけていいかわからない。
しばらく続いた沈黙を突然氷メガネの笑い声が破った。

「ア…ハハ…。滑稽だな…俺は…。感動的な兄弟の再会なんて…できるわけねーよな…」

そして自虐的な笑いを続ける。
あたしもこの状況には何も言ってあげられずに黙ってしまう。

でも…
こんなにあっけなく終われない。
このままでもし二度と会えなくなったら…
後悔してもしきれない。

「待とうよ。ここで」

あたしの言葉に氷メガネが大声で笑い出す。

「アーハッハ!バカか?お前は?待ってたって、会えるわけねーだろ?アイツが俺と会いたくねーんだから」

どーせあたしはバカよ。
けどそんなバカなあたしがいいって言ったのは、どこのドイツよ!?